『雑草栽培』で花をお供えしました
「……よし。この花も問題なくできるようだ」
思い浮かべた花を、『雑草栽培』で生やす事に成功する。
ゴム茎のように『雑草栽培』任せではなく、今回はよく見知っている花を試してみたけど、人の手が入っていない植物だったらしく、無事に栽培完了。
「タクミさん、綺麗な色で可愛い花ですけれど、なんという花なのですか?」
「これはね、アジサイって言うんだ」
「わぁ……!」
「青、赤……紫ですか? 小さな花が集まっているようで、可愛くて綺麗です!」
「ワフワフ……スンスン」
複数の花を作って確認して立ち上がった俺に、覗き込みながら聞くクレア。
俺が栽培した花は、日本人なら一度は見た事のあるアジサイ……紫陽花という漢字になるけど、紫だけってわけじゃなく、赤や青と色の変化も付けてある。
リーザやティルラちゃんは花を見て喜び、レオは鼻先を近付けて匂いを嗅いでいる……花の匂いを楽しんでいるんだろうか?
ただ、アジサイは俺のお腹くらいの大きさに成長すると想像していたんだけど、日本で見たのは大体それくらいだし。
実際に作ってみると、俺の胸元から首くらいの高さにまでなっていた。
こんなに大きく育つのか……剪定とかしていないからかもしれない。
アジサイって、確か何もしなければ三メートルくらいになる物もあるって聞くからな。
「素敵な花ですね」
「うん。数は多くないけど、これだけでも大分雰囲気が変わったような気もするよ」
大きな岩の下の一部で咲き誇っているアジサイは、ジメッとした空気を変える程ではないけど、華やかな色合いで陰気な雰囲気を中和してくれている。
ここで備える花をアジサイにした理由は、ジメッとした空気で日が当たらないためだ。
日本では梅雨の時期に咲くアジサイだから、日照時間が少なく、湿気の多そうなここでもしっかり咲き誇ってくれると考えたから。
最初は、『雑草栽培』の力で間違いなく咲いてくれるけど、それ以後の数が増えた先で日陰になるとすぐ枯れるような花だと、元の寂しい場所に戻ってしまうからな。
実は、アジサイの前に同じく日陰で花を咲かせるスズランにしようかと考えたりもしたんだけど、あちらは人間に有害な毒があるため、止めておいた。
完全に管理できる場所ならともかく、誰かが来てスズランに触ったりしたら、大変だからな。
「あとは、この花を管理してくれる人が、数を増やし過ぎないようにしてくれれば大丈夫かな」
「はい。既に今日街に来た際に、衛兵を通じて手配していますので大丈夫でしょう」
ラクトスに来た時、墓参りも予定に入っていたのでクレアが別行動している時に、頼むようにしてあった。
まぁ、一応でもお墓を管理している人達がいるみたいで、その人達に任せるみたいだけど。
「そうだね。よし、もう少し……いや、岩を囲むくらいは咲かせてみようかな」
「タクミさんのおかげで、ここで眠る人達も寂しくないでしょうね」
「そうだといいですね……」
クレアと話し、意気込んで大岩の周辺をぐるっと回るようにしながら、『雑草栽培』でアジサイを栽培していく。
終わる頃には、ちょっとしたアジサイ畑になっていて、すっかり寂しい雰囲気はなくなっていた。
リーザも喜んでいたし、花を見て微笑むクレアも堪能できた……おっと、本来の目的を忘れないようにしないとな。
「改めて……レインドルフさん、安らかにお眠りください……」
最後にもう一度、皆で祈りを捧げてお墓参りを終えた。
レオだけは、ずっとアジサイの匂いを嗅ぐように鼻をスンスンさせていたが……お墓参りの概念がないのは仕方ないか。
お墓のある場所から離れ、今度は孤児院へ行く……前に、荷物を任せていたチタさんやシャロルさんと合流。
フェンリル達に乗って、一旦屋敷に戻って荷物を置いて来てくれたようだ。
その時に、ヴォルターさんとも合流……こちらは、カレスさんの店で休んでからの復活だ。
……屋敷に戻ったら、なんのために付いて行ったのかとか、セバスチャンさんから追及されそうだなぁ。
チタさん達と交代でアロシャイスさんが、フェンリルと一緒にいるらしいキースさんの所へ。
子供は苦手だかららしいけど、ティルラちゃんに話をした時は全然そんな感じしなかったんだけどなぁ……。
「皆と会えるの、楽しみですねリーザちゃん!」
「うん。でも、リーザちょっと変わったから、ちょっと怖い……」
孤児院へ向かう道すがら、レオの背中に乗ったティルラちゃんとリーザが話している。
リーザが変わったといいつつ、後ろの尻尾を左右から前に持って行って抱き締めた事から、二つになった事を気にしているんだろう。
俺の時や、屋敷の中では気にした様子はなかったが、リーザなりに思う事があるのかもしれない。
単純に孤児院へ行くのが、久しぶりだからかもしれないが。
リーザも女の子だし、見た目の変化は気にするのかもしれないな……気にするのが尻尾に関して、というのは獣人特有なんだろう。
成長過程で大きく見た目が変わる事を気にするのは、男女関係ないか。
「大丈夫ですよリーザちゃん。こんなに触り心地がいいのですから、皆から人気者になりそうです」
「そうかなぁ……にゃ、ティルラお姉ちゃん、ちょっとくすぐったい」
「あ、ごめんなさいリーザちゃん。んー……こうですか?」
「うん、気持ちいい」
後ろにいるティルラちゃんが、沈み気味なリーザを抱き締めるようにしながら、尻尾を優しく撫でる。
少し力加減が微妙だったのか、くすぐったがったリーザに謝り、すぐ撫で直す。
さっきまではスラムでの事があって、ティルラちゃんの方が落ち込み気味だったのに……この分なら大丈夫そうだな。
リーザも、レインドルフさんの事を思い出して泣いたのを、引きずってはいないようだし、お墓に花を供えてお祈りしたのが良かったのかもしれない。
「子供達には、この国の歴史を語って聞かせるのが良さそうだ。遊んで騒ぐより、話を聞かせた方がおとなしくするだろう……」
「……ヴォルターさん、子供達は歴史よりも童話とかの方が良さそうですけど?」
リーザ達の様子を見ている俺の後ろで、ヴォルターさんが呟いていたので、もう少し簡単な話を勧めてみた――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します







