フェンリル達が力比べをするようでした
「それで、なんでこんな所に……?」
「ワフ?」
俺を乗せてくれていたレオから降り、リーザが降りるのを手伝いながら、問いかける。
全部知っていると思っていたのか、俺の言葉にレオは首を傾げた。
今俺達が来ているのは、以前レオやフェンリル達と一緒に散歩中、オークやトロルドを倒した場所の近く。
見渡す限り何もない原っぱだ……雑草やら木やらはちらほらとあるにはあるけどな。
そんな場所で、フェンリル達が俺やレオを向いてお座りで整列していた……何やらやる気をみなぎらせている雰囲気が伝わって来る。
特にフェリーとフェンから、気迫のようなものが強く感じるなぁ。
ブレイユ村で、フェルと遭遇した時の事を思い出した。
「タクミさん」
「クレア。えーっと、これは一体?」
「それは私から説明させて頂きましょう……」
レオが止まった場所の近くにいたクレアから、声を掛けられる。
そちらにどういう状況なのかを聞いてみると、さらにクレアの後ろからセバスチャンさんが登場……説明できるとあってか、その表情は明るいから、やっぱり深刻な状況ではないようだな。
他にも、周囲にはアルフレットさん達使用人候補さん達が数名いるから、散歩の途中だったんだろう。
あ、ラーレもいるな……背中に鞍を付けていて、近くにティルラちゃんいるから、飛んで連れてきたんだろう。
「つまり、フェンリル達の中で誰が一番強いかを決める……と?」
「はい。最初は走りで決めようとしていたのですが、私達が乗ったままでしたので……」
セバスチャンさんの説明によると、リーザが最初にふとした疑問として、フェンリル達を見て誰が一番強いのか、と言ったらしい。
そこから、群れのリーダーをやっていたフェリーが、自分が一番強いのだと主張。
フェンがそれに対し、シェリーにいい恰好をするためか、今なら負けないと主張をした事で対立。
それならと走る速度を上げて、どちらが早いのかで決着を付けようとしたらしいが、そこは人が乗っている状態だったので、一旦降りてからと仕切り直し。
まぁ、人を乗せたままフェリー達が全力で走ったら、危険過ぎるからな。
そうして、止まった場所で皆が降りている最中に、フェリー達の闘争心的なものが燃え上がったらしく、戦って決着を付けるとなったらしい……気付いたら、フェリー達の間で決まっていて、クレアやセバスチャンさんでは止めようがなかったのだとか。
さらにレオが、鼓舞というか焚き付けるように吠えたりもしたらしく……シェリー以外はどのフェンリルも誰かの従魔にもなっていないので、命令で止める事はできない……と。
「タクミ様なら止められるかと思い、リーザ様に呼んで来てもらったのですが……」
「……見るからに、おさまりがつかない感じですよね」
フェリーとフェンは両方お座りしているけど、時折視線を交わして牙をむき出しにしたりと、お互いを威嚇するのに余念がない。
もう、戦う気満々というか、戦う事が決まっていると言っていいだろう。
レオがいてくれるおかげで、動き出さないだけのようにも見えた。
「リーザちゃんを乗せたレオ様が、屋敷に向かった後から……いつ戦い始めてしまうか、私を含めて戦々恐々としていました。巻き込まれたら大変ですから」
「その割には、結構楽しそうだねクレア……」
大変と言いつつ、本当に困った様子ではないクレア。
他の人達も、フェンリル達の戦いが見られるからか、どこか楽しそうな様子も見受けられる。
まぁ、フェリー達の日頃の様子を見ていると、こちらを巻き込んだりはしないだろうから、単純に楽しむつもりなのかもしれない。
優劣をつけるつもりはないけど、フェンリルの戦いというのは興味があるからなぁ……トロルドやオーク相手だと、力の差があり過ぎるから。
「はぁ……これも、ストレス解消になるのなら、存分にやってもらった方がいいのかもしれないなぁ……」
「ワフワフ、ワフ!」
「体を動かすのは、大事! だってー」
「そうかもしれないけど……走るだけじゃ足りなかったか」
血気盛んというわけでもなく、これまでフェンリル達がおとなしかったから、あまり想像していなかったけど……定期的に狩りみたいな事をさせた方がいいのかもしれない。
狼と考えれば、確かに群れで狩猟をする生き物でもある。
ともあれ、今はこの場をどうにかしないといけない……フェリーとフェンを見る限りでは、もうおさまりが付かなくなっている様子なので、止めるのは難しそうだ。
レオから言ってもらえば止まるだろうけど、後々に不満を残しそうだからな。
「えーっと……まず、魔法は禁止! 全力で魔法を使ったら、俺達が危ない!」
「ワフ、ワフー?」
レオの前、フェンリル達に向かって大きく声を張り上げる。
後ろで魔法くらいこっちに来たら防ぐ……みたいな事を言っているレオは、とりあえず気にしない。
戦うのなら、周囲に危険がないようにルールを決める事が重要だ。
お互い、本気の命の取り合いをするところなんて、見たくないからな。
「多少の怪我なら仕方ないと思うけど、やり過ぎないように!」
目などの危険部位は狙わない、相手に致命傷を負わせない……等々、危険行為を禁止するルールを決めていく。
ある程度の怪我くらいなら、俺がロエ作って治すから大丈夫だけど、やり過ぎないためには必要だ。
後ろにレオがいるからか、それとも懐いてくれているからか、俺の言葉に頷いてくれるフェンリル達。
それはいいんだけど……。
「……なんで、リルルとシェリーもいるんだ? フェリーとフェンの喧嘩じゃないのか?」
「ガウゥ? ガウガウゥ!」
「キャゥー」
ずっと気になっていた事ではあるけど、お互いを威嚇するフェリーとフェン以外にも、同じくお座りして整列しているリルルとシェリーがいる。
聞いてみると、首を傾げた後に吠えるリルルと、頷くシェリー。
フェリー達みたいにやる気をみなぎらせてはいないけど、それなりに戦う気が滲み出ている。
険悪な雰囲気ではなく、どちらかと言うと和やかではあるけど……。
「ガウゥガウゥ、ガーゥガウ!」
リルルが前足を動かしながらと一緒に吠える。
事情を説明しようとしくれているんだろうし、それはありがたいんだけど……なんて言っているのか、俺にはわからなかった――。
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