表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移したら飼っていた犬が最強になりました~最強と言われるシルバーフェンリルと俺がギフトで異世界暮らしを始めたら~【Web版】  作者: 龍央


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1074/1999

レインドルフさんへ祈りを捧げました



「……リーザ様、少し失礼します」

「ヨハンナさん?」

「どうしたの、ヨハンナお姉さん?」


 鞘をジッと見ているリーザの横に、声を掛けながらしゃがみ込むヨハンナさん。

 どうしたのかと、リーザと一緒に声をかける俺達を余所に、片膝を付いて騎士の敬礼のような恰好になった後、両手を体の前で組んだ。


「全ての者が安寧を、偉大なるこの方に平穏を。レインドルフ殿に静かな安らぎを……」


 浪々と、祈りの言葉を捧げるヨハンナさん。


「それは……?」

「失礼しました。先程のリーザ様の様子を見ていて、何もせずにはいられなかったのです。リーザ様の仰るように、レインドルフ殿がここにいるのであれば、ここで安寧の祈りを捧げるのがよろしいのかと思いまして」

「騎士の祈りね。鞘に向かって捧げるには、相応しいのかもしれないわ」

「騎士の祈り……?」


 故人に対して、俺が知っているのは日本式の手を合掌させてとかだけど、こちらにはこちらなりの祈り方というのがあるらしい。

 聞いてみると、騎士というか兵士さん達に伝わる祈り方らしく、戦争や魔物との戦いで命を落とした人に捧げる祈りなのだとか。

 その際、墓標や遺品に対して祈る事が多く、先程ヨハンナさんがしたような体勢で、故人の名前を組み込んで祈りを捧げるのだとか。


 遺体に対してでないのは、息絶えたその体に対しては平穏や安寧を願うのではなく、別れを惜しむのであり、遺品に対して持ち主を守り、平穏を祈るからなのだとか。

 確かに、レインドルフさんの所有物だった鞘だけが残るこの場では、一番相応しい祈りのように思えた。


「「「全ての者が安寧を、偉大なるこの方に平穏を。レインドルフ殿に静かな安らぎを……」」」


 俺達は騎士ではないが、相応しい祈りとしてヨハンナさんと同じように、片膝立ちで手を組み、リーザやクレアと声を揃えて祈りを捧げる。

 心の中では、レインドルフさんに対して、リーザを幸せにする事を誓いながら――。



 カタン、という音が、祈りを捧げる俺達の耳に届く。

 閉じていた目を開いて音のした方を見ると、部屋の閉ざされていた木窓が外れて、外から光が差し込んでいた。

 風か何かの仕業だろう……ちょっとした衝撃とかで、壊れそうな場所がいくつもあるからな。


「……ん? リーザ……」

「……」


 祈りの言葉の後も、ずっと熱心に祈りを捧げているリーザだけは、木窓が外れる音で顔を上げていなかった。

 そのリーザに、外から差し込んだ光が真っ直ぐに当たり、耳や尻尾の毛が輝いているように見えた。


「まるで、レインドルフさんがリーザを祝福しているみたいだ……」

「本当にそうですね。ちゃんと、リーザちゃんの事を見守ってくれているのでしょう」


 非現実的な考えだと思うが、レインドルフさんの魂は今もここにあり、差し込む光のようにリーザを見守っているのだろう――。



「ワフ、ガウワフ!」

「にゃはー! ママ、大丈夫だから、何も怖い事はなかったよ!」

「ワフゥ」


 レインドルフさんの鞘への祈りを終えた後、建物を出るとレオからの歓迎……もとい、心配した様子でリーザにすり寄っていた。

 鳴き声の内容は、怖い事があったら代わりに噛み砕くとか、そんな感じの事を言っていた。

 物騒だけど、それだけレオがリーザを心配していたって事だろう。


「ははは、大丈夫だよレオ。リーザに何かあったってわけじゃないから」

「ワフワフ? ワフーワフワウ!」

「まぁ、ちょっとした事があってな。屋敷に戻ったら、レオにも伝えるよ」


 さすがに、今ここでレインドルフさんの事を話すのは躊躇われるので、リーザの泣き声を気にしているレオには、後で教える事を約束する。

 鞘の事もあるし、誰が聞いているかわからない場所では言えないからな……リーザも今は空元気だろうし、またしんみりした雰囲気にはしたくない。


「キューン……クゥーン……」

「ふふふー、レオ様と一緒にくすぐるのですよー」

「にゃふ、ママもティルラお姉ちゃんも、くすぐったいよー」


 レオが鳴きながら、リーザを舐めたり鼻先を付けたりしている。

 ティルラちゃんにも泣き声が聞こえていたんだろうし、ヨハンナさんが事情説明する時に聞いていたんだろう、元気づけるようにちょっと明るめの声音でリーザの尻尾を撫でていた。

 当のリーザは、笑っているな……うん、とりあえずは大丈夫そうだ。


「リーザとレオはいいとして……アロシャイスさん」

「フィリップ」

「はい、タクミ様」

「はっ」


 微笑ましい様子を眺めて頬を緩めながら、俺がアロシャイスさんに声をかけると、ほぼ同時にクレアがフィリップさんに声をかける。


「あら……ふふふ、考える事は同じようですね」

「まぁ、さっきクレアがあの二人にお願いするって言っていたからね」


 顔を見合わせ、微笑むクレアと苦笑する俺。

 俺もクレアも、アロシャイスさんやフィリップさんに頼もうとした事は同じ……さっきの密偵二人の所に行って、レインドルフさんの鞘を盗られないようにとお願いするためだ。

 アロシャイスさんはスラムに慣れているし、フィリップさんは何かあっても大丈夫そうだから。


「あの……?」

「ん?」

「ワフ?」


 アロシャイスさんとフィリップさんの二人を送り出してから、戻って来るまで待っていると、何やら後ろから声をかけられた。

 振り返ってみると、スラムの住人なんだろう……ボサボサの髪の毛にぼろ切れを纏って、満足に食事ができていない事を示すように、やせ細った男性が立っていた。

 ……レオが首を傾げているだけだから、特に敵意とかそういうものはなさそうだ。


「そちらにおられるのは、姫様ではございませんか?」

「私ですか?」


 男性は力が入らないのか、震える手でリーザやレオとじゃれ合っているティルラちゃんを示す。

 姫と言われて、ティルラちゃんがこちらを見る。


「……そうですけど、何か御用ですか?」


 何かあるのかもと考え、頷いて肯定しながらも間に立って、ティルラちゃんへの視線を遮るようにしながら、俺から男性に聞く……ヨハンナさんも、クレアを後ろにかばって警戒モードだ。

 弱っている様子にも見えるから、多分大丈夫だろうけど、俺も警戒はしておこう――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。


面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。

また、ブックマークも是非お願い致します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍版 第7巻 8月29日発売】

■7巻書影■mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻口絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻挿絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


詳細ページはこちらから↓
GCノベルズ書籍紹介ページ


【コミカライズ好評連載中!】
コミックライド

【コミックス6巻8月28日発売!】
詳細ページはこちらから↓
コミックス6巻情報



作者X(旧Twitter)ページはこちら


連載作品も引き続き更新していきますのでよろしくお願いします。
神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移


完結しました!
勇者パーティを追放された万能勇者、魔王のもとで働く事を決意する~おかしな魔王とおかしな部下と管理職~

申し訳ありません、更新停止中です。
夫婦で異世界召喚されたので魔王の味方をしたら小さな女の子でした~身体強化(極限)と全魔法反射でのんびり魔界を満喫~


― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 信じるものは救われる。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ