過去の経験が生きたという事にしました
「タクミ様、私達の時もこんな風に慣れさせて欲しかったのですが……」
「ヴォルターさん」
レオを撫でる皆の様子を眺めていると、ヴォルターさんが愚痴るように言った。
フェンリルと一緒に整列して見せたり、すぐに乗せて走らせたりしたのが不満だったようだ。
「でもヴォルターさん、あの時子供と言えばティルラちゃんかリーザしかいなかったですし……」
「はぁ、どちらにしてもヴォルターがレオ様達を怖がらなくなるとは、思えないですな」
「う……」
エメラダさんのように進んで撫でる人もいなかったし、同じ使用人という立場の人や、ティルラちゃんとリーザでは、今回のようにはならなかったと思う。
なんて考えていると、今度はセバスチャンさんから鋭い一言。
まぁ、ヴォルターさんとしては少しでもレオ達を怖がらないよう、慣れさせて欲しかったと思ってしまうんだろう……多少触れ合うくらいならともかく、いまだにフェンリルの背中に乗るのを怖がっている様子からは、どういう出会い方をしても無理だったとも思うけど。
「まったく、街の者達の方がよっぽど肝が据わっていますな……」
「……クレア、なんだかセバスチャンさんの機嫌が悪いような気がするんだけど?」
いつもヴォルターさんに当たりが強いセバスチャンさんだけど、今はそれ以上のような?
なんとなく、喋り方がトゲトゲしい気がした。
本人に聞こえないよう、クレアに聞いてみる。
「『雑草栽培』やギフトについて、タクミさんが全て滞りなく話してしまったので、それでだと思います。不機嫌というよりも、いざという時は自分が出て説明しようと考えていた思惑が外れて、といったところでしょうね」
「あー、ガラグリオさん達の時の……。一応、あぁいった事をして皆に『雑草栽培』を見せる事は、予定通りだったんだけどね……」
「タクミ様が失敗をするとは思っていなかったでしょうけど、それでも説明のフォローができると、漏らしていました」
「……後で、色々たっぷり説明してもらった方が良さそうですね」
何か説明できるチャンスがあるかも、と思っていたら思惑が外れた、といったところなんだろう。
八つ当たりに近いけど……まぁ、その相手が俺じゃなくてヴォルターさんに向いたのは、愚痴るように言って隙を見せたからか。
すぐではないけど、説明しないといけない事はたっぷりあるから、それを任せればなんとかなりそうだ。
さすがに、アルフレットさん達に任せようと思っていた事だし、俺に直接関係する薬草園での事だから全部任せるわけにはいかないと思うけど。
「まぁ、セバスチャンもわかっているでしょうから、すぐに終わるでしょう。ほら……」
「あぁ確かに」
「くっ……」
苦笑いするクレアが言う通り、ヴォルターさんを少しいじっただけでレオに並ぶ人達の方へセバスチャンさんは向かった。
悔しそうにしているヴォルターさんはともかく、あちらに何かしら説明できる気配を感じたのかもしれない。
「それにしてもタクミさん、子供を使うというのは考えましたね」
「まぁ、カレスさんの店に皆を連れて行った時、子供達はいたけど一緒に遊んでいる姿は見せられなかったからね。偶然さっきの男の子がいたのも大きいけど……以前にも似たような事があったから」
ちなみに男の子は、まだレオの所にいる。
今は他の子供達と一緒に、並んでいる人達に相手をしてもらっているようだ。
ほとんどの人がレオを怖がる様子はなく、レオもおとなしくお座り状態で撫でられているので、このままで大丈夫そうだ。
後でレオを褒めてやらないとな。
「以前にも、ですか? 薬草販売を始めた時の事でしょうか?」
「いや、あの時よりずっと前……まだレオが小さかった頃の事だね」
レオ達の様子を見ながら答える俺の言葉の中で、以前というのにクレアは引っかかりを感じたらしい。
そういえば、初めて薬草販売をした時も子供達は好奇心任せにレオへと群がって、大人達は遠巻きに見ていたから、状況としては似ていると言えなくもないのか。
けど、俺が思い浮かべていたのは別の事……まだレオがマルチーズだった頃の事だ。
「レオは子供好きで、よく近くに住んでいる子供達と遊んでいたんだ。その時に犬……ランジ村で見たあの子犬と同じくらいの大きさでも、怖がる子供がいたんだよ」
「ランジ村の子犬……シェリーよりも小さいあの子の事ですね?」
「そうそう。小さくてもやっぱり怖がる人はいるもんでね……」
ランジ村にいたマルチーズ……レオと同じではないけど、同じ犬種。
小さいとはいえ犬なのは間違いなく、大きさとかは関係なく犬や猫が嫌いとか怖いって人は一定数いる。
近所に住んでいる子供の中に、そういった子もいて……でもなんとか慣れてもらって、レオと一緒に遊ぶようになったってだけの話だ。
今回のと全く同じではないけど、他の子供達と楽しそうに遊ぶレオを見て、少しずつ近付けるようになって、おとなしくしているレオを俺が抱いて、ちょっとだけ慣れてもらったりとか……本当に少しずつだ。
もちろん、無理矢理とかではなくその子供が嫌がる事はしなかったんだけど。
というか怖がるから、すぐに別の子と遊ぶようになるかと思っていたんだけど……その子は他の子供とレオが遊んでいると必ず様子を見に来ていた。
多分、怖いというよりも一緒に遊びたいという気持ちが大きかったんだと思う。
ともかく、そうして少しずつ慣れさして行って、犬を怖がる気持ちを克服した……今回はそれを参考にしたわけだ……偶然だけど。
「あの時、そんな事まで考えていたんですね」
「……まぁ、上手く行って良かったよ」
男の子がリーザへ淡い気持ちを抱いている事に対してだけじゃなく、皆のためと思ってやっていたという事にしておく。
クレアは感心しているようだけど……実際ここまで上手く行くとは思っていなかったし、リーザにちょっかいを出そうとする男の子を阻止……。
いやー、レオがおとなしくて怖がる相手じゃないと、皆がわかってくれて良かった!
「キャゥー……?」
何やら、クレアの足下にいたシェリーから疑惑のジト目を向けられている気がするが、気のせいという事にしておこう――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します







