希望を持たせる形で話を終わらせました
俺は薬草畑をしながら、レオやリーザと楽しく過ごしていきたいだけだから、誰かの上に立ちたいとは思わない……エッケンハルトさんとかを見ていると、面倒そうだし。
レオやフェンリルの能力を知れば、力でなんとでもできるだろうとは思うけど、そのためにフェンリルと仲良くなったわけじゃないのもある。
というより、レオをそんな事のために利用しようなんて欠片も思わないからなぁ……。
「とは言っても、私やタクミ様はここでウィンフィールドさんの考えを知ったので、旦那様にこちらから進言する事はできません」
「は、はい」
「当然ながら、推薦制度というのは貴族に空きができた場合に、適応される制度であり、もちろん推薦されたからといって必ず貴族になれるわけでも、そして推薦される事が決まっているわけでもありません。そこのところをお間違いなきように」
「……肝に銘じます」
「私からの助言になりますが……旦那様は今、この屋敷やラクトス、そしてタクミ様に向いておられます。タクミ様に選ばれても良し、この屋敷に残って働くも良し。どちらにしても目に留まる機会は多いでしょうなぁ……」
俺の事はともかく、セバスチャンさんの口車によって納得させられたウィンフィールドさん。
推薦制度に関して俺への疑念は晴れたようで、この屋敷に来てから今まで見た事のない清々しい笑顔で、部屋を出て行った。
……まぁ、問題は解決したっぽいけど、あれで良かったんだろうか……?
「それにしてもセバスチャンさん、良かったんですか?」
「何がですかな?」
ウィンフィールドさんが退室した後、改めてライラさんの淹れてくれたお茶を飲みながら、セバスチャンさんに聞く。
とぼけているようで、明後日の方向をみながら首を傾げるセバスチャンさんは、俺が言いたい事をわかっている様子だ。
「あの言い方だと、いずれ貴族への推薦が行われるように感じますよ? もしかすると、今後新しい貴族が必要になる事はないかもしれないのに……」
可能性としてはゼロではないけど、貴族が入れ替わる事なんて、簡単に起こるわけじゃない。
次期子爵のアンネさんは、こちらにいる間に大分意識が変わったみたいだし……直接温情と言い渡された事で、次はないと気を引き締めているはずだ。
つまりは、この先ウィンフィールドさんの望みである推薦は行われる保証はないわけだ。
「まぁ、不正などをしていても、隠していている貴族が多いですからな。爵位の剥奪をされる貴族は早々出ないでしょう」
「でも、それでもあぁ言う事で、セバスチャンは使用人として働いてもらうよう仕向けたのでしょうね。納得しないままだと、使用人を続けても自分を責めてしまいそうだったから」
俺の言葉に頷くセバスチャンさんは、やっぱりわかっていてさっきの話をしたようだ。
それを補足するように、部屋の中に入りながら話すクレア……。
「クレア……って、窓から入って来るんだ。リーザやレオも……あー、レオにはさすがに狭すぎるから、回ってこないとな?」
「ワフ……」
「ママ、一緒に行こー!」
クレアの後に続き、身長が足りないリーザはレオの頭に押されて窓から入って来る。
ただ、同じく窓からと思ったレオは、体が大きいせいでつっかえて中に入れない。
このままだと窓枠や壁が危うかったので、回って来るように言うとしょんぼりして体を離すレオ。
落ち込んだ様子を見かねたのか、リーザが一緒に行くと言って再び窓の外へ……中に入った意味がなかったが、まぁいいか。
「クレアお嬢様、少々はしたないですかな?」
「あら、ごめんなさい」
セバスチャンさんはクレアに注意をしていたけど、楽しそうに笑って謝るだけで終わっていた。
「……それだけで済ませるんですね」
「誰に似たのか……はぁ……今ここには私達以外いないので、良しとしましょう。……タクミ様には見られていましたが」
溜め息を吐くセバスチャンさん。
誰に似たのかはまぁ、エッケンハルトさんだろうけど、セバスチャンさんの影響もないとは言えない気がする。
「はっ! タ、タクミさん。い、今のはちょっと勢いで来ちゃっただけで……その……」
「ははは、大丈夫だよ。あのタイミングで話に入ろうとしたら、窓から入るしかなかったからね」
俺が見ていた事に思い当たり、ようやく恥じらう様子を見せるクレア。
いつだったか、淑女に……と言っていたのはなんだったのかと思わなくもないけど、クレアがやりたいように、楽しそうにしているのが一番と言ったのは俺だからな。
苦笑しながらだけど、フォローもしておいた……できているかは言っている自分でも疑問だが。
「何はともあれ、これでウィンフィールドさんが真面目に仕事に励んでくれるでしょう。若くて見込みのある者が、使用人として使えるのは公爵家にとっても、タクミ様にとっても良い事です」
「そうね。捨てきれない思いや考え、というのはあるものだから……」
そういえば、クレアはシルバーフェンリルに対して感情が沸きあがるような、特別な感覚があるんだったか。
フェンやリルルと出会った時に、気にする様子はあったけど、森の探索をした際に言っていた、これ以後はできるだけ気にしないように振り切れるようにする。
というような事を言っていたから、ウィンフィールドさんの気持ちもよくわかるのかもしれないな。
「パパー!」
「ワフー。キューン……」
「ははは、ちゃんと屋敷の中を通って戻って来たな。よしよし」
「ふふふ。お帰りなさいませ、レオ様」
「ワフ!」
セバスチャンさんやクレアと話しているうちに、ちゃんと部屋の入り口から入って来るリーザとレオ。
自分だけ窓から入れなかったので、落ち込んでいるのか、ちょっと甘えモードだ。
俺に頭を擦り付けるようにして来たので、撫でてやる。
「……最近、リーザの前でもよく甘えて来るけど、いいのかレオ?」
「ワフゥ? ワフワフ」
以前は、リーザやシェリーの前で格好つけようとしていたのか、甘えた姿を見せたがらなかったレオだけど、最近はちょくちょく撫でて欲しそうにすり寄って来るからな。
そう思って聞いたら、レオからは特に気にしないとの返答。
……もしかすると、以前レオのお腹を撫でているところをリーザに見られて、吹っ切れたのかもしれないな。
あと、躊躇していると俺がフェリー達を撫でるから……とか? 考えすぎかもしれないが、やきもちを焼いているところを何度も見ているので、あながち間違いじゃない気もするなぁ――。
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