使用人選択会議を始めました
「にゃ……お爺……ちゃ……にゃふ……パパ……」
「大丈夫、俺はここにいるからな」
「ワフワフ」
レインドルフさんの夢でも見ているのだろうか、小さく寝言でお爺ちゃんと呟いたリーザは、次に俺を呼んだ。
聞こえるか聞こえないかくらいの、小さな声で応えてリーザを撫で続け、レオも同じように小さく自分もいると言うように鳴いた。
「にゃふふ……」
「ん」
そうしていると、リーザの閉じた目からスゥ……っと涙がこぼれた。
けど、笑うような声と緩んでいる口元から、出会った頃に寂しい夢を見て泣いていた頃とは違うんだろうなと思う。
「これなら大丈夫そうだな。……そろそろ俺も寝よう。おやすみ、レオ、リーザ」
「ワフ」
「にゃふぅ……」
少しの安心と、リーザが笑っている事への満足感を感じながら、俺も目を閉じる。
レオの小さな鳴き声と、リーザの相変わらず猫っぽい声を聞きながら、ふわふわした夢の中へと入って行った――。
「うむむむ……」
リーザやレオと一緒に寝て、幸せだったような気がする夢を見た翌日、椅子に座って腕を組んで考え込む俺。
「タクミ様、少々休んではいかがでしょうか?」
「……そうですね。ちょっとだけ休憩します」
ライラさんの言葉に、睨めっこをするように見ていた書類から目を離して、固まっていた体を伸ばす。
今日は、使用人候補の人達からどの人を選ぶかを決めるため、用がある時以外は部屋の中で悩んでいる……これだけずっと部屋にいるのは、初めての事かもしれないな。
ちなみにリーザとレオは、鍛錬を休んだ俺の代わりにティルラちゃんと一緒に、裏庭にいるはずだ。
使用人候補の人達は、今頃フェンリル達との散歩中かな、今日はクレアとセバスチャンさんが行ってくれているはずだ。
今この部屋にいるのは、俺とライラさん、ゲルダさんとミリナちゃん……つまり、使用人が内定している人達だな。
今日こうして部屋にこもって考えているのは、そろそろ使用人候補の人達の事がわかってきたのと、他の従業員も含めて考えておかないといけないからだ。
まぁ、まだもう少し猶予はあるから、本決定というわけではないけど……できれば決められる事は決めておきたい。
「そうだライラさん。あ、ありがとうミリナちゃん」
「はい、なんでしょうか?」
「いえ」
思い出した事があったので、ライラさんに声をかけつつ、お茶の用意をしてくれたミリナちゃんにお礼を言う。
現在俺達は、立ったままでいいと言うライラさんに、少し無理を言って一つのテーブルを囲んで座っている……こうした方が、相談とかやりやすいからな。
「執事長とメイド長って、それぞれ決めた方がいいんですよね?」
「そうですね。必ずしも決めなければいけない、というわけではありませんが……使用人全体をまとめるためにも、決めておいた方がよろしいかと。人数が増えると管理や指示も出しやすいですから」
「そうですよね……ん、美味しい」
「ありがとうございます、師匠」
ライラさんに質問しながら、ミリナちゃんの淹れてくれたお茶を一口。
まだライラさんや、他の使用人さん達には及ばないながらも、十分に美味しいお茶を淹れられるようになったようだ……頑張っているのがよくわかる。
ともあれ、今考えるのは執事長とメイド長の事。
それぞれが使用人さん達を管理や指示を出すまとめ役なので、いないよりはいた方がいいのは間違いない。
それに、俺が一人一人と話すよりも、執事長とメイド長に話すようにしておいた方が、楽そうだしなぁ。
ともあれ、どうするか……。
「年齢や能力を考えたら、アルフレットさんは選びたいんだけど……経験も豊富そうだし。そうするとジェーンさんも一緒にって事になるか。まぁ、ジェーンさんに不満はないからそれでいいんだけど……」
「その二人なら、執事長とメイド長にも相応しいかと」
「そうなんですけどね。執事長はアルフレットさんで考えているんですけど、メイド長が……」
「何か、ジェーンさんをメイド長にしたくない事でもありましたか?」
アルフレットさんとジェーンさんは夫婦だから、どちらかを選ぶならもう片方も選ばないといけない。
いや、多分本人達に聞いたら別々になっても構わない、とか言いそうだけど……俺の中では、二人を一緒にと考えるのは変わらないからな。
悩んでいると、向かいにいるライラさんからは、二人共長の役割もできると太鼓判。
アルフレットさんはともかく、ジェーンさんをメイド長にというのはあまり考えていなかった……不思議そうなライラさんに聞かれるが、俺としては……。
「いえ、俺はメイド長はライラさんがいいなって思うんですよ」
「え、私ですか!?」
「おぉ、ライラさん大出世です!」
「ライラさんは私と違って、何でもできますから」
驚くライラさんと、純粋に喜んでいる様子のミリナちゃんと、ちょっとやさぐれ感のあるゲルダさん。
ミリナちゃんはともかく……ゲルダさんも、失敗はあっても頑張っているから、卑屈にならなくていいと思いますよー?
……今はメイド長に関する事で、言うと話が逸れてしまうので、今度ちゃんと伝えておこう。
「私なんて、メイド長になるにはまだまだです。ジェーンさんや、同じく本邸からのエミーリアさんの方が、相応しいと思います」
「単純な能力とか経験とかは、そうなのかもしれませんけど……俺がこの屋敷に来てから、ずっとライラさんにはお世話になっていますから。気心が知れている、と言うとライラさんには失礼かもしれませんが……」
「いえ、そう言って頂けるのは嬉しいのですが……」
謙遜するライラさん……確かに、年齢とか使用人としての経験の長さも、ジェーンさんやエミーリアさんにはライラさんも敵わないんだろう、多分。
でも俺としては、セバスチャンさんにも言われた、俺がやりやすい……話やすい相手がいいかなと思ったんだ。
リーザやレオも懐いているし、屋敷に来てからずっとお世話をしてくれていた。
メイド長になると、これまでとは違う部分も多く出て来るんだろうけど……それでも、俺にとってはライラさんが一番相応しく思うんだよなぁ――。
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