デウルゴはこちらの足下を見る事にしたようでした
デウルゴを煽り、ちょっと睨まれたりはしたけど意識的にニコニコして、やり過ごす。
こういうのは、日本で仕事をしている時に慣れたからなぁ……上司や取引先からの理不尽な事を言われても、不満そうな顔、反抗的な表情をしないように……してしまうと、もっと理不尽な事を言われてしまうから。
とはいっても、今回はむしろ俺自身が進んで睨まれるような事を言ったし、内心スッキリしていたので、本心からニコニコしている部分もあったんだけど。
「それで、譲って頂けませんかな? 貴方はヴォルグラウは死んだものと考えていた。であれば、契約を破棄してお譲り頂くのも構わないと思うのですが」
「そうだな……」
セバスチャンさんの言う通り、ヴォルグラウを捨てたようなものだから、契約を破棄する事にためらいはないはず。
いないものとするのであれば、特にこだわる必要はないはずだ……けど、何故かニヤリと口角を上げたデウルゴ。
何か考えている様子だな……。
「金貨百枚だ。金貨百枚あれば譲ってやろう」
「はぁ!?」
デウルゴの要求を聞いて、俺もセバスチャンさんも驚く……いや、驚いて声を出そうとした瞬間、これまで黙って話を聞いていた衛兵さんが、大きく驚いた。
そのせいで、声を出さずに済んだのは良かったのか悪かったのか。
「っと……し、失礼しました……」
「……金貨百枚。ですが、貴方はヴォルグラウをいらないと感じたから、攻撃を加えたのでしょう? それなのに、そのような金額を要求するのですか」
「いやいや、何を言っているんだ。あれは事故だ。ちょっと行き違いがあっただけだ。可愛がっているヴォルグラウを譲るんだ、金貨百枚くらい安いもんだろう? あんたたちは身なりもいいし、多少無理をすればそれくらい払えそうだからな」
こいつ、さっき殺したはずとか散々言っておきながら、行き違いがあったなんて意見を変えたな。
俺達がヴォルグラウを欲しがっていると考えて、ふっかけようというわけか……。
多分、セバスチャンさんが俺の護衛代わりに、と言った事でどうしても欲しいと思っていると考えたんだろう。
けど……こいつ、今自分が置かれている状況がわかっているんだろうか? 手足は縛られているし、掴まっている状態なんだけど……交渉ができるような状態じゃないはずなんだけどな。
ディーム程じゃなくても、小悪党を地で行く感じだ。
もしかしたら、ヴォルグラウの事と別に叩けば埃が出る身なんじゃないか?
「そうですか……わかりました。お支払いしましょう」
「セバ……親父!?」
こちらを見下しているような、自分が優位に立っていると勘違いしているデウルゴの話に、頷くセバスチャンさん。
いや、さすがに驚いた……絶対断ると思っていたのに……驚き過ぎて、セバスチャンさんの名前を呼びそうになったくらいだ。
セバスチャンさんはセバスで、今は俺の父親役なのを忘れないように気を付けよう。
それはともかく、金貨百枚って……大体一千万円くらいだ。
今だに頭の中で日本円に換算して計算してしまう癖が抜けないが、とにかく一生は無理でも、しばらくは遊んで暮らせるくらいの金額。
おいそれと払う金額じゃない……いや、公爵家ならそれくらいすぐに払えるのかもしれないけど。
それに、ヴォルグラウを金銭で売り買いするような気がして、なんか嫌だ。
「……とは言ったものの、金額が金額ですのでこのように息子も驚いています。少々、こちらで相談をさせてもらっても?」
「あぁ、構わねぇぜ。金貨百枚、これ以上はまけられねぇからちゃんと親子で相談しな。……ウルフがいれば、魔物に襲われても安全だからなぁ? 俺の気が変わらねぇうちに、決めた方がいいと思うがな」
「はい。では少々失礼して……タク、こっちへ」
「ちょ、ちょっと親父……!」
「キャウゥ?」
俺が驚いて目を見開いているのに対し、セバスチャンさんが相談する時間を求めた。
デウルゴが、勝利を確信したように笑みを深くして、あからさまな事を呟いている。
そんな中、椅子から立ち上がり俺の手を引っ張って部屋の隅へ連れて行くセバスチャンさん……シェリーは、よくわからないのかヴォルグラウの背中の上で首を傾げていた。
「ちょっと、どうい事だよ親父……」
移動する際、声を潜めるように指を口元に当ててセバスチャンさんから示されたので、デウルゴに聞こえないくらいの小さな声で抗議する。
デウルゴは、自分が優位に話が進められると考えて、憎らしいくらい余裕の表情だ……俺達が金貨百枚で頷くと疑っていない様子でもあり、こちらの相談を気にもしていない。
これなら、向こうに声は届かないだろうけど……一応口調は打ち合わせ通りに、親子関係のようにしておく。
「金貨百枚、大金ではあるが払えない金額ではない。それなら、払ってしまった方があと腐れはなさそうだからなぁ」
「いやいや、確かに払えるかもしれないけど。でも、お金でヴォルグラウを売り買いするのは……それに、そんな金額を負担させるわけにも……!」
払えるからといって、金貨百枚でヴォルグラウを譲られるのは反対だし、公爵家に出させるわけにもいかない。
確かに、デウルゴのような相手には言葉で説得するよりも、お金を払った方が後々面倒が少ないのはわからなくもないけど……それでもな。
「安心するんだ、タク。金貨百枚……払ってもどうせ戻って来る金額ですよ……」
「は?」
言葉の後半は、かなり小さく俺の耳になんとか聞こえるかどうか、という声量で伝えられた。
いつものセバスチャンさんの口調に戻っているけど、戻って来るってどういう事だろう?
「話していて思ったが、奴を調べれば色々と悪事を働いていそうだ。それこそ、罰金や賠償を科せる程に。そして私達が払った金貨百枚……あら不思議、ちょうど払えるだけのお金がある、と」
「何があら不思議なんだよ、親父……はぁ。確かに、俺もデウルゴは他でも悪さをしているだろう思ったけど……」
楽しそうなセバスチャンさん。
つまり、悪事を暴けばそれだけの金額を補填しなければいけないくらいの事をしている、と考えたわけか。
でも、さすがに金貨百枚も支払わなければならない程の悪事って、小悪党では済まなくなりそうだし、そうなるとお金では済まされない処罰があるんじゃないだろうか?
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