ゲルダさんはどうしても失敗してしまうようでした
「んしょ……あっ! す、すみません!」
「まぁまぁゲルダさん、気にしないで。落ち着いて下さい」
「チチ!」
「チー!」
開始されたハンバーグの調理。
既に捏ねてあるタネを成形するため、適量を取って形を整えようとするゲルダさんの手から、半分近くが地面に落ちた。
慌てて謝り、拾おうとするゲルダさんを静止して、コッカー達がつまみに来るのを見守る。
コッカー達って、生肉でもお構いなしなんだな……最初より体が大きくなっているから、結構食べるし……まぁ、虫を食べているくらいだから、生肉くらい大丈夫か。
「ちょっと肩に力が入り過ぎているかもしれませんね。ほら、リーザみたいに楽しんで……あっちはあまり参考にしない方がいいかもしれません。とりあえず、深呼吸を……」
失敗しても気にしていないと、笑いかけつつきゃっきゃとはしゃいでいるリーザの方を、手本にしてもらおうとしたけど……あちらはライラさんやティルラちゃんと一緒に、芸術作品作りに勤しんでいた。
リーザに芸術的才能があるかはともかく、砂遊びで土の像を作る遊びの延長みたいな感覚なんだろう。
リラックスしているのは間違いないが、手本にするには微妙なのでとりあえず深呼吸を勧めた。
「は、はい……スー……ハー……」
良かった、ちゃんと深呼吸してくれている。
よくラマーズ法で落ち着こうとするような物語とかもあるけど、そこまでゲルダさん自身はパニックにはなっていないようだ。
冷静と言う程でもないだろうけど。
「うぅ、また失敗しました……」
「うーん、どうしてもちゃんと形を作れないですね……」
何度か成形を試してみたけど、力の入れ過ぎで手からニュルッとミンチ肉が飛び出して地面に落下、なんとか形を作れたと思ったらボロッと崩れて半分近くが地面に落下、挙句慌てて新しいタネを取ろうとしたら、入っていた器をひっくり返して調理台にぶちまける等々……。
何か、そういう呪いでもかかっているんじゃないかと思えるくらい、失敗続きだ。
緊張し過ぎているとか、注意力が散漫になっているとか、そういう感じじゃないんだよなぁ……。
幸いなのは、ミンチ肉を形成するだけの作業で刃物を使わないため、今のところほとんど手を切ったりなどの怪我がない事くらいか。
それでも、器をひっくり返す時に手を調理台にぶつけたり、足を躓かせたりもしているんだけど……打ち身くらいはできているかもしれない。
「チチ! チチー!」
「チィー! チィー!」
「いや、コッカーもトリースも、ゲルダさんの失敗を求めるんじゃない」
地面に落下したタネの処理班になっているコッカー達は、喜んでくちばしでついばんで食べている。
ただ、相当な量を食べたにもかかわらず、もっと欲しいと言うようにゲルダさんに対して鳴いていた。
たらふく食べられるからって、失敗を求めるのはさすがにな。
「というか、さっきの器をひっくり返したの、少し不自然だったような……?」
「すみません、すみません! やっぱり、私は料理をしない方が……いくら落とした物をコッカー達が食べて、無駄にならなくても……」
「まだコッカー達には余裕がありそうですし、大丈夫ですよ。なんとか、一つくらいは作ってみましょう!」
「は、はい。タクミ様がそこまでおっしゃるのであれば……」
こういうのは、失敗し続けてトラウマになったり苦手意識が根付いてしまうと、厄介だからな。
成功体験の一つくらいはさせておきたいところだ……ハンバーグの成形くらいで、大げさかもしれないけど。
もしかすると、それがきっかけでいい方向になる事だってあるかもしれない。
「うーむ……どうしても、完全にでき上がる前に何かの失敗をしてしまうんですね……どうしたもんか……」
「申し訳ありません。気を付けてはいるのですが……」
「チチ~」
「チィ~」
ゲルダさんに手本を見せたり、落ち着かせたり、慌てないよう一つ一つ確認しながら、ゆっくり成形するようにしても、ちゃんと焼く工程に出せる形を作るまでには至らない。
注意深く取り組んで、ちゃんと気を付けて真剣にやっているのは、ゲルダさんを見ていてもわかるんだけど……。
ここまで来ると、作為的な何かを感じてしまうくらいだ。
……ゲルダさん自身がそうしようとは思っていないのに、作為的も何もないとは思うんだが……。
「パパー、見てみてー!」
「……すみません、ゲルダさん。少しだけ離れます。あんまり無理はしないで下さいね?」
「は、はい!」
リーザに呼ばれたので、少し様子を見るためにゲルダさんの傍を離れる。
一人になってしまうけど、近くにいるしジェーンさんもこちらを見て頷いてくれたので、危険はないだろう。
そもそも、危険な事が起こるような作業じゃないし。
「どうしたリーザ……って、凄いなこれ」
「へへー、ティルラお姉ちゃんやライラお姉さんと一緒に作ったの!」
「どうですか、タクミさん!」
「……つい、力が入ってしまいました」
様子を見るためリーザの所へ来るとそこには、調理台の上に鎮座する城があった。
細部の装飾なんかも作り込まれていて、一つの作品として完成している。
砂浜で砂の城を作ったりもするけど、ミンチ肉で作れるとは……リーザとティルラちゃんは誇らし気に、ライラさんはすまし顔ながら達成感を滲ませている。
楽しく、素晴らしい芸術作品を作って、本当にすごいとは思うけど……。
「うんうん、リーザもティルラちゃんも凄いな。ライラさんも。でも……残念だけどこれは……」
傑作とも言える城だけど、惜しむらくはそれがミンチ肉で作られている事だ。
生肉でどこをどうやれば作れるのかはわからないけど、これは崩さねばならない。
城このままじゃ焼けないし、形を残して置いたら当然腐るし……凍らせればある程度保存できるかもしれないが、長期間はさすがにな。
それに、城なのにお肉だから赤いし……芸術的には凄くても、やっぱりちょっと見た目は問題だ。
「うぅ……せっかく作ったのにぃ」
「リーザちゃん、美味しいハンバーグを作って見返しましょう!」
「食べ物で遊ぶんじゃなく、食べられるようにするんだぞー」
無慈悲な鉄槌によって、崩されて改めて成形待ちになる城……もといハンバーグのタネ。
何かしらの形を作るにしても、せめて焼いて食べられる形にして欲しい。
城だと表面はなんとか焼けたとしても、絶対中身まで火が通らないからな――。
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