リーザの事を紹介しました
「ニックっす。アニキの作った薬草を、このラクトスに運ぶ役目を任されたっす」
ミリナちゃんが終わったら、次はニック。
「ニックは、ラクトスで薬草販売をしている公爵家運営のお店でも働いています。今言ったように、薬草を運ぶため、ランジ村にもよく来ると思いますので、覚えておいて下さい」
こちらは一応補足しておく、顔の方は多分一度見たら忘れる事はないだろうけど。
「デリアです。ラクトスから近い、ブレイユ村から来ました。えーっと……見ての通り、獣人ですけど仲良くして下さい!」
そう言って、思いっ切り頭を下げるデリアさん。
薬草園、畑の管理を任せるつもりのペータさんの後だからか、少し落ち着いて立ち上がってから自己紹介だったんだけど、話している途中にまた緊張してしまったようだ。
獣人であるのは、隠していないのでこの場にいる全員がわかっている事だけど、数人程訝し気に見る人や、物珍しいものを見る目を向ける人がいるくらいで、敵意というか嫌そうにしている人などはいない。
ラクトスでは耳付き帽子が流行っているみたいだし、本当に獣人に対して差別的な考えを持つ人はほぼいないと言っていいんだろう。
「デリアさんは、薬草園というよりも俺の直属の部下……と言っていいのかな? 家庭教師を頼んでいます」
「……家庭教師、ですか?」
デリアさんに関する補足に、疑問の声が出る。
まぁ、当然だな。
「それは……リーザ、おいで」
なぜ家庭教師かを説明するために、リーザを紹介する必要がある。
大人が多いからだろう、部屋の隅でフィリップさんやヨハンナさんの後ろに隠れていたリーザを、手招きして呼ぶ。
「う、うん。パパ」
「「「パパ!?」」」
「んんっ!」
「「「……」」」
トコトコとちょっと緊張しながらも、俺の方へ向かうリーザ……始めて見た人達は驚くだろうなと思っていたけど、驚いたのは俺の事をパパと呼んだ事なのは予想外だった。
アルフレットさんの咳払いで、押し黙る会場の人々。
うんまぁ、獣人に関しては差別的意識がなさそうなのは確認していたし、デリアさんを先に見ていたからな。
ブレイユ村から来た人達は既にリーザの事を知っているので、そちらは落ち着いていたけど。
「よしよし、大丈夫だからな。――ラクトスのスラムにいた子を、保護したんです。血は繋がっていませんが、娘と思っています。この子に読み書きを教えるのがデリアさんですね」
俺の所まで歩いてきたリーザを抱き上げて、皆へ紹介。
成長途中だから、俺の横に立つだけだと皆からは机が邪魔になって、ピンと立った尻尾や耳くらいしか見えなさそうだったから。
リーザがスラムでっていうのは最初言うかどうか迷ったけど、隠しても仕方ない事だし……いずれ知られて変に思われるくらいなら、はっきり言っておいた方が良さそうだと考えてだ。
下手に隠そうとすればするほど、何かあるんじゃ? と邪推される可能性もあるからな。
「ほら、リーザ。皆に自分の事は言えるか?」
「う、うん。えっと、パパの娘でリーザでしゅ! あ……」
「ははは、ちょっと緊張し過ぎたな。大丈夫大丈夫」
リーザを促すと、頷いて自分の紹介……名前とかは既に俺が言っていたけど、こういうのは自分で名乗るのが大事だ。
そのための場だし。
ただ、多くの大人に注目されて緊張し過ぎたのか、最後の最後で噛んでしまい、俯くリーザ。
笑いながら、可愛い失敗をしたリーザの頭を、空いている方の手で撫でて慰めてやる。
「皆も気にしていないから、大丈夫だぞ?」
「ほ、本当?」
「あぁ、ほら……」
「う……んっ!」
「あははは、まだちょっと慣れてないか。うんうん」
俯くリーザに優しく言って、もう一度顔を上げてもらう。
皆に注目されているのが恥ずかしかったのか、俺の胸に顔を埋めてしまった……尻尾は少し揺れているので、拗ねているとか機嫌が悪くなったとかではないっぽい。
リーザのおかげで、和やかな雰囲気になる会場。
クレアやセバスチャンさんなど、屋敷で知っている人達は当然の事ながら、集まった人たちも微笑ましい笑顔でリーザを見ていた。
ペータさんを含めた何人かは、何故か拳を作って涙ぐんでいたけど……年齢高めの人達だから、孫を応援する心境とか?
あと、女性や男性の一部は、リーザの尻尾や耳を見ている。
これはあれだな、ライラさんやヨハンナさんにあった、ふわふわの毛を撫でてみたいとか考えているんだろう……数人ほど、手をワキワキさせている人もいた。
だが、リーザを撫でるにはフェンリルという難関? を乗り越えてからだ! 尻尾とか、デリケートみたいだし。
「タクミ様」
「あ、はい。――リーザ、すまないけどライラさんと一緒に、な?」
「うん、わかった」
ライラさんに声を掛けられた事で、正気に戻って抱き上げていたリーザを預ける。
抱かれるのが俺ではなくライラさんになっても、皆の方ではなく顔を隠すようにしているな、少しずつ慣れて行って欲しい。
「んんっ! えー、獣人ではありますが、他の子供達と変わらないように接してもらえればと思っています。ちょっと好奇心が強くて、やんちゃな事もありますが……賢い子なので」
「パ、パパ~……」
「おっと、ごめんごめん」
リーザの事になると、どうしても親バカモードになってしまう……エッケンハルトさんの気持ちがわかってしまうのがなんとも。
恥ずかしがるリーザから、クレームが出たので苦笑しつつ謝った。
うん、俺もそうだけど会場全体の緊張が解れたな。
この先も続くそれぞれの自己紹介も、この雰囲気なら緊張しすぎる事もないだろう……完全に後付けで、狙ってやった事じゃないけど。
「すみません、ちょっと話が逸れましたね。アルフレットさん、続けて下さい」
「はい。では次に……」
リーザを大々的に紹介する場ではないので、話しが逸れた事に軽く頭を下げて、進行役のアルフレットさんに任せる。
その後は皆も緊張が解れたのか、少し和やかな雰囲気のままそれぞれの自己紹介が進んだ。
中には、面談で見て俺が目星を付けていたというか、雇用する予定にしていた人達もいた――。
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