勢ぞろいで見送りました
「「「「「皆様の旅のご無事を……行ってらっしゃいませ!!」」」」」
使用人さん達による、盛大な見送りで従業員さん達を驚かせた後は、俺達も一緒に屋敷の外に出る。
外では、荷物の積み込みなどが終わった馬車や馬、それからクレア達も揃っていた。
「それじゃ、またランジ村で!」
「ランジ村で待っています!」
クレアと並んで手を振り、従業員さん達を乗せた馬車、馬などが門を出て行くのを見送る。
フィリップさんやニコラさん達、護衛の人達はヘルサルまで一緒だ。
馬車の窓からは、幾人かの人達が顔を出してそれぞれ何事かを叫んでいたりする。
まぁ、ほとんど再会を約束するような挨拶だけど……デリアさんだけは、泣き声だったので何を言っているのかよくわからなかった……。
「ふふふ、皆さんとまた再会できる日が楽しみですね?」
「うん、そうだね」
デリアさんに苦笑している俺に、微笑むクレア。
「……皆が揃うまでに、俺も色々やっておかないとな」
「タクミさん?」
小さく呟く俺の声に、首を傾げるクレア。
いつどうするか……というのはまったく決めていないけど、従業員さんが全員揃うまでには場を整えて、伝えるべき事を伝えると決めた。
ランジ村での薬草畑が、本当に始まるんだという実感と共に、はっきりさせておかないといけない気持ちも沸き上がっているから。
「……あれ、レオ? フェリー達も?」
「どうしたのでしょう?」
「ワフ」
皆を乗せた馬車が見えなくなる頃、俺達の傍に最初からいたリーザを乗せたレオやリルルだけでなく、フェリーやフェン、ヴォルグラウが裏庭から出てきた。
キョトンとする俺とクレアに対し、レオが一声鳴いた後、俺達の前に出て整列した。
一歩前にレオがいて、その後ろにフェリー達フェンリルと一緒にシェリーを背中に乗せたヴォルグラウが並ぶ。
「ん?」
「あ、ラーレですね」
ふと影が足下に落ちたので見上げてみると、門の上部にラーレが止まり、広げた翼にはコッカー達が乗っていた。
「それじゃ皆、行きますよー!」
「ワフ!」
「ティルラちゃん?」
「ティルラ?」
さらに、俺達よりも後ろで控えめに皆を見送っていたはずのティルラちゃんが、大きく声を掛けながらフェリーの後ろにつく。
何が起こるのか、どうして整列しているのかわからないまま、俺とクレアは頭の上にハテナマークを浮かべるばかりだ。
「せー……のっ!!」
――アオォォォォォォォォン!!
――グォォォォォォォォォン!!
――キィィィィィィィィィ!!
「うぉ!?」
「きゃ!?」
ティルラちゃんの声を合図に、馬車が走り去っていく方角に向けて、遠吠えをするレオ達。
突然の事に、驚く俺とクレア。
後ろにいるのに、全身に振動を感じるくらいの声量だな。
ヴォルグラウとシェリーにコッカー達も、遠吠えしているようだけど、レオやフェンリル達、ラーレの声が大きくてよく聞こえない、けど確かに吠えていた。
「はい、お疲れ様でした、レオ様、ラーレ、皆!」
「ワフー」
「グルゥ」
「キィ~」
再び皆に声を掛けるティルラちゃん。
それに応えるように振り返り、それぞれティルラちゃんに頷きながら鳴いた。
「ティ、ティルラ……一体何をしたの?」
「私達で、皆をお見送りしようってなったんです! レオ様の遠吠えを思い出して、それで……」
戸惑いながら、ティルラちゃんに聞くクレア。
話を聞いてみると、従業員さんは俺やクレアが雇ってティルラちゃんには直接関係ないけど、倒れた時に心配してくれたのもあって、ティルラちゃん自身も何かできないかと考えたらしい。
お返しと言うわけではないけど、今朝俺がリーザの事でライラさんとバタバタしている時、フェリーやラーレ達と相談していたんだとか。
その時に、ティルラちゃんがレオの遠吠えを思い出して、遠くの仲間に声を届ける方法として採用。
さらに、旅の無事を願う意味と感謝の気持ちを込めて、一斉に遠吠えをしようと思いついたと。
その思い付きを後押ししたのがフェリーで、フェンリルやラーレ、さらに言うならレオが一番だけど、強い魔物の遠吠えは他の魔物を寄せ付けない効果もあると伝え、朝食後から見送りまでの間に整列する練習をしていたらしい。
ちなみに、レオとリーザには朝食後に伝わっていて、俺やクレアを驚かせようと内緒にする事にしたと……驚かせよう、という部分でフェンとリルルが顔を見合わせていたので、そちらの思いつきなんだろう。
「旅の無事か……確かに、レオや皆の遠吠えを聞いたら、魔物は近付きたくなくなるだろうからなぁ」
遠吠えには威嚇の意味もあるから……そういう意味を持たせて遠吠えしたかはともかく。
さっきのを聞いた魔物は、例え人間を見たら見境なく襲うような魔物であっても、恐れて近付こうとしないだろうな。
本能で、恐怖を感じるくらいのものだったし……従業員さん達には、確実に届くくらいの声量だった。
……走らせている馬が、怯えていないかは少し心配だけど。
「そうですね。――それにしてもティルラ、そんな事を考えていたのね?」
「はい! 昨日タクミさんと話して、皆と仲良くするためや、楽しくするためにって考えたんです!」
クレアの問いかけに、満面の笑みで応えるティルラちゃん。
成る程……皆が無事で、笑っていられるように……ティルラちゃんはそれが仲良くや、楽しいに繋がるって考えたんだな。
「それじゃ、ギフトを使ったのね?」
「はい。昨日タクミさんと一緒に色々試しましたから、大丈夫だと思って。やっぱり、直接フェリー達と話せるのは凄く楽しいです!」
これまで、ラーレやリーザを介しての会話だったから、誰も通さずにダイレクトに会話ができるのが楽しんだろう。
『疎通令言』の強制力よりもちゃんと直通で話せる事の方が、重要なようだ。
ティルラちゃんらしいな。
「どれくらいだと危険か、まではわからないけど……確かに、ギフトを意識して使用するのを試したからね。クレア達には、朝食の時に話したけど」
昨日のティルラちゃんとの話は、どんな内容だったかを既にクレアやセバスチャンさんには話してある。
もちろん、ジョセフィーヌさんの事は話さず、ギフトの意識だとか強制力だとかそういった話に終始したけども――。
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