お腹を撫でる儀式は必要なようでした
ヴォルグラウを見た二人の言葉は、セバスチャンさんは純粋に、ウルフの本能を分析しているようだけど、アルフレットさんはもしかしなくても、初めてレオやフェンリル達を紹介した時の事を思い出しているのだろうか?
その表情は、言葉通りに同情しているというよりは、仲間を発見したと考えているようにも見えた。
「……なんにせよ、あのままだとヴォルグラウがかわいそうですから。行ってきます」
「はい、クレアお嬢様もそろそろ来られるでしょうし、こちらはお任せ下さい」
「ヴォルターさんの話が終わるのを見計らって、私は書庫へ向かいます」
とりあえず話す事は話したと、従業員さん達の事はセバスチャンさんに任せ、調べ物はアルフレットさんに、そうして俺はヴォルグラウ救出に向かった。
「おーい、レオ。ヴォルグラウー」
「ワフ!」
「あ、パパだー」
レオ達に近付きながら声を掛け、手を振る。
すぐにこちらを向いたレオは尻尾を振り、リーザも同じく尻尾を振りながらこちらへ駆け寄って来る。
「バウ!? キューン、キューン……」
「おぉ、よしよし……怖かったのか?」
「クゥーン」
「ワゥ……」
リーザに続いて、仰向けになっていたヴォルグラウが起き上がり、鼻を鳴らしながら来たので慰めるように体を撫でてやる。
レオはジト目……という程ではないが、やきもちを焼くように小さく鳴いた。
まったく、レオはシェリーにもそうだけどよくやきもちを焼くなぁ……と思うが、可愛いので溜め息どころか微笑ましい。
「レオも、ちゃんと構ってやるから。よしよし」
「ワウ~」
「キュ、キューン……」
手を伸ばし、片方ではヴォルグラウを、もう片方でレオを撫でる。
機嫌良さそうに尻尾を高い位置で振りながら、喜ぶレオ。
ヴォルグラウは、チラチラとレオやフェンリル達を見ながら、おどおどしている様子だ……尻尾なんて、俺が撫で始めてすぐは嬉しそうに振られていたのに、すぐ丸めて股に挟んでしまった。
「ヴォルグラウ、ここにいていいのか、だってー」
「クゥーン」
「気にしなくていいんだぞ? レオやフェンリル達も、ヴォルグラウが来たのを歓迎しているから。――な、レオ?」
「ワ、ワフ!」
「グルゥ!」
周囲にレオ達がいるからか、本当にここにいていいのかと疑問に感じているようだ。
ヴォルグラウを撫でる手に力を込めつつ、安心させるように声を掛けた。
レオは、ぎこちなく頷いたようだけど……ヴォルグラウの事が嫌いというわけではなく、やきもちからだろう。
鳴き声と共に頷くフェリーに続いて、フェンやリルルも頷いていた……シェリーは、ヴォルグラウの代わりにティルラちゃんから撫でられていて、こちらの話は聞いていないようだけど。
「ガウ? ガウガウ」
「バ、バウ!」
「お?」
ふと、俺がヴォルグラウやレオを撫でているのを眺めていたフェンが、首を傾げ、ヴォルグラウに向かって小さく鳴いた。
すると、一瞬体をビクッとさせたヴォルグラウが俺から少しだけ離れる。
何か注意されたのかな? フェンからは叱るような雰囲気は感じられなかったけど。
「キューン。ハッハッハッハ……」
「お腹を撫でればいいのかな? よしよし」
「クゥーン」
離れたヴォルグラウは、足を折りたたんで伏せの体制になった後、コロンと転がって仰向けになる。
俺に逆さの顔を向けたまま、舌を出して何かを期待している様子……。
なんとなく、お腹を撫でるのを要求される気がしたので、その通りにしてみると尻尾をブンブン振って喜んでいる。
正解だったようだ。
「リーザ、フェンはヴォルグラウに何を言ったんだ?」
「えっとね、ちゃんと従う姿勢を見せなさいって」
「あぁ、だからか……」
野生動物、特に四足歩行の動物はお腹という弱点を晒すのを嫌がる。
だから、お腹を見せたり尻尾を丸めて挟むのは、反抗したりしないとか服従すると示している姿勢でもあるからな。
他にもいくつかあるけど……レオと初めて会った時のフェン達もそうだったし、攻撃の意思はなく害を加えない事の証明として、お腹を見せてくれたんだろう。
警戒している動物は、絶対にお腹を晒したり触らせてくれないからな。
犬や猫、野生動物とかと同じ理屈が、魔物にも通じるんだなぁ……というのは今更か、とフェンリル達を見て思った。
そんな事をしなくても、ヴォルグラウをどうにかしようとかなんて考えていないのに。
「バウゥ、バウ、バウ」
しばらく撫でていると、何やら訴えかけるように鳴くヴォルグラウ。
これもリーザに通訳してもらったら、ここに来た瞬間「俺、死んだ……」と確信したらしい。
それが、俺に従う事で何もされないならと、服従の証を示したという事らしい……まぁ、お腹を見せたのはフェンの指示だけど、ヴォルグラウの意思でもあったって事か。
……まぁ、ウルフがどれくらい強いのかわからないけど、何人もの人が従魔にできる魔物だし、絶対に単独では敵わないと思わされたフェンリル達。
さらにそれ以上のレオに囲まれたら、死を覚悟するのも無理はないか。
野生とか本能が残っているのなら、特に。
俺も、フィリップさんやデリアさんと一緒に、フェルと会った時は色々覚悟したもんな。
「というか俺って……成る程、ヴォルグラウは雄か」
「バウ~」
お腹を撫でられて、ようやく受け入れられたと思えたのか、ご満悦な様子のヴォルグラウ。
仰向けになっているので丁度いいかと、雄である事を確認。
雄のウルフにヴォルグラウ、格好良くていいな……扱いなどはともかく、ヴォルグラウを従魔にした主人は少なくとも、俺よりネーミングセンスがあるようだ。
「うー……んん? むー……」
「おや? ティルラちゃん、どうしたんだろう?」
「パパも変に感じる? ヴォルグラウを連れて帰ってから、ずっとあぁやって何か唸ったり考えているの」
「そうなのか」
「ワフゥ?」
ふと、唸る声が聞こえたのでそちらを見ると、シェリーを撫でながら首を傾げながら何やら悩んでいる様子のティルラちゃんが見えた。
リーザが言うには、屋敷に戻って来てヴォルグラウを迎えてからも、同じように唸っている様子だったらしい。
レオ心配そうに見ながら、首を傾げている。
今日はなんだか、ティルラちゃんの様子がおかしい場面が何度かあった気がするが……本当にどうしたんだろう?
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します







