コッカーとトリースが荒ぶりました
「ん……んしょ……ん、あぁ!」
「っとと! ジェーンさん……」
「……今のは、確かに私も見ました。間違いなく、途中で何かに当たったかのように動きが変わりましたね」
今度も先程と同じように、肉のキャッチボールをするゲルダさんの手を離れて、放物線を描いたハンバーグのタネ。
構えていたおかげで、落とす事なくキャッチしてすぐジェーンさんに確認。
すると、深く頷いて不自然な事があったと報告してくれる。
やっぱりそうか……疑って見ていたからか、その不自然さに気付く事ができたんだと思う。
「一応、念のため……ゲルダさんの手の間に、何かがあるわけじゃないですね。そもそも、何も見えないですけど」
「えっと……?」
「ですが、先程の動きは確かに、手の間に何かがあるとしか……」
両手をキャッチボールしていた時の形のままのゲルダさん、その手と手の間に俺の手を通過させたけど、何も引っかかる物はない。
手を止めて、俺とゲルダさんの所へきたジェーンさんは、難しい表情をして考えている。
ゲルダさんは、何がなんだかわからず戸惑うばかりだけど。
「そういえば、さっきも不自然な事が何度かあったような……?」
不自然な失敗と考えて疑っているからこそ、だと思うけど……何度か似たような事があったのだと気づく。
タネの入った器をひっくり返した時、確かにゲルダさんの手の位置が丸いボウルのような器のバランスを崩したのは間違いないけど、よくよく考えれば、器の端の方に誘導されていたように思える。
ゲルダさんは、器の真ん中に手を向けていたのに。
それ以外にも、形を作る時に方へと力が入り過ぎていたのは間違いなくとも、手元はタネを潰して手からはみ出させる程、力が入っていなかったようにも思う。
……全部、疑ってかかって初めて気付くというか、思い込みも入っているのかもしれないけど。
それにしても、ハンバーグのタネが途中で軌道を変えるというのは、おかし過ぎる。
「とは言っても、ゲルダさんの意思じゃなさそうだし……どういう事だろう?」
「魔法の感じはありませんでしたから……とすると、考えられるのはタクミ様やティルラお嬢様のような?」
「いや、さすがにそれは……料理だけでなく、色んな事を失敗する能力っていうのは……」
ゲルダさんが置いてきぼりになっているのを申し訳なく思いながらも、ジェーンさんと話しながら考える。
俺もジェーンさんと同じく、魔法の気配のようなものは一切感じられなかったから、違うと思う。
でも、そこからジェーンさんはもしかしてギフトと考えたんだろうけど、さすがにそれはな。
魔法じゃない不思議な事象が全て、ギフトになるわけでもなし、料理を失敗させるギフトっていうのも微妙だ。
料理を美味しく作るためのギフト、とかならありそうだけど。
ゲルダさんの失敗は、料理に関してが一番酷いとはいえ、他の事でも失敗するからなぁ。
「チチ、チチチチ!!」
「コッカー? そこは調理台だから、上に乗るのは……」
どうしたもんか……と考えていると、コッカーが突然翼をパタパタとはためかせて、調理台に乗った。
構って欲しいのか、それともお腹がいっぱいになっていたはずなのに、まだお肉が欲しいのか。
ともあれ、足を拭ってもいないのでそのまま調理台に乗るのは不衛生だと、注意する俺。
「チチ、チチチー! チチチチチチ……」
「な、何をしているんだ?」
「何もない場所を、くちばしで突いていますね……」
「コ、コッカーはどうしたのでしょうか……?」
俺の注意を否定、というか、拒否するように体全体を左右に震わせた後、何を思ったのか……コッカーはゲルダさん近くの虚空をくちばしの先で突いていた。
いきなりの事に、首を傾げる俺とジェーンさん、それとゲルダさんもだ。
何もない虚空とはいえ、方向的にはゲルダさんに向いてなので、困っている様子。
「チィー、チィチィー!」
「いてて……今度はトリースか。一体どうしたんだ……?」
コッカーが連続でくちばしを繰り出している中、俺の足をつついたトリースが、翼を広げながら鳴いて謎の主張。
俺に気付いて欲しかったんだろうけど、くちばしで突く時はもう少し加減して欲しい、ちょっと痛いから。
「チィー、チィー……!」
「うーん……わからない。――おーいリーザ! ちょっと来てくれー!」
コッカーやトリースとは、それなりに仕草である程度の意思を確認できるくらいにはなっているけど、今は何を伝えたいのかが一切わからなかった。
なので、通訳を召喚!
ティルラちゃんはギフトを使う事になるので、リーザを呼んでみた。
「パパ、どうしたのー?」
「いや、トリースが何か伝えたいらしいんだけど、俺にはわからなくてな?」
「わかったー、トリースに聞いてみるね」
「チィー……!」
呼ばれて飛び……出てはいないけど、俺の呼びかけにこちらへと来てくれるリーザ。
それはいいけど、手にハンバーグのタネを持ったままは止めような? そっとリーザの手から、タネを受け取りつつ、トリースの主張を通訳してもらえるようお願いする。
ちなみにこの間も、コッカーはくちばしの連続突きを続けており、ゲルダさんは自分に向かってやっているのかと戸惑うばかり。
ジェーンさんは先程感じた不自然さがあったためか、突かれている虚空をジッと見つめている。
リーザもコッカーには気付いたけど、不思議そうに首を傾げただけで、すぐにトリースの通訳をしてくれた。
「ふんふん……なるほどー、そうなんだね!」
「リーザ、トリースはなんて言っているんだ?」
うんうんと頷いて、トリースの主張を聞いているリーザ。
身振り手振りはあるとしても、「チィーチィー」としか言っていないのに、内容が理解できるのは凄いな……。
身振りの方は、翼をパタパタさせるだけなのでよくわからないし。
「えっとね、コッカーはいい加減に姿を現せーって、あれをやっているみたい」
「姿を……?」
「あそこに、何かいるんだってトリースが言っているよ?」
つまりコッカーはゲルダさんの近くにいる何者かに対して、くちばしを繰り出しているわけか。
見えない何か……そういえば、以前シェリーがつまみ食いをしていた時に、姿が見えない魔物がいるってセバスチャンさんが言っていたから、それなのか?
いや、それだったら姿を現せという事には繋がらない? コッカーもトリースも、その何者かに怒ってはいても慌てたり警戒をしている様子はないから、危険ではないんだろうけど――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します







