ティルラちゃんは緊張しているようでした
庭の他の場所も、コッカー達のおかげで綺麗になっているんだけど、その場所は見栄えを特に重視して改造したからな。
あそこならテーブルや椅子も用意されているから、景色を見ながら落ち着いて話ができる。
裏庭は元々、花が少なく木々に囲まれている場所だったけど、今は俺のせいで簡易薬草畑があって人も多いからな……フェンリル達もいるし。
「ワッフー……」
「お、食べ終わったか。美味しかったかー?」
「ワウー!」
クレアと話しているうちに、レオ達がおやつを食べ終わる。
満足そうに息を吐くレオを撫でながら聞くと、楽しそうな鳴き声が帰ってきた。
お腹いっぱいという程じゃないだろうけど、レオが楽しそうで何よりだ……シェリーやヴォルグラウも、同様に尻尾をブンブン振っているから、満足してくれたんだろう。
「ギフト、本当にあるのでしょうか……?」
「どうかしら。でも、ギフトを持っていないと説明できない事が、ティルラの身に起こっているわ」
「んー……」
おやつの時間が終わり、改めてイザベルさんの店への移動中、何やらティルラちゃんが不安そうに呟いた。
いざ調べるとなって、緊張とか本当かどうかなど、色んな考えが頭に浮かんだんだろう。
「俺の時と似ているから、多分ティルラちゃんにはギフトがあるんだと思うけど……」
「そうなのですね……でも、私はどうしたらいいのでしょう?」
「……ティルラ、どうもしなくていいのよ? あなたはあなた、私の妹のティルラなの。だから、ギフトがあろうとなかろうと、何かしなければいけないわけでもないわ」
「私は私……ですか?」
起きた直後は、ギフトがあるかもと喜んでいたティルラちゃんだけど、今になってどうしたらいいのかと悩んでいるようだ。
でもクレアの言う通り、ティルラちゃんはティルラちゃんで、ギフトがあってもなくても変わらない。
多少便利な能力が使えるようになるけど……それだけだ。
必ずしも使わないといけないわけじゃないし、それで何かを成さなければいけないわけでもない。
人によっては、力を持っているならそれを振るって人の役に立つべき……と考える人もいるかもしれないけど、俺はそうは思わない。
ただ、ティルラちゃんらしく過ごして行ければいいかなと思っている。
「俺が使いこなしている、というわけではないけど……一応、ギフトを持っている先輩として、何かあればいつでも相談に乗るよ。俺が考えている事、感じている事が、ティルラちゃんのたすけになるかもしれないからね」
「……はい! タクミさんがいてくれれば、心強いです!」
俺自身、今だに降って湧いたような能力だと感じる事はあるけど、それでも同じギフトを持っている者として何か力になれればな。
そう思ってティルラちゃんに言うと、少しだけ考えて笑みを浮かべて頷いてくれた。
本当なら、途方もない年月をギフトを使って過ごしてきたユートさんの方が、相談に乗れる事も多いだろうけど……あの人は変な事も教えそうだからなぁ。
「まぁ、ティルラったら。私よりもタクミさんなのね?」
「そ、そういうわけじゃないですよ姉様! タ、タクミさんはギフトを持っている人なので……」
「ふふふ、わかっているわ。冗談よティルラ」
「もう、姉様ぁ……!」
「もし本当に、ティルラにギフトがあった場合は屋敷に戻ってから、ゆっくりタクミさんと話をするといいと思うわ」
「はい!」
クスクス笑いながらのクレアの言葉に、慌てるティルラちゃん。
仲のいい姉妹の様子を見て、これなら俺が相談に乗る必要もあまりないかもしれないと思った。
「でもティルラ、これだけは覚えておいて? ギフトもそうだけど、能力というのはどう使うのかが一番重要よ? 使うか使わないかはティルラ次第だけど、ちゃんと考える事が必要なの。公爵家の娘としての権力なども近いのだけどね」
「はい……わかりました、姉様」
少しだけ真剣になって、ティルラちゃんに話すクレア。
それを受けて、神妙に頷くティルラちゃん……ティルラちゃんなら、間違った使い方をしないと思うけど、それを見守るのも、もし間違った時に正すのも、姉であるクレアや身近な大人達の役目だな。
俺もだけど。
それにしても、クレアのこの言葉って……。
「クレア、その言葉は俺が最初に……」
「覚えていてくれたのですね。はい、ギフトを調べる前のタクミ様に、私から言った言葉です。イザベルも、近い事を言っていましたけど」
初めてラクトスに行く際、馬車に乗っている時クレアに言われた言葉だ。
多少付け加えられているけど、それでもあの時の言葉はよく覚えている。
確かにイザベルさんにも言われたけど、あれがあったからこそ『雑草栽培』を自分と誰かの役に立てられるように、と考えられた。
いわば、俺にとってギフトを使う際に考える土台のようなものだな。
「そうだね……うん、あの時のクレアの言葉があったからこそ、間違った使い方をしないよう、気を付けておく事ができるよ。忘れない」
「ありがとうございます、タクミさん」
俺が覚えていた事、ちゃんと考えている事にお礼を言うクレアだけど、実際は俺がお礼を言いたい。
イザベルさんに言われただけだったら、今ほど真剣に考えていなかったかもしれないからなぁ……ギフトとは別だけど、公爵の権力という力を持っているクレアだからこそ、響いたんだろう。
……公爵家のご令嬢って知ったのは、ギフトを調べて屋敷に戻ってからだけど。
「私も、姉様の言葉を忘れないようにします!」
「ふふふ、ティルラもありがとう。そうね、私も自分で言った言葉なのだから、気を付けるわ」
元気よく主張するティルラちゃんに、微笑みかけるクレア。
さっきまでの不安は、大分薄れてきた様子だな……全て吹き飛んだ、とまではいかなくても俯いたり悩んだりしないままでいて欲しい。
というのは、俺の勝手な思いだけども。
「キャウキャゥー!」
「ワフワフ!」
「きゃはは、シェリーもレオ様も、応援してくれるんですね! ありがとうございます!」
ティルラちゃんの意気込みを応援するように鳴く、シェリーとレオ。
楽しそうにしているティルラちゃんやレオ、シェリー達を見ながら朗らかな雰囲気で、イザベルさんの店へと向かった――。
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