それぞれの使用人候補さん達の事を考えました
アロシャイスさんの次は、シャロルさんが指名から外れている事を、ライラさんに質問される。
会社で働かなければいけない、せっかく就職したのだから辞めるなんてできないし、周囲に迷惑はかけられない……と考えて体を壊しかけた……いや、実際に壊した事もある、あの頃の俺と。
だから少し様子見をして、無理をしているようなら俺が止める事ができるかも、なんて考えていた事もあったけど、この屋敷には頼もしい人達がいっぱいいるから、大丈夫そうなのだと気付いた。
無理難題を吹っ掛ける上司がいるわけでも、ろくに休む時間が与えられずに働かされたりもしない。
それなら、俺のところで使用人をするよりも、もっと広くお世話をする機会ができそうな屋敷の方がいいのだろう。
それらの事を、俺の以前働いていた会社に関する部分はぼかして、ライラさん達に伝えて納得してもらった。
「あとはウィンフィールドさんなんですけど……」
リーザとクレアが、なんとなく引っかかっている人物。
ラクトスに行く途中で聞いた話だけど、あれからもウィンフィールドさんは特に何かがあるわけでもなく、卒なく色んな事をこなしてくれていた。
フェンリル達との接し方にも問題はないし……。
「リーザ様やクレアお嬢様が、何かを感じられたようですね」
「私は、特に何も……仕事のできる方だなとしか」
「私もです」
「……俺も同じく。ただ、リーザやクレアくらいしか引っかかってないんですよね。でも……」
「はい、私達もそうですが、多くの使用人はクレアお嬢様に見出されています。全員ではありませんので、ウィンフィールドさんもそうなのでしょうが……あのクレアお嬢様が何かを感じられたのなら、気に留めておくべきです」
「そうですよね」
俺を含め、この場にいる誰もがウィンフィールドさんは他の使用人さんと同じく、何かあるような感じは受けていない。
ただ、クレアやリーザが気になる何かを感じただけだ。
でも、その二人がそう言っているって事は、何かがあると俺は思う……ライラさんも同意見のようだ。
「リーザ様も、私達が気付いていないちょっとした事にも気付く事があります。ちょっと気分が落ち込んでいたりとか……まぁ、女なら誰しもあるのですけど」
「ゲルダさん、師匠は男性なのですから、そういった話は……」
「あー、うん。まぁ……なんとなくはわかるから、大丈夫。あはは」
リーザは周囲の人の感情に敏感な様子が、最近ちらほらと見える。
多分、初潮を迎えて獣人として成長したからなんだと思うけど……ゲルダさんの言っている、女性なら誰でも気分が落ち込む時って、月のものだとかそういう事だよなぁ。
ミリナちゃんが注意するのに、なんとなくこの場で男が俺一人という事に心地悪さを感じながら、苦笑しておいた。
一応俺だって、男ではあっても話しには聞いた事くらいはあるからな……。
「し、失礼しました……」
「ゲルダの失言はともあれ、リーザ様、クレアお嬢様がお気になされていたという事は、少し注意する必要があるかもしれませんね。良からぬ事を考える人物のようには見えませんが……」
「多分、悪い事を考えている……という事ではないのかもしれません。リーザの言い方も、悪意を感じるとかそんな風ではありませんでしたから。とにかく、ウィンフィールドさんに関しては保留で。様子を見てから決めましょう」
悪意があれば、なんとなく他にも気付く事があったり、リーザやクレア以外にもそれらしい素振りを見せていたりする事があるかもしれないからな。
エッケンハルトさんが、選んでこちらに来させた人でもあるし、企みをするような人ではないと思いたくもある。
とりあえずは注意して見ておくとして、ウィンフィールドさんは保留だ……セバスチャンさんとか、他の人とも相談してみようと思う。
「他には……」
まだ名前があがっていない、ジルベールさんとヴォルターさんに関して話す。
ジルベールさんは、今回来た執事さんの中では一番若く、俺とも年齢が近いんだけど……能力に不満があるとかではなく、単純に若手も屋敷に残しておいた方が良さそうと考えた。
本決定ではないので、また何かあれば指名するよう考えるかもしれないが、今のところはだな。
「あとは……ヴォルターさんですか……」
「うーん……フェンリル達に怯える事がなければ、知識も豊富そうで良さそうなんですけどね」
「あの人は、初対面で師匠を値踏みしていたのが、私は少し気になります」
「ですけど、クレアお嬢様はヴォルターさんを勧めていました。タクミ様の知識面を補うためでしたか……」
「確かに、俺はこの世界での知識がまだまだ足りないから……」
最後に皆で頭を悩ませるのはヴォルターさん。
能力とかは申し分なく、あまり目立たないけどなんでもそつなくこなすという印象だ。
セバスチャンさんが以前、やる気になれば公爵家の家令になれる……と漏らしていたのも納得だ。
ただ、ライラさんもゲルダさんもミリナちゃんも、初対面の時に俺に対しての態度が気になっている様子。
あと、俺自身もレオやフェンリルに慣れず、怯え続けているのが引っかかる。
ランジ村に行っても、当然レオは付いて来るしフェンリル達と拘わる事だって多いはず。
まぁ、フェンリルに関しては屋敷にいても大きく変わらない気もするけど……。
「知識面もそうですけど、ラクトスの孤児院での事もあって、俺は選んでもいいかなと思っています」
「孤児院……確か、子供達に話を聞かせていたのでしたか」
「はい。その場で考えた即興でしたけど、子供達はおとなしく聞いていました」
クレアが考えていた、物語として聞かせる事で悪感情を持たないように……というのは悪くないと思う。
屋敷に残れば、ティルラちゃん以外の子供達との接点が少ないので、ランジ村に行って村の子供達に話して聞かせるのもいいんじゃないかな?
「まぁ、執事の仕事とは離れてしまうのかもしれませんけど……あと、離れると言えば、セバスチャンさんともですね」
「セバスチャンさん、いつも朗らかな人なのですけど、ヴォルターさんの事になると少し怖いです」
「失敗した使用人に厳しくする事はありますが、ヴォルターさん程じゃないですからね……私も経験がありますが」
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します







