使用人候補さん達の次は別の雇用者選びでした
ヴォルターさんに物語をというのは、それだけだと執事の仕事や能力とは少し方向性が違ってしまうので、本人がどう思うかではある。
それはともかくとして、屋敷での様子を見るとセバスチャンさんと少し距離を置いた方がいいんじゃないかと思った。
ヴォルターさんに対して、セバスチャンさんが厳し過ぎるきらいがあるからなぁ……ミリナちゃんやゲルダさんも、同じ事を感じているようだ。
ゲルダさんの言う経験と言うのは、ドジをして失敗した時の事だろうけど。
「確かに、嫌がるヴォルターさんをフェンリルに乗せていますし、少々行き過ぎな面もあるのかもしれません」
「他の人なら楽しんでからかったりはしますけど、ヴォルターさんにだけは違うんですよね。だから、同じ屋敷にいるよりも離れた方がいいのかなと……」
この先、また新しく使用人さんが屋敷で雇われた場合、ヴォルターさんがいたらセバスチャンさんの厳しい部分を見てしまう。
それ自体は悪い事じゃないかもしれないけど、悪い意味で特別扱いになるような気がした。
あと、ヴォルターさんが反発する事があれば、対立する構図ができてしまうかもという心配も……まぁ、そういうのはセバスチャンさんがすぐに潰しそうだけど。
「ランジ村に行っても、この屋敷と一切交流しないわけではないですから……時折顔を合わせるくらいがちょうどいいのかもしれません」
毎日顔を合わせるのではなく、さりとて屋敷と本邸みたいに距離が離れ過ぎていて、ほぼ顔を合わせる事がないわけではない。
そうして、少しずつ親子関係の改善を図れたら……と考えるのは、余計なおせっかいかもしれないが。
物語を創作してとかは、ヴォルターさん次第くらいで考えておこう。
クレアが考えていたように、俺の知識の補強を担ってくれるとありがたい……仕事も含めて、真面目にやってくれるかどうかは、わからないけど。
「ヴォルターさんは、選ぶ前提ではありますが……今ここで決定ではありませんので、もうしばらく様子を見ましょう」
「そうですね。ウィンフィールドさんとは違った意味で様子見です」
そうして、本人達に確認する必要はあるけど、とりあえず選ぶ人達を決めた。
一部保留にしている人達は、また改めて相談……というか会議を、今度はセバスチャンさんとかの意見も聞きながらする事に。
「はぁ……とりあえず、こんな感じですかね」
「お疲れ様でございます」
テーブルの端に、使用人候補さん達の詳細が書かれた書類を置き、大きく息を吐く。
俺主導ではあったけど、相談しながらだったのでちょっと疲れてしまった。
ライラさん達に労われながら、新しく淹れてもらったお茶を飲んで、休憩を……。
「次は、ランジ村の薬草畑の方で雇う人員ですね」
「あー、そっちもありましたね……」
休憩して一息入れた後、レオ達の様子を見に行くかな? と思っていたら、ライラさんが別の書類の束を俺の前に置く。
それは、ラクトスで面談をした人達やまだ会った事のない人達も含めた、雇用者リストだ。
パラパラとめくってざっと目を通してみると、いつの間にかクレアの事が書かれた部分が抜けており、代わりにブレイユ村で会ったペータさんが加わっていた……いつの間に……。
「とりあえず、デリアさんとペータさんは決定だから……」
デリアさんはリーザの家庭教師として、ペータさんはクレアやセバスチャンさんも交えた話し合いで、雇う事が決まっているので、紙束の中から除外しておく。
あとは、面談に来た人たちの中で俺が気になって、印を付けてある人も束から出して分ける……こちらは除外ではなく、雇用者としてどうかなと相談するためだ。
「えーっと、この人は良さそうかな?」
「この方は農業経験はないようですが、単純作業に向いていそうです」
「あ、この人はどうですか? 薬師ではありませんけど、薬の調合を手伝った事があるって書いてあります」
「この男性は、本邸近くの街出身のようですね……」
などなど、皆で書類を回し見してそれぞれ気になる人をピックアップしていったり、人物情報から雇っても良さそうな人かどうか、意見を交換し合う。
使用人さんもそうだけど、一番最初に考えていたよりも大所帯になりそうな気配だ……。
「パパー! ちょっと来てー! フェリー達が面白そうな事をやるみたいなの!」
「っ!? リーザか。部屋に入る時は、ノックを……」
「もう、いいからー。早く来てパパー!」
ライラさん達と、雇用者の相談をして大まかに決まったくらいで、突然ドアを勢いよく開けてリーザが入って来る。
書類と睨めっこしつつ、話しに集中していたのでかなり驚いた……心臓に悪い。
ライラさんは特に表情を変えていなかったけど、ゲルダさんとミリナちゃんも驚いているようだ。
あまり驚かさないように、ノックを……と注意しようとしたら、タタタッと俺の所へ駆け寄ったリーザが袖を引っ張り、どこかへ連れて行こうとする。
「……大まかには決められたので、今日はこのくらいにしておきましょう。これ以上はタクミ様も疲れてしまいますから」
「すみません、ライラさん。――それでリーザ、一体なんなんだ?」
集中が途切れてしまったのもあるんだろう、ライラさんが雇用者会議の終了を告げる。
まぁ確かに、色々な事を考えて相談して……脳が疲れているような感覚があるから、ちょうどいい頃合いだったんだろう。
ゲルダさんもミリナちゃんも、大きく息を吐いているからな……これは、リーザが入って来て驚いたからか。
「フェリー達が戦うの! だから、パパも見たいかなと思って呼びにきたんだよー!」
「え? フェリー達が……?」
楽しそうに言うリーザだけど、フェリー達が戦うって一体……?
リーザの様子から、そこまで深刻な雰囲気じゃないのは伝わって来るが、魔物でも見つけたのだろうか?
「早く早くー! ママが外で待ってるから!」
「わ、わかったリーザ。――ライラさん、すみませんが……」
「はい、こちらの事はお任せください。片付けもしておきますので」
ぐいぐいと俺の手を引っ張るリーザ。
レオが外でって事は、裏庭かな? ともかく、この場の事というかテーブルに散らばった書類などを、ライラさんに任せてリーザに付いて行く事に。
ここまでリーザが主張するのは珍しいな……スラムやお墓参りが、いい影響を与えたのかもしれない。
なんて考えつつ引っ張られるままに部屋を出て、時折廊下で躓きそうになりながら外へと向かった……結構、リーザの引っ張る力は強かった――。
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