気絶した残りの二人の事を聞きました
「そ、そうだったんですか……申し訳ございません……」
男性達は、恐縮しながらこちらに頭を下げるが、その動きはぎこちない……レオに怯えて体が震えているからだな。
それはともかく、レオの事は関係なくクレア達と一緒にいるんだから、関係者だと考えなかったのかと思わなくもない。
そういった余裕が一切なくなっているからなのかもしれないが。
「まぁ、俺の事はともかく……他の二人はどうしたんだ?」
「あ、あの二人は、姫様にやられてからなんだか様子がおかしいんでさぁ。姫様がスラムに来た事は、ここにいる奴らから知らされているはずなんですが……」
「様子がおかしい……?」
改めて、気絶した四人のうちもう二人の事を聞くと、微妙に気まずそうな様子で話してくれた。
俺達やティルラちゃんが来た事が知らされている方は、特に気になる事でもないが、様子がおかしいってのはちょっと気になるな。
散々、姫様って言葉が聞こえたり、あちこちからティルラちゃんに視線を向けられていたから、誰かが広めていてもおかしくないからな。
「へ、へい。その……それまでは俺達四人でよく話をする事も多かったんですが、あれ以来四人でいる事を避けているような、そんな感じでさぁ。あ、もちろんその二人も、姫様の事は姫様と呼んで何か企んでいるってわけじゃないんで!」
「ふむ……」
「なんでしたら、今すぐ呼んで来ます! 少々お待ちを!!」
「あ、ちょっと! ……行ってしまった……ニックもそうだけど、勢いで動く人が多いなぁ」
よく一緒にいる事が多かったのに、ティルラちゃんが来た事をきっかけに、疎遠になりかけているとか、そんな感じか。
ティルラちゃんを姫と呼ぶのは同じらしいから、どうしてそうなっているのかわからないな……と考えていると、勘違いした男性二人が、残りの二人を呼んで来ると言って、走って行ってしまう。
後ろから声を掛けたが、既に路地を曲がって姿が見えなくなっていた。
「――ごめん、クレア、ティルラちゃん。余計な時間を取らせてしまった」
「仕方ありません。私も残りの二人の事は少し気になりますし……ティルラも一度謝罪しなければと思いますから」
「はい……」
スラムの人相手に、公爵家の令嬢が謝る……というと大事のように思えるが、身分差を気にしないクレアやティルラちゃんにとっては、迷惑をかけたのを謝る方が大事な事なのかもしれない。
まぁ、散々色んな人から注意されていたから、ティルラちゃん自身反省しているだろうし、残りの二人に謝ればこの件は完全に終了した事にできるかな。
……姫と呼ばれる結果が残ってしまっているけど。
「へぇ~、ここがリーザの住んでいた場所か」
「そうだよ、パパ。寝る時はよくここを使っていたんだー」
しばらくして、走って行った二人が残りの二人を連れてきた後、俺達はリーザが寝泊まりしていた場所に来ている……さっき話していた場所のすぐ近くだった。
建物に入れないレオは、外でティルラちゃんやフィリップさんと、土下座をしてきた二人と待っている。
ティルラちゃんが残るのはちょっと心配だが、レオがいるしフィリップさんがいるから、滅多な事にはならないだろう……アロシャイスさんもスラムの人間に詳しいとして、一緒だしな。
「それで、貴方達はいったい何者なのですか……?」
クレアが疑問を投げかけるのは、連れて来られた気絶四人組の残り二人。
そちらとは話をする前に、誰かに聞かれる可能性の少ない場所に移動するため、リーザが寝泊まりしていた場所にきた。
理由は、連れて来られてすぐ、レオに様を付けて呼んだ事の他に、クレアに対しお嬢様と言いかけたのがきっかけだ。
レオに関しては、ラクトスで噂が広まっているのもあって知っていてもおかしくないし、クレアも同様。
だけど、お嬢様を付けて呼ぶのは街の人達では基本的にないはずで、大体クレア様って呼ぶからな……お嬢様を付けるのは、屋敷の使用人さんとか公爵家の関係者だ。
事情を聞くため、外では誰かに聞かれるかもしれないから不味い、と二人に言われたので、リーザが近くに寝泊まりしていた場所があると言って、案内してもらったってわけだな。
通りの真ん中だったし、土下座をした二人と話している時も、あちこちから視線を感じていたからなぁ。
ちなみに、建物周辺や中には誰もいないため、大声でもない限り誰かに聞かれる心配はない事を、レオが確認してくれている。
「一先ず、我々の事をお話しする前に……」
そう言って、俺達に座るよう促す男性。
リーザが寝泊まりしていた場所は、俺がディームを探す時に入った建物とほぼ変わらず、打ち捨てられている様子がそこかしこに見えた。
ただ、隅の方以外は埃がうずたかく積もっていたりという事もないので、誰かが使っているのだろう事が見て取れる。
他にも、勧められた椅子は二つあり、すり減って足の長さが変わったのか多少がたがたはするものの、座り心地は悪くない。
「申し訳ありませんが、茶などの上等な物はここにはないので、お出しできません」
「クレアお嬢様方をお迎えするのに、相応しい場所とは言えませんが……」
男性二人は、椅子に座る俺達の前で床に座り込み、頭を下げた。
まぁ、お茶が出るとは思っていなかったから、特に気にしない……それどころか、椅子に座れるとも思っていなかったくらいだし。
それにしてもこの二人、先程の土下座した二人と違って、丁寧な言葉遣いに慣れている様子だ。
当然ながら喋っていて噛んだりもしないし……物腰は使用人さん達に近い気もするな。
ちなみに、俺とクレアが椅子を並べて座り、リーザは俺の膝の上、ヨハンナさんはクレアのすぐ横で立っていて、油断なく男性二人を睨んでいる。
警戒するのはわかるけど、最初から腰の剣に手をかけているのは、物騒だと思います。
「構いません。それで貴方達は何者なのですか? 言動を聞くに、私達の事を最初から知っているようですが」
「はい……その、言いにくいのですが……我々は端的に言うと、密偵です」
「密偵?」
なんとなく物騒な言葉だ。
思わず、首を傾げて聞き返す俺。
密偵と言えばあれだ、スパイとか間諜とか……ともかく、密かに忍び込んで色々調べる人の事だ……俺自身、よくわかっていないけど――。
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