移動してウルフから事情を聞く事にしました
「今日は大きな騒ぎなどは起こっていないはずです。クレアお嬢様の正式な公務に近い訪問とあって、衛兵達も目を光らせています。何かあれば、我々にも報告が来る手筈になっています」
クレアが今日顔見せに来るという事で衛兵さん達も、張り切っているのか……まぁ、気軽に買い物に来たというのとは違って、公爵家の娘として来ているし前もって通達してあったからだろう。
何かあれば、衛兵さん達から護衛のニコラさん達に報告が行くというのは初耳だけど、まぁ、危険な場所や事件が起きた場所にクレアを近付けないためだろう。
その報告がないという事は、衛兵さんはこのウルフの事をまだ発見していない……さすがに発見していたら何かしらの対処はしているはずだからな。
「とはいえ発見していないのなら、衛兵達はここに来ていないと考えるべきよね……」
職務怠慢とは言いたくないが、クレアの考えている通り見回りが行き届いていないのか?
いや……。
「ニコラさん、衛兵さん達が街全体を見回るのはどれくらいかかりますか?」
「……通常時であれば、半日で三回程度は全体を見回れるかと。今日は警戒に力を入れているので、四回程度……三時間から四時間でしょう」
今日はいつもと違うとはいえ、大体三、四時間ならその間の出来事だってあるはずだ。
「それじゃあ、クレア。多分だけど衛兵さんが見回った後、次の見回りまでの間にここで何かがあったって事だと思う」
「成る程……衛兵が見回る隙間ですね」
さすがに警戒しているとはいえ、衛兵さんが全ての場所を見張っておく事はできない。
大きな通りとか、人の多い場所はある程度人員を割いて見ているだろうけど。
まぁ、どちらにしても何があったかはウルフに聞けばいいか……リーザがいてくれるし、レオやシェリーだって通訳もできるんだから。
「なんにせよ、詳しくはウルフから直接聞いてみよう。――な?」
「バウ?」
「そうですね……推測をするよりは当事者に聞いた方が早いでしょう」
両頬を両手で包んでグニグニとマッサージをしながら、鼻先に顔を近付けウルフと目を合わせる。
よくわかっていない様子のウルフだけど、懐いてくれているおかげで敵意は全くない……聞けばわかる事なら答えてくれそうだ。
そうして、とりあえず人の通りが少ないとはいえ、こんな場所でじっくり話を聞くわけにはいかず、場所移動。
ニコラさんをセバスチャンさんの方に、追加の伝言を走ってもらい、俺達はウルフを連れて衛兵の詰所へと向かった……エルミーネさんやヨハンナさんが、人目に付かず話を聞くならそこだろうと……犯人の取り調べじゃないんだけど、まぁじっくり話をするにはちょうどいいか。
幸い懐いたウルフはおとなしく付いて来てくれるし、レオがいるからか逃げる気配も一切ない。
ただ移動中、ずっとレオが俺の横にべったりと張り付いて歩きにくかったけど……レオとウルフに挟まれて、ちょっと暑かった。
……移動する俺達を見かけた人達から、俺はどう見られていたんだろうか? 考えない方がいいかもしれない。
クレア達は、微笑ましく……いや、面白そうに笑っていたけど。
「どうでしたか、ニコラさん?」
「皆驚いていました……当然の事ではありますが。セバスチャンさんや、アルフレット殿が扇動……いえ、先導して楽しそうに街を離れて行きました」
「ははは、面白そうにしていたのは主にセバスチャンさんなんでしょうね。目に浮かびます。フィリップさんは?」
「向こうに付いて、そのまま屋敷に戻るようです」
詰所にて、クレアがいてくれるおかげで詰所の隊長さんとかが使うような、広めの上等な部屋に案内され、ウルフと向かい合って事情を聞き終わる。
そうしていると、セバスチャンさん達に伝言を頼んだニコラさんも戻ってきて、向こうの状況を報せてくれる。
フィリップさんは向こうに合流したままか……想像だけど、セバスチャンさんにこき使われてそうだなぁ、荷物持ちとか。
結局合流しなかったけど、薬草園雇用者達は雑貨屋などを回った後、フェリー達を紹介。
そこから今日は全体の親睦会も兼ねて、屋敷に招くという予定だった。
フェンリル達を見た時の、皆の反応が見られなかったのはちょっと残念だけど……。
ちなみにティルラちゃんも、ニコラさんと一緒にセバスチャンさん達と合流後、屋敷に向かっているはずだ。
屋敷に行った人達にラーレを紹介しなきゃいけないし、今日はなんだかいつもと様子がおかしい事が何度もあったようだから。
体調が悪いようには見えなかったけど、朝は緊張していたから早めに戻って休んでおいてもらおう。
レオは詰所内に入れないので、外でヨハンナさんと待ってもらっている……ヨハンナさんが、衛兵さんの訓練する様子を見ると言っていたから暇はしていないはずだけど、無茶な事はしていないと思いたい。
今この部屋にいるのは、俺とクレアとリーザ、シェリーとライラさんにエルミーネさん、あとは今戻ってきたニコラさんだ。
衛兵の隊長さんも同席すると言ってくれたんだけど、ヨハンナさんがレオと……と聞いて慌てて出て行った。
ヨハンナさんが人気だからというより、部下達に檄を飛ばしに行ったんだと思う。
「して、タクミ様、クレアお嬢様。お二人共顔色が優れないようですが……?」
ニコラさんが、俺とクレアの顔を見て何か察した様子。
セバスチャンさん達の様子を聞いて、少しは気分や雰囲気を変えようと思ったけど、上手くいかなかったか。
「あんまり、いい話ではありませんでしたから」
「そうですか……」
ウルフから聞き出した話……ウルフは特に隠そうとする素振りすら見せず、何が起こったかを話してくれた。
レオを見ているからか、俺に懐いているからか、両方かもしれないけど。
ただ、目を伏せるニコラさんはある程度察している様子だけど、リーザに通訳をしてもらった内容は想像していたのとは違った。
リーザ本人は、そこまで気にしている様子はないけど……正直なところ、聞かせたくない内容でもあった。
シェリーを通してクレアから聞いた方が良かったかな、とは思うけどそれも微妙か。
「ウルフのあの怪我は、従魔にした本人……デウルゴという人間がやった事らしいのよ」
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