屋敷に招かれた人達は落ち着かない様子でした
キースさんが話す狡猾な商人、と聞いて真っ先に悪代官と越後屋が出る時代劇を思い出したけど、この場合は商人側が自分の利益をという事なので多分違う。
というか、エッケンハルトさんの所にもそういう人が行くんだな……まぁ、キースさんの言いたい事はわかるし、足下を見て来るとか、相手を騙すような契約をというのは、日本でもあった事だからわからなくもない。
うーん、正当な契約を結ぶのって大事なんだな……とりあえず、途中で旦那様から公爵様と言い換えたのは、俺に雇われる事になったからだろう、なんてちょっとズレた事を考えたり。
「……キースさん、そのくらいで。タクミ様が困っていらっしゃいますよ?」
「はっ……つ、つい白熱してしまいました。差し出がましい事を申してしまい、申し訳ありません」
ジェーンさんに注意されて、ようやく止まるキースさん。
「いえ、俺の事やこれからの事、薬草園の事なども鑑みての苦言と受け取りました。こちらこそすみません。今後は必ず、こういった話の時には相談させてもらいます」
俺が雇っている使用人さんだからといって。逆らう事は許さないとか、意見するななんて事は一切考えていない。
むしろ、キースさんが俺に問題があった時にちゃんと苦言を呈してくれる人だとわかったので、収穫と言えるくらいだ。
まぁ、さすがに今のように何度もまくしたてられるのは、勘弁願いたいが……それは俺が気を付ければいいだけだからな。
初めての事が多くて、まだ勝手がわからない事ばかりだけど、頼らせてもらおう……キースさんにとっては迷惑かもしれないけども。
「存分に頼って下さい。そのための使用人なのですから」
「はい、よろしくお願いします、ジェーンさん。キースさんも」
「畏まりました」
笑顔で自分の胸を叩くジェーンさんに、軽く頭を下げつつ、キースさんにも同様にお願い。
これから先、いっぱい迷惑をかける事になるだろうからなぁ……。
そんな事がありながら、部屋を出てレオ達の待つ裏庭へと向かった。
着替えるクレアはまだ時間がかかるだろうけど、あまり皆を待たせ過ぎてもいけないからな――。
「タ、タクミ様。ほ、本当に私達はここにいてよろしいのでしょうか……?」
「ま、まさか公爵家のお屋敷に招かれるなんて……」
「フェンリルにも、多少の違いがあるみたいですね。最初は怖かったですけど、撫でると喜んでくれました」
「こんな事なら、もっと上等な服を用意すれば良かった」
「でも、最初からクレア様やタクミ様と会うってわかっていたんだから、今来ているのが一番いい服でしょ?」
「それに、ランジ村にはタクミ様やクレア様のお住まいもあるらしいし、先に一番緊張する所に来れてむしろ良かったんじゃないか?」
「私、そのお住まいと同じお屋敷に住まわせてもらう予定なんですけど……」
「レオ様もですが、フェンリルも凄く撫で心地がいいんですね。まさか触れられるとは思っていなかったので、自慢になります!」
「街の雑貨屋でも、凄く上等な家具を設えると言われました。私、ちゃんと寝られるでしょうか?」
「給金も良く、環境も良さそう……それでいて支給される家具などは、一級品の物ばかり」
「招かれる事よりも、今後見合う働きが自分にできるかの方が、不安になりますね」
「はぁ、リーザ様可愛い……あんな娘が欲しいなぁ……」
等々、阿鼻叫喚ではないけど揃っている薬草園関係者、もう従業員でいいか……従業員の皆さんが口々に話していた。
中にはフェンリルやレオを撫でた事を喜んでいる人もいて、ほぼ恐怖心がある人は見られない。
あと、聞き逃さなかったけど、リーザは俺の娘だからあげません。
「ははは……皆何かと落ち着かない様子ですね」
「そうでしょうな。私達の方は元々予定していましたが、皆様は屋敷に招かれるとは思っていなかったようですから」
「これでも、セバスチャンさんの説明のおかげで、大分落ち着いた方ですが……」
従業員さん達の前に立ち、裏庭を見渡して苦笑しながらセバスチャンさんとアルフレットさんに話し掛ける。
二人共、俺と似たような表情だ。
まぁ、これまで縁のなかった公爵家のお屋敷、近くにあると知っていても招かれるなんて考えていなかったんだろうから、こうなるのも仕方ないか。
アルフレットさんが言うには、これでも落ち着いた方らしいけど……少し前はもっと混沌としていたのかもしれない。
お、あっちの方ではレオがヴォルグラウと一緒にいるな、ライラさんが見守る中、ラーレやフェンリル達、コッカーとトリースも一緒だ。
リーザやデリアさんもいて、なんというか柔らかそうな世界になっている……主に尻尾とか耳とか。
フェリー達を見たからか、委縮しているヴォルグラウはともかくとして、平和な空間だなぁ。
ちなみにセバスチャンさんは、レオと従業員達を合わせた時と違って、ニコニコしていて凄く機嫌が良さそうだ……存分に説明ができたんだろうなぁ。
「ん、あっちはヴォルターさん? 何人かが集まっていますね」
ふと目を向けた屋敷の陰になっている場所では、数人が集まって座っており、その前に立っているヴォルターさん。
何をしているんだろう?
「例の物語の披露というやつですな。フェンリルの恐怖を刻み込む、と意気込んでおりました」
フェンリルの恐怖って……ヴォルターさんがフェリー達を怖がっているだけなんだけどな。
それに、物語の語り手として周知するために披露する機会があればと、うんうん唸って考えていたのは確かだけど、俺も一部は一緒に考えた。
最初だからというのもあるし、ヴォルターさんがそちらに興味を持ったのは俺が原因でもあるから、全て任せっきりじゃ悪いからと。
まぁ、大体ヴォルターさんの考えてきた物語は勧善懲悪な事が多く、伝承や伝説からの引用も多かったらしいけど、細部が異様にリアルだったりしたから、その部分を主に改善させてもらった。
具体的に言うと、善と悪が戦って負けた悪が陥る結末というか……処罰された、で終わるのはかなりいい方であれこれこうして生を終えた、のあれこれの部分が詳細まで語られていたから。
子供達にも聞かせる予定なのに、内臓をどうとか拷問がどうとかでどうなるのかなんて事を、細かく話すのはどうかと思う、うん。
俺自身魔物と戦って倒したり、それなりにグロテスクな事には耐性がある方だと思うけど、それでも吐き気を催しそうになるくらいだった。
……休憩中の護衛さん達にも聞いてもらったけど、フィリップさんやヨハンナさんの顔色も悪くなっていたからなぁ――。
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