出発直前に目を覚ましたようでした
「それじゃ、ラクトスへ行き……」
「クレアお嬢様、タクミ様! ティルラお嬢様がお目覚めになりました!」
「え!?」
「ティルラが!?」
揃った皆に声をかけて外へ出ようとした時、玄関ホールから続く階段から大きな声を出しながら、慌てて降りて来るエルミーネさん。
俺やクレアは驚いて思わず声を出す。
セバスチャンさんも、声は出さなかったけど驚いているようだ。
「つい先程、お目覚めになられました! 体に異変はなく、すぐに起き上がって動けています。今は、他の者が見ておりますが……」
「そう、良かったわ……」
「そうだね。倒れはしたけど、何事もなくでいいのかな? とにかく、元気なようで安心したよ」
「そうですな……ふぅ」
駆け下りてきたエルミーネさんによると、ティルラちゃんはすぐに起き上がって体調におかしなところはないようだ。
俺の時は数日目を覚まさなかったけど、それでも空腹以外に大きな問題はなかったし、短時間の気絶で済んだティルラちゃんも同様なんだろう。
クレアと俺、セバスチャンさんもそれぞれホッと息を吐いていた。
「ティルラの様子も見たいけれど……どうしようかしら?」
「まぁ、何事もなく起きられたのなら、ラクトスに先に行った方がいいのかな? 俺も、元気な顔くらいは見たいけど……」
「ふむ、確かに目を覚まされたとはいえ、倒れましたから……もうしばらく様子を見た方が良いのかもしれませんが……」
「セバスチャンさん?」
優先されるべきはどちらか、と迷う俺とクレア。
ただ、元気なようであれば先にヴォルグラウの件を済ましてからの方がいいかな? と思う。
セバスチャンさんも概ね同意のようだけど、何か考えている様子だ。
「いえ、ティルラお嬢様にもしギフトが備わったのであれば、良い機会です。ついでにラクトスへ行って、イザベルに調べてもらうのもよろしいかと。ですが、目を覚まされたばかりなので……」
「そうね……ちょうどいいと言えばいいのだけれど、少し心配ね」
確かにちょうどラクトスへ行こうとしていたから、タイミング的にはちょうどいいのかもしれない。
起きたばかりなのは気になるけど、でも……。
「ちょっと無理をさせる事になるかもしれませんけど、連れて行った方がいいのかもしれません」
「無理をさせてでも、ですかなタクミ様?」
「はい。多分、ティルラちゃんの事ですから、元気であればリーザやフェンリル達と一緒にいようとするでしょう。でも、今ギフトの詳細がわからないので……リーザやラーレだけならいいんですけど、フェンリル達と話したら、知らず知らずにギフトを使ってしまうかもしれません」
「……そうなると、またティルラが倒れてしまうかもしれませんね」
俺の言葉に頷くクレア。
倒れるまでそれなりに時間があったから、もしかしたら大丈夫かもしれないけど……ギフトを無自覚で使っている可能性のある今の状態は、もしかしたら危険かもしれない。
俺の場合は、何かに手を触れさせて植物を思い浮かべる必要があったけど、ティルラちゃんのギフトが『疎通言詞』ならば、話そうとしただけで発動する可能性だってある。
屋敷で留守番をしてもらっている間に、使い過ぎてしまうかもと考えたら、本当にギフトかどうかを調べるのは優先した方が良さそうだ。
「タクミ様の仰る通りですな。少なくとも、ティルラお嬢様には自分がどういう状況であったか、話す必要があります」
「そうね。ただおとなしく部屋にいなさいと言っても、聞く子じゃないものね……」
「ティルラちゃんも、事情を話せば納得はしてくれると思うけどね」
何も理由がわからないのに部屋にこもっていろと言われたら、反発するだろう……それだけ元気で活発な子だし。
でも、ティルラちゃんだってちゃんと話せばわかってくれるはずだ。
その話せばが不十分で、クレアと喧嘩したり、勉強を嫌がっていたりもしたくらいだ。
「では、まずはティルラお嬢様に自身に起こった事の説明をいたしましょう。久々に楽しい時間ですな」
「最近も、十分に説明できていたと思うけど……そういえば、ギフトも絡んでの説明は久しぶりかしら?」
「ははは……まぁ、ある程度俺自身もギフトについてわかってきたから、説明する必要もなくなりましたからね」
知らない事ばかりだった以前と違い、今はむしろギフトに関しては説明されなくても良くなっている。
感覚的な事が多いけど、やっぱり文献を調べるよりも実際に使える人物の方が詳しくなるのは、当然か。
「エルミーネさん、ティルラお嬢様のご様子は? 体調に問題がないのは良い事ですが、倒れる前後に関してなどはどうでしょう?」
「はい、ティルラお嬢様は倒れた時の事をあまり覚えていないようです。タクミ様やクレアお嬢様と話していた事は覚えておいででしたが……突然自室で目覚められて、驚いておいででした」
「倒れた時の事は、覚えていないのか……」
俺が倒れた時と同じなのかはわからないけど、倒れる瞬間の事なんて覚えておかない方がいい。
ティルラちゃんは、突然意識を失うのが初めてだからかもしれないな。
俺が慣れているというわけじゃないけど、ギフトに関係なく何度か倒れた事がある。
倒れる瞬間がはっきり自覚できる程、何度も倒れているなんて一切自慢できる事じゃないけど……。
「タクミさん、どうかされましたか?」
俺が考え込んでいるのを見て、クレアが首を傾げた。
「いや、ティルラちゃんが覚えていないのなら、あまり倒れた瞬間の事は話さない方がいいのかなって。俺も経験あるけど、あんまり気持ちのいいものじゃないから」
気持ちのいいものどころか、思い出して身震いする事すらあったからな。
わざわざ怖い思いをさせてまで、倒れる瞬間の記憶を思い出させる必要はないと思う。
「そうですね……その方がいいのかもしれません」
「気を付ける、という意味では覚えていた方が良いのでしょうが、ティルラお嬢様が自分で思い出さない限りは、そっとしておきましょう。――ではエルミーネさん、ティルラお嬢様を呼んできてくれますか? 私は、出発が遅れる事を外にいるレオ様達に伝えてきます」
「はい」
クレアとセバスチャンさんが頷き、ティルラちゃんには倒れた瞬間の事は話さない事に決まる。
エルミーネさんはティルラちゃんの部屋に、セバスチャンさんは外へ向かった。
……俺も、外で待機してくれているレオと話しておくか。
ヴォルグラウにも声を掛けておこう――。
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