我慢の限界が近くなってきました
デウルゴがヴォルグラウに関する話が続く。
レオを目撃してシルバーフェンリルを従魔にできる可能性を考えたデウルゴは、ラクトスで流行っているウルフの従魔を求めて、付近の森へと探しに行ったらしい。
この場合の森は、ラクトスから北西……ランジ村に向かう時近くを通った、森の事でフェンリルの森やブレイユ村方面の森じゃないとか。
そしてウルフを発見、戦っておとなしくさせたうえで従魔契約を結んだと。
ただし、一対一というわけではなく複数対複数だったとデウルゴは言っていた……まぁ、ウルフがフェンリルに近い習性を持っているなら、群れを形成するだろうからな。
ただ、話の内容的にデウルゴは俺があぁやった、俺がこうしたおかげで、と自分の主張が激しかったんだけど、多分ほとんど一緒にいた他の人が活躍したっぽい。
だって剣を振り上げて威嚇とか、石を投げて注意を引き付けたとか……やらないよりマシかもしれないが、その程度でウルフの群れを無力化できるとは思えない。
ウルフが戦っている所は見た事がないけど、ヴォルグラウはリーザを乗せて屋敷まで走れる体力があるくらいだし。
ともかく、そうして従魔にしたはいいけど目標はシルバーフェンリル。
まずはヴォルグラウを鍛えて、フェンリルを倒して従魔にし、数を揃えて……と段階的に目指したらしいんだが、訓練と称してヴォルグラウに剣を向けても、簡単に勝ててしまう。
だから役立たずと、鍛える余地のない弱いウルフを従魔にしてしまったと考えたようだ。
従魔が、主人に対して本気で戦えないって事を、知らない様子だな……。
コッソリ、セバスチャンさんが溜め息を吐いていたけど、文献を読み漁って知識を蓄えているセバスチャンさんにとっては、無知と言いたいのかもしれない。
ちなみにヴォルグラウの鍛錬がどうのと言っている時に、少人数で旅をしている商人や、商店を脅してお金を稼いでいた……なんて犯罪行為の自白もしていた。
デウルゴ本人はいい気分で自慢話をしているようだったけど、後ろでは衛兵さんが怖い顔で睨んでいた。
というかここは衛兵さん達の詰所で、そんな所で悪事自慢をするデウルゴって……。
これまであまり考えないようにしていたし、言葉が汚いので考えたくなかったんだけど、BAKAなのかな?
一応、大きな怪我や死なせたりするような事はしていないらしいけど、調べたら色々とありそうだ。
やっぱり叩けば埃が出る身だったか……ヴォルグラウも命令されて仕方なく協力していたんだろうけど、こんなのの従魔になって災難だったんだな。
それでもヴォルグラウが認めた相手だし、懐いている部分もあったので、少しはいい所があるかも? と思っていたんだけど……。
「それでだ、いい加減役に立たないウルフは捨てて、別のウルフを捕まえようと思ってな?」
話がヴォルグラウに怪我をさせた部分に入る。
そもそも、従魔契約をただ都合のいいものだと考え、それを捕まえると言っている時点で、デウルゴには従魔を持つ資格がないようにさえ思う。
ともあれ、そうしてヴォルグラウを捨てようと思ったデウルゴだが、離れようとしても匂いを追って来るので、面倒になって殺す事にしたと、意気揚々と語った。
そこで契約の解除をするのではなく、短絡的に殺す方を選ぶデウルゴに怒りを通り越して溜め息しか出ない……見られないようにコッソリだけど。
「だがまぁ、そんな役立たずだったヴォルグラウも、金貨百枚になるんだ。やっと俺の役に立てたなぁ? あぁそうだ、なんなら他のウルフも用意してやろうか? そっちも金貨百枚で売ってやるよ」
「……そうですなぁ」
ヴォルグラウの話を終えて、調子に乗っているデウルゴ……堂々と人身、じゃない魔物売買を持ちかけてきている。
セバスチャンさんは考える素振りをしながら、視線を天井に向けているけど……頬がピクピクとしている。
そろそろ、我慢の限界かもしれない。
セバスチャンさんだけでなく、俺やシェリーも……あと、壁の向こうでこちらの様子を窺っているクレア達の方もだ。
衛兵さんの後ろの壁から、ミシミシという音が聞こえるんだよなぁ。
デウルゴは、調子に乗っているせいか気付いていないけど。
「ウルフ程度で、街の外でも街の中でも安全が保証されるんだ、安いもんだろ? なぁに、もし金に困る事がありゃ、ちょっとウルフを使って他の奴を脅せば、簡単に金を差し出してくれるぜ? 俺もヴォルグラウにさせたからなぁ」
「ぐ……こいつ……」
さすがに度が過ぎるので、そろそろ俺自身の我慢が限界に達しそうだ。
「ふむ、成る程。貴方にとって、ヴォルグラウはただの道具にすぎませんでしたか。予想はしていましたが……」
「役に立つ道具ならいくらでも捕まえるし、金になるなら手放すさ。それだけの事だ。簡単だろ?」
「えぇ、そうですね。簡単です。貴方に穏便にお願いをしようとした事そのものが、間違いなのでしょうな。はぁ……何か他の繋がりなどを持っていそうでしたが、そうではなかったようですね。少々、気になる事は言っていましたか……」
セバスチャンさんも、本当に我慢の限界と言った様子だ。
デウルゴは気付いていないが、普段穏やかな話し方をするセバスチャンさんが、今は刺々しい……いや、丁寧な言葉遣いではあるけど。
あと、デウルゴと他の繋がりって言ったか? セバスチャンさんは、デウルゴとヴォルグラウの関係だけでなく、他の事も見通して情報を得ようとしていた、とかかな?
「穏便に、金で解決しようってんじゃねぇか。ヴォルグラウが、初めて俺の役に立つ瞬間だ。喜べヴォルグラウ、ようやく俺のために……」
「ガウ!! グルルルル……!」
デウルゴがニヤニヤとしながらヴォルグラウに声を掛け、何かを言おうとした瞬間、背中に乗っていたシェリーがテーブルの上に飛び乗った。
怒りが限界に達したんだろう、毛を逆立たせて歯を剥き出しにし、デウルゴに向かって唸っている。
「シ、シェリー!?」
「な、なんだ!?」
驚く俺と、いきなりテーブルに飛び乗ったシェリーの姿に驚くデウルゴ。
シェリーが怒りださないよう、撫で続けていたんだけど……堪忍袋の緒が切れて、もう効果がなかったみたいだ――。
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