ニックを連れて会場へ行きました
「鳥の魔物……もしかして、スラムに乗り込んてきたのって……?」
「そのティルラちゃんだ。乗り込んだというより、スラムをどうにか真っ当にしたいって思いからだったみたいだけどな」
「そ、そうなんですかい。あの女の子が、姫なんですか……」
ニックにも、ティルラちゃんを姫と呼ぶスラムでの話が伝わっていたようだ。
話を聞いただけだと、巨大な魔物を使って乗り込んできた恐ろしい人物、のようにも感じられるからだろう、ニックの表情が少し引き攣った。
スラムに詳しい使用人としてアロシャイスさん、ラクトスのスラムをよく知っているニック、それからセバスチャンさんの補助があれば、ティルラちゃんも色々と考えられるだろうから、頑張って欲しい。
……ティルラちゃんはクレアの妹なんだけど、ずっと屋敷でレオと遊んでいたり、相談に乗ったりしているのもあって、なんだか妹のようにも感じてちょっと過保護な考えになっているかもしれない。
リーザが娘だとしたら、ティルラちゃんは妹か……年齢的な違いは色々あるけど、なんとなく自分の中でしっくり来ている。
そんな事を考えながら、カレスさんに断ってニックを連れて店を出る。
外にいたレオやティルラちゃんを置いて、俺達はクレア達が待つ役所の方へと向かう。
ティルラちゃんに声をかけた時、ニックが体を硬直させていたけど……まぁ、公爵家のご令嬢を前にした緊張と思っておこう……ラーレも含めた怯えかもしれないが。
「タクミ様、お待ちしておりました」
「ジェーンさん、お待たせしました」
「えっと、この人がさっき言っていたアニキの新しい使用人ですかい? 姐さん、こんちわっす! ニックっす」
「ニックさん、お話は伺っておりますよ。ただ、その呼び方はちょっと……」
ニックを連れて、顔見せの会場になる役所に到着すると、ジェーンさんが入り口で待っていてくれた。
俺を準備した会場に案内するためだろう。
ニックには道すがら、新しく雇った使用人さんやアルフレットさんの事を伝えていたんだけど……ライラさんに続き、ジェーンさんも姐さん呼ばわりか。
年齢的には違和感がないけど、メイド服を着ている人に対して姐さんと呼ぶのは違和感がすごい。
ジェーンさんの方も微妙な表情をしているし、ライラさんも後ろで溜め息を吐いているから、治させた方がいいんだろうか……?
まぁ、その辺りは追々だな。
「ジェーンさん、会場の方は?」
「すでに準備を終えて、おります。呼んだ者達は別の部屋で待機しており、クレアお嬢様やセバスチャンさんは、ラクトス代表のソルダンさんと歓談中です」
「そうですか……ソルダンさんかぁ」
「何かあるんですかい、アニキ?」
「いや、特に何かあるわけじゃないんだけどな……」
準備はもう終わっているのは、さすがだ。
まぁ、多分椅子を並べたりするくらいだろうから、皆でやればすぐ終わるか。
ただ、今回もソルダンさんがいるようで、ちょっと気後れする……俺はまだ本当の意味で、マシンガントークを受けているわけじゃないけど、エッケンハルトさんを持ち上げるというか、称賛を聞くのはちょっとだけ苦手だ。
悪い人ではないと思うし、エッケンハルトさんも凄い人であるのは間違いないんだろうけどな。
「そうだニック、言葉遣いとかは……まぁ、すぐにどうにかなるものじゃないから、そのままでいいかもしれないが、あまり変な事はするなよ?」
「へい、わかってますってアニキ!」
うん、なんとなくだけどわかってないような調子のいい返事だ。
セバスチャンさん達を含めた、使用人さん達などもいるから滅多な事にはならないと思いたいけど……なんとなく嫌な予感がして注意してみたけど、これはちゃんと見てなきゃいけなさそうだ。
ライラさんに視線を送るだけで、俺の考えを察してくれたらしく頷いてくれた、頼もしい。
「失礼します」
ジェーンさんに案内されて、通された部屋は以前面談に使った場所とは別の部屋だった。
前回の方が小会議室としたら、今回の部屋は大会議室と言ったところだろう……屋敷の客間や食堂より大きく、百人くらは余裕で入れそうな場所だ。
既に人数分の椅子が用意されてあり、それに向かうようにして執務机と椅子が二つ。
多分、俺とクレア用だろう。
「タクミさん」
「クレア、ソルダンさんの方は?」
「セバスチャンが相手をしています。悪い方ではないのですが……お父様への賛辞が、娘の私にはどうにもむずがゆくて……」
「あはは……」
俺が入ってきた事に気付いたクレアは、セバスチャンさんとソルダンさんのもとを離れて俺に駆け寄った。
見慣れない着飾ったクレアは、ちょっと今までとは変わったように見えている部分もあったけど、こうして駆け寄ってくる姿はいつも通りで安心する。
でもソルダンさんの相手をしなくていいのかな? と思ったけど、ちょっと苦手な部類の人だったらしい。
まぁ、よく食べ方などを注意している父親相手を、ひたすら称賛されたら娘として気恥ずかしいというか、微妙な気分なんだろな……とはいえ、嫌な事でもないのでただ苦手なだけ、と。
とりあえず、ソルダンさんの相手はセバスチャンさんに任せておこう……こちらに気付いたソルダンさんには、俺も会釈だけしておいた。
「あれは、旗?」
「はい。この国の国旗と、公爵家の旗になります」
「へぇ……そういえば、公爵家の紋章は見た事があるけど、国の紋章は初めて見るね」
俺とクレアが座る予定らしい、執務机の左右にはそれぞれ二本の旗が立てられていた。
よく見ると、片方はレリーフなどで見た公爵家の紋章が入っているので、あちらが公爵家の旗だろう……ちなみに、よくよく見てみると、屋敷のあちこちにも簡略化された紋章が入っていたりするから、見慣れている。
もう一つ、シルバーフェンリルを象ったこの国の紋章は初めて見るけど……確かに、公爵家の紋章と対比してみてみると、その違いがよくわかる。
国の紋章は、シルバーフェンリルがお座りしている恰好で、公爵家の方はシルバーフェンリルが今にも飛び掛かろうとして、爪や牙を見せている恰好。
確か、国の紋章は何者にも負けない国家、公爵家は何者をも打ち倒す象徴としているんだったか。
どちらも恰好いいんだけど、俺から見るとなんとなく可愛くも見えるのは、大きくなったレオを見慣れ過ぎているからかもしれない――。
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