ティルラちゃんは特別大きな魔力を持っていました
「はぁ……」
「クレア、今のは……?」
まだ眩んだ状態の目を慣らすように瞬きをしながら、横で俺と同じようにしつつ溜め息を吐いているクレアに問いかける。
セバスチャンさんは、ティルラちゃん達に背を向けて目を閉じていた。
「ティルラは、私以上に魔力が大きすぎるみたいなんです。ですから、通常の魔法具ではあのように眩く光ってしまって……イザベル、魔法具を確かめた方がいいわ」
「クレア様? はぁ……あ、魔法具にヒビが……」
クレアよりも、ティルラちゃんの方がかなりの魔力を持っているって事らしい。
目元を押さえて首を振っているイザベルさんに、クレアが促して確認してもらうと、水晶玉の真ん中から全体に行き渡るようにヒビが入っていた。
少し強めの衝撃を与えれば、バラバラに割れてしまいそうな程だ。
「……私、また魔法具を壊してしまいましたか?」
ヒビの入った水晶玉を見て、シュンとなるティルラちゃん。
以前にも同じような事があったのか……。
「またという事は、前も?」
「えぇ……確か以前は、完全に砕け散りました」
砕け散るって……前回はもっとひどかったのか。
今回はイザベルさんがすぐに止めたから、ヒビが入る程度で済んだんだろう。
「うぅ、ごめんなさい……」
「……これはもう使えないさね。――大丈夫だよぉティルラ様。私ゃ魔法具商店をやってんだ、これが壊れても代わりはあるさね!」
俯いて謝るティルラちゃんに、水晶玉を確かめていたイザベルさんが慌てて励ます。
故意じゃないにしても、お店の商品を壊したようなものだからなぁ……ティルラちゃんが落ち込むのもわからなくもない。
「イザベル、壊した魔法具の弁償はするわ。先に注意しなかった私が悪いんだもの。あとそうね……二回り大きな物を用意できるかしら?」
「それはまぁ……一通りそろえておりますが。でもクレア様、二回り大きいって人間の魔力を調べる物じゃありませんよ?」
「それでいいの。いえ、それ以上じゃないとティルラの魔力は測れないのよ。目的は魔力じゃなくてギフトの有無を調べる事だけど、さっきのように眩しく発光して壊れるんじゃ、調べようがないでしょ?」
「それは確かに。では、クレア様が仰る通りの物を用意してきましょうかね。少々お待ちを……」
そう言って、クレアのいう二回り大きな物を用意するため、ヒビの入った水晶玉を持って店の奥へと向かうイザベルさん。
日頃使っていないからか、かなり奥の方にしまってあるようだ。
……人間用じゃないらしいけど、だったら誰を調べるために用意された物だろう?
「人間用以上の物でないと調べられない……話に聞いていましたが、それ以上のようですな」
「セバスチャンさんは知らなかったんですか?」
「私が、今のようにティルラお嬢様やクレアお嬢様のお近くでお世話をさせて頂くのは、こちらの別荘に来てからですからな。本邸では、つきっきりではありませんでした」
そういやそうか……セバスチャンさんが馴染んでいる様子を見て、昔からクレアやティルラちゃんを傍で見守っていたと思いがちだけど、そうなったのはラクトス近くの屋敷、公爵家の別荘に来てからだもんな。
本邸には他の使用人さんが数多くいるらしいし、家令や執事長さんも別にいるみたいだから。
「私は以前ティルラの魔力を調べるのには同行しましたから、知っていたのですが……思い出すのが遅れました。何分、数年前の事でしたから。それに、レオ様の魔力を感じた後では、ティルラや私の魔力も微細なもののように思えますし」
「まぁ、レオは特別って事で……」
さっきのレオは、本当にすごかったからな……多分、レオの魔力を計れる魔法具なんて、この世に存在しないんじゃないかとさえ思える程だった。
いや、魔力を調べる魔法具が、各種存在する事自体今初めて知ったから、本当のところはわからないけど。
ちなみに、人間用ではない魔力を調べる魔法具というのは、従魔にした魔物などを調べるための物だそうだ。
魔力と一緒にギフトも調べられる魔法具を作ったのは、昔のギフトを持った人だったらしいけど……強力な魔物を従魔にする人を想定していたとかなんとか。
ヴォルグラウのようなウルフでも、人間と同じ物を使うと壊れてしまうから、必要な物でもあるらしい。
あと、ティルラちゃんは以前調べた時の事を覚えてはいたらしいけど、さすがに水晶玉……魔法具の大きさについては気付いていなかったらしい。
数年前の事だから、大きさなんて忘れても仕方ないよな。
それと水晶玉と俺は考えているけど材質はわからない……調べる時に触ったけど、ほんのり温かくてガラスとかプラスチックのような触り心地じゃなかったんだよなぁ、見た目はツルッとしているのに、ざらざらしていたし。
「お待たせしたねぇ、ティルラ様。持ってきたよ」
奥から出てきたイザベルさん……持っている水晶玉は確かにさっきの物より大きかった。
大きかったんだけど、大き過ぎない? イザベルさんが両手で抱えるくらいある。
ヒビの入った水晶玉は人の顔より小さいくらいだったのに、改めて持ってきた水晶玉は直径で言うと一メートル以上はありそうだった。
あれで二回り大きな物、なのか……。
「はい……すみません。壊してしまいました……」
「いいんだよぉ、形あるものはいずれ壊れる。それは魔法具だって一緒さね。それに……」
俯いて申し訳なさそうに謝るティルラちゃんに、イザベルさんは笑って答えながら、セバスチャンさんに視線を送る。
「……仕方ありませんな。その辺りは後でイザベルと私が話しましょう」
「ヒッヒッヒ、毎度あり」
鼻で息を吐いて、頷くセバスチャンさん。
これはあれか、弁償とかそういう話かな……まぁ、故意ではないとはいえ商売道具が壊れたんだから、そうなるのも仕方ないか。
さっき、クレアも弁償すると言っていたからな。
「あれって、どれくらいするんだろう……?」
「タクミさん、タクミさん。先程のはわかりませんが、高ければ大体……」
「ぶっ!!」
小さく呟いた俺の言葉に、コッソリ教えてくれるクレア。
値段を聞いて思わず吹き出してしまった……一番高い物の相場らしいけど、それで金貨数十枚くらいらしい。
数百万と脳内で換算して、思わず噴き出した俺を庶民だと笑わないで欲しい……。
光る水晶玉と侮ってちゃいけないな、魔法具――。
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