言及する事にしました
「では、ウィンフィールドさんは、この先も使用人として働いて行こうと、そう考えているんですね?」
「もちろんです。公爵家に仕える事も光栄に思っておりますが、レオ様を従えてフェンリル達をも従えているタクミ様。もし選んで頂けるなら、粉骨砕身、お役に立てるよう微力を尽くす所存です」
「ふぅむ……ん、美味しいですね。ありがとうございます、ライラさん」
「いえ」
これまでの話を踏まえ、念押しするようにウィンフィールドさんへと確認。
すると、真っ直ぐ俺を見つめて使用人として働くと言い切った……目を逸らしたりはしていないし、怪しい雰囲気でもない。
ただ単純に真実、思っている事を言っているように見える、俺から見たらだけど。
ウィンフィールドさんの言葉を受けて、ライラさんが注いでくれたお茶をのみ、お礼を伝えるフリをしてアイコンタクト……いや、お茶は本当に美味しいんだけど、それはともかく。
ライラさんの視線からは、やはり追及するべきと考えている様子が見て取れる。
手に持ったお茶のカップを置きながら、クレア達の方を見ても同じくだ……セバスチャンさんからの「聞かない選択肢はないですよね?」と言っているような微笑みから感じる圧が、特に強い。
はぁ……こういった追及とか、得意じゃないんだけどなぁ……仕方ない。
「……ウィンフィールドさん。あまりこういった事を言うのは得意ではないんですが……嘘を吐いていますよね?」
「え!?」
ライラさんが新しく注いでくれたお茶を一口飲み、心を落ち着けてからウィンフィールドさんに告げる。
遠回しに探るのは俺にできそうになかったので、なるようになれで直接踏み込む。
視界の隅で、セバスチャンさんがよく言ったと示すように頷いていた。
ウィンフィールドさんは、嘘と言われて目を見開き、驚いている様子だ……さて。
「先程、一族の復興を考えていないとウィンフィールドさんは言いました。確かに、代を重ねるごとにそういった考えは薄れていくのかもしれません」
生まれた時には既に貴族ではなく、使用人として働く親を見ているんだから、実は元貴族で……と言われてもあまり実感は沸かないだろうからな。
ただこれは一般論というか、俺の考えであり、ウィンフィールドさんが本当にそう思っているのかは、また別だ。
「でも、ウィンフィールドさんはそうは考えていない……おそらく、俺がエッケンハルトさんからウィンフィールドさんの事をほとんど聞いていないから、あぁ言ったんでしょう」
「そ、それは……」
「確か、推薦制度……でしたっけ?」
「っ!?」
その言葉を出すと同時、ウィンフィールドさんは声を飲み込んで視線を逸らした。
……やっぱりか。
「新しく誰かを叙爵する際、既存の貴族達から推薦を募る事がある。適用された例としては、これまで一度か二度くらいしかなかったようですけど……爵位の高いエッケンハルトさんなどの、公爵家から推薦されれば、もしかしたら貴族になれるかもしれない……」
「……」
ジッとウィンフィールドさんを見つめながら、教えてもらった推薦制度について話す。
推薦制度……正確には、貴族なんたらかんたら推薦うんたら制度……なんていう、長くて大層な名称だったと思うけど、とにかく貴族が次の貴族にするために、有力者を推薦する制度だ。
まぁ、ウィンフィールドさんに言ったように、推薦されて貴族になった人はこれまでに数例いるくらいで、かなり昔の事らしいけど。
……すごく穿った考えをすると、以前ユートさんが新しく誰かを貴族にするのは大変、と言っていたからそれを省略するために考えた制度な気がしたりもする。
推薦制度はその時の貴族が推薦するものだけど、採用されるかどうかは別として、使用人が候補に挙がる事が多いらしい……まぁ、一緒にいる事が多くて人となりが分かるからだと思われる。
貴族として、領地を治める仕事とかも、近くで見てある程度知っているからな。
「制度以外にも、貴族にもしなれたらこうして領民を従え、治める……と語っていたとか」
「ど、どうしてそれを……」
「まぁ、よくわからない所からよくわからないうちに、色んな話を仕入れている人が喜んで教えてくれましたよ……ははは」
セバスチャンさんだけどな。
ウィンフィールドさんの事を聞くうえで、噂とか同僚の使用人と話していた事なんかを、喜々として話してくれた。
個人的な部分に踏み込み過ぎかな? とは思うけど、悪用するわけではなくてもある程度、他の使用人の事を知っているのは重要だからとか……。
どこでどうやってそういう話を知るのかは教えてくれなかったけど、その時の笑顔はしちゃいけない類の笑顔だった事を付け加えておこう……絶対、リーザには見せたくないやつだ。
「それで、どうして貴族に返り咲きたいとは思っていない、と嘘を吐いたんですか?」
「そ、それは……」
結局、セバスチャンさんにウィンフィールドさんの事を聞いてもそこがわからない。
別に祖先が元貴族で、自分もいずれはまた貴族に……と思う事は悪い事じゃない。
悪事を働いてとか、誰かを犠牲にとかなら話は別だろうけど、そういった感じじゃないしな。
なんとなく、達成できるかは別としてエッケンハルトさんの覚えを良くしようと必死で働き、いずれ推薦枠に入る事ができれば、と考えているんじゃないかな?
でもそうなると、クレアやリーザが感じた俺に対する違和感を持つのはどうしてなのか、と言うものわからない。
まぁ、俺のせいで使用人候補としてこの屋敷に来て、エッケンハルトさんと離れてしまったから恨んでいる、とかはあるかもしれないが。
どうでもいいけど、推薦枠というと、受験みたいだな……本当にどうでもいい事だけど。
「……ウィンフィールドさん、タクミ様は決して貴方を責めようというわけではありません。どうして嘘を吐いたのか、その理由が知りたいのです」
話そうかどうしようかを悩んでいるのか、ウィンフィールドさんが視線をさまよわせていると、俺の隣で黙って立っていたライラさんが、諭すように促す。
ライラさんも、結構ズルいなぁ……本来は俺に対する違和感を探るためで、嘘の理由を聞きたいわけじゃないのに……まぁ、理由がわかれば自然と感情の部分もわかりそうだからだろうけど。
とはいえ、否定しても話が進まないので、ライラさんの言葉に俺は頷いて一緒に促しておく――。
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