シェリーとリルルが戦い始めました
リーザやシェリーの通訳を通して聞いたけど………フェリーって、お爺さん犬……じゃなかった、お爺さん狼だったのか。
聞けば、結構前に巣立った子供達もいるらしく、別の群れで今は過ごしているのだとか……ある程度育ったフェンリルは、別の群れに加えてもらうのが多いらしい。
本能的に、同じ群れで血が濃くなるとかに気を付けているのかもしれないな。
あと、群れのリーダーは長老的な意味合いが強いので、戦闘での強さよりもそちらが重要視されるんだとか。
ちなみにフェリーの年齢を聞いたけど、人間が考える一年に一つ年を取る、という概念がわからなくて首を傾げられた。
でも、数万回は夜を越している、と言っていたので少なくとも数十年から百年近くは生きているんだろう……フェンリルって、長生きだなぁ……というか、回数の数え方はわかるのか。
しかも、フェリー自体はまだまだ老い始めたくらいで、人間で言うところの初老くらいなんだとか。
まだまだ衰えてはいない、というような事をフェリーは頑張って主張していた。
フェリー達を労った後は、シェリーとリルルによるフェンリル式戦闘訓練。
フェンリル式なんていっても、ただシェリーにリルルがあれこれ教えるだけなんだけども。
「今度は、安心して見ていられそうかな?」
先程のフェリー達のように、少し距離を置いて対峙するシェリーとリルルから離れて、様子を見ながら呟く。
今度は、立ち合いとか審判の必要がないので、レオは俺達と一緒だ……フェリー達も同じくだな。
「でも、シェリーが大丈夫か私は少し心配です……」
「相手はリルルだからね。フェンとかフェリーみたいに全力じゃなくてちゃんと加減してくれる……と思うよ」
対峙するリルルを見て、少し怯んでいる様子のシェリー……さらにそれを見て、心配するクレアとなっている。
ただ、血気盛んなフェンやフェリーと違って、俺の知っているフェンリルの中で一番穏やかな性格をしているリルルだから、大きな怪我をするような事はしないだろうと思う。
フェンに対して厳しい場面はあるけど、基本的にリルルは優しいからな。
「ガウゥ」
「キャゥ……」
悠々とシェリーの正面に立ち、かかって来いと言うように鳴くリルル。
正面から対峙する事で、母親の大きさを感じたのか、躊躇っているシェリー。
トロルドへのトラウマみたいな物もそうだけど、シェリーは少し臆病な性格なのかもしれないな……安心できる場所だと、結構はしゃぐけども。
「ガウゥ? ガウゥ……」
「キャウ!? ウゥゥ……キャウー!!」
「頑張って、シェリー!」
「頑張ってくださーい!」
「シェリー、負けちゃだめだよー!」
首を傾げたリルルが、姿勢を低くしていつでも動き出せる体勢になると、驚いたシェリーが大きく声を上げ、少し唸って決心したのか勢いよく飛び出す。
多分、来ないならこちらから……とリルルが戦う姿勢を見せる事で、シェリーを向かって来させたんだろう。
飛び出したシェリーを見て、クレアが大きな声で応援し、リーザやティルラちゃんも声援を飛ばしていた。
ただリーザ、シェリーがリルルに負けないってのは無理じゃないかなぁ?
「ガウゥ」
「キャイン!!」
「……なんだか、これと同じような場面を他で見たような?」
「森で、オークと戦った時ですね……」
勢い良くかけてリルルへと向かうシェリー、その速度は以前より随分速いと感じるものだったけど……リルルには通用しなかったようだ。
ペシッという音が聞こえてきそうなくらい、あっさりリルルの前足ではたかれて、横へと弾かれたシェリー。
フェン達のように、見えない程の速度ではないし簡単に目で追えるくらいだったし、体もまだリルルと比べて小さいシェリーならこうなるのも無理はない、のかな。
「ガウゥ!」
「キュゥ……キャウ!」
「お、立った。オークの時とは違うみたいだね」
「ですね。あの時はレオ様が声をかけるまで、戦意喪失しかけていたように見えましたから」
「頑張れー、シェリー!」
「立ち上がって下さい、シェリー!」
リルルが威嚇するように、牙を剥き出しにしてシェリーへ吠えると、一度落ち込んだ声を漏らした後、すぐに吠える。
以前とは違って、シェリーの方もすぐに諦めたりはしないようだ。
弾かれたシェリーが、よろよろと立ち上がろうとする姿に、リーザとティルラちゃんの声援にも熱が入るけど……なんとなく、ボクサーの試合を応援しているような感覚になった。
脳内で有名なボクシング映画のBGMが流れているのは……無視しておこう。
「キュゥ……ギャウ!」
「ガウゥ!」
完全に立ち上がって、顔や体を震わせて毛に付いた土や砂埃なんかを落としたシェリーは、キッとリルルの方を睨んで駆けて行き、再び飛び掛かる。
迎え撃つように吠えるリルルだったけど、その途中……空中でシェリーが姿勢を変えた。
「ガウゥ?」
「……キュゥゥゥゥ、キャウー!!」
「ガウゥ!? ガウ……ガァウ!」
「あ、あれって……」
「魔法……ですね」
さすがにフェリー達のように、宙を蹴って方向を変える事はできないようだけど、咬み付くような姿勢から体を丸めるような姿勢になり、力を溜めている様子。
そこからさらに、首を傾げるリルルに向かって大きく吠えたシェリーの顔の前から、青色の光のようなものが迸る。
驚いた様子で声を上げるリルルだけど、シェリーに向かって吠え返し、向かって来る青い光を避けた。
そのまま直進した光は、地面に当たり小さな範囲で凍らせる……見ている俺達もちょっと驚いたけど、オークと戦う時に使っていた魔法のようだ。
「ガウゥ! ガウガウゥ!」
「キャウーン!」
「あ……」
魔法を使っておいて、その後自分が噛み付く……と考えていたんだろう。
シェリーは最初の勢いのまま、リルルへと向かって行っていたんだが、魔法を横に飛んで避けたリルルが体を回転。
怒るように吠えながら、回転する勢いのまま、リリルは尻尾を使って飛び込んで来るシェリーを弾き飛ばした。
先程前足で飛ばされた時よりも、遠くまで放り出されたシェリーは、勢いのまま地面に打ち付けられる……大丈夫だろうか?
「シェリー!」
「ワーフ」
思いっ切り飛ばされたからか、心配している様子だったクレアが地面に落ちたシェリーの所へ駆け出そうとする。
それを、レオが横から顔を出して止めた。
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