緊張から早くに目が覚めました
「剣の鍛錬は厳しいものになるぞ。それでないと意味が無いからな。それでもやるのか?」
「……はい!」
エッケンハルトさんの言葉を一度飲み込んでから、ティルラちゃんははっきりと答える。
……いつもレオやシェリーと遊んでる可愛い女の子のイメージしかなかったから、ティルラちゃんにこんな一面があるなんて……驚いたな。
「わかった。タクミ殿と一緒にティルラにも剣を教えよう」
「ありがとうございます!」
「……ティルラ……剣の鍛錬も良いけど、ちゃんと勉強の方もしないといけませんよ」
「……姉様……」
許可が出た事に嬉しそうなティルラちゃんに、クレアさんの厳しい言葉が降りかかる。
勉強と聞いた瞬間、がっくりと項垂れるティルラちゃん……まぁ、あのくらいの年だとなぁ……。
活発な子ほど、じっとして勉強に集中するのが嫌になる物かもしれないな。
「ティルラ、公爵家の者として当然の事よ。……もしかして剣の鍛錬を行えば勉強はしなくて良いと思ったの?」
「……いえ……そこまでは……ですけど、少しは減らしてくれるかなぁと……」
「ははははは、ティルラが勉強嫌いなのは相変わらずか。そのくらいの年なら仕方なかろう。だがティルラ、無理を言って剣の鍛錬をするんだ、勉強もしっかりやらないとな」
「……はーい」
「ワフワフ」
「キャゥー」
エッケンハルトさんの言葉に項垂れながら返事をするティルラちゃんに、俺を含めて食堂にいる皆が笑っている。
レオはティルラちゃんを応援するように鳴きながら頬を摺り寄せ、ティルラちゃんに抱かれたままのシェリーは元気付かせようと顔を舐めてる。
……いや、シェリーは多分何のことかわかって無いな……遊びたいだけだと思う。
そうして和やかな雰囲気でティルラちゃんが剣と勉強を頑張る事が決まり、その後はすぐに解散となった。
明日から始まる鍛錬に備えて早く寝ようという事みたいだ。
……この世界に来てから森の中に入ったりとかはしてるが、運動らしい運動はしていないから俺も体力が心配だ。
今日はレオと遊ぶのもそこそこに、さっさと寝た方がいいだろう。
ティルラちゃんにも、シェリーと遊ぶのもほどほどにとだけ言っておいて部屋へと戻った。
部屋に戻った後、風呂に入って体を温めていつもよりは少し早めに就寝した。
レオは構って欲しそうにしていたが、俺が剣の鍛錬をするのに備えるとわかってるんだろう、すぐに諦めてベッドの横で丸くなって寝た。
すまないな、レオ。
また時間がある時にしっかり構ってやるからな。
今度はレオと一緒にティルラちゃんやシェリーを乗せて街の方まで走るのも良いかもしれないな……なんて考えた。
―――――――――――――――――――
朝、窓から差し込む朝日と一緒に目を覚まし、レオが寝ているのを起こさないようにしながら身支度を済ませる。
早めに寝たから寝ざめはさっぱり……ちょっと早く起きすぎたかもしれないな。
鍛錬は朝食後からだから、朝食まで少しだけ暇だなと考えながらベッドに腰かけて寝ているレオを静かに撫でてると、部屋の外からノックをされた。
「タクミさん、起きてますか?」
「ティルラちゃんかい? 起きてるよ、中にどうぞ」
ノックの音と一緒にティルラちゃんの声が聞こえた。
どうやらティルラちゃんの方も早めに目が覚めてしまったようだ。
部屋の扉をそっと開けたティルラちゃんは、レオが寝ている事に気付いて音を立てないように部屋の中に入って来た。
「どうしたの?」
「ちょっとだけ早く起きてしまいました。タクミさんが起きて無かったら暇になるところでした……シェリーもまだ起きてませんし」
やっぱりティルラちゃんも俺と同じように早く目が覚めたようだ。
この時間なら、セバスチャンさんやクレアさんは起きててもおかしくは無いと思うが、シェリーはまだ寝ているみたいだな。
クレアさんも朝の支度とかがあるだろうし、レオが起きてる事に期待してここに来たのかもしれない。
「ごめんね、ティルラちゃん。まだレオは寝てるんだ」
「いいんです。レオ様の寝てる姿を見られるのも楽しいですから。……レオ様可愛いですね」
考えてみれば、ティルラちゃんがいる時にレオが寝ていた事って無かったんだっけ。
シルバーフェンリルになってから感覚が鋭くなっているのか、誰かが部屋に入って来ると気づいて起きてしまうからな。
今日はティルラちゃんが来ても安らかな寝息を立ててぐっすり眠ってるレオは、多分この屋敷にも慣れて警戒心が解けたという事かもしれない。
レオが寝ている前で、顔を覗き込むようにして見ているティルラちゃんは、寝顔を見れてご満悦の様子だ。
確かにレオが寝ている時の顔は可愛い。
体は大きいままだが、小さいマルチーズだった時の事を思い出すような気がする。
あの頃も今も、何故か寝顔は変わらないような気がするんだよなぁ……もちろん精悍な顔付きにもなっているんだけど。
「早く起きたようだけど、昨日はしっかり休めたかい?」
「言われたようにちゃんと休みました。大丈夫です」
レオを起こさないように小さい声でティルラちゃんと話す。
何か、内緒話をしているようで、ティルラちゃんは楽しそうだ。
内容は別に内緒でも何でもない普通の話だけどな。
「ただちょっとだけ緊張しますね」
「初めて剣を使うんだっけ? それなら仕方ないね。俺も同じように緊張してるから」
「タクミさんでも緊張するんですか?」
「そりゃ緊張するよ。俺は剣なんて使った事が無かったからね。森の中で少しだけ……でも、やっぱり改めて剣を教えられると思うと緊張するよ」
「そうなんですね」
自分と同じく緊張しているとわかったティルラちゃんが笑顔になる。
やっぱり、初めての事って緊張するよな。
「……ワフ?」
「あ、起こしてしまいました」
「おはよう、レオ」
小さい声で話していたが、さすがにレオは気付いて起きてしまったようだ。
顔を上げて不思議そうな表情で周りを見回してる。
「すみません、レオ様。起こしてしまって」
「ワフ。ワフー」
起こしてしまった事を謝るティルラちゃんだが、レオの方は気にするなとばかりにティルラちゃんに頬を寄せて擦り付ける。
「ワフ。ワフワフ」
「ふふ、おはようございますレオ様」
そのまま挨拶をするように鳴くレオに、笑顔になったティルラちゃんが挨拶を返す。
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