アロシャイスさんが聞いて来てくれました
「……また、言っていますね。姫、と何度も……」
「うん、俺も聞こえた。姫って……どういう事だろう?」
姫と言うからには、女の子や女性に対する言葉だし……ある意味ティルラちゃんにも合っているのかもしれないけど。
でも、それならクレアを見ていてもおかしくない。
人の目がある所で歩いているクレアは、意識してなのか凛とした雰囲気を出しているから、お姫様という呼び方も相応しく感じる。
「タクミ様、私が聞いて参りますので、少々お待ち下さい」
「アロシャイスさん、大丈夫ですか?」
「なに、スラムでの事は心得ています。お任せください」
そう言って、俺達から離れて裏路地へと向かうアロシャイスさん。
昔いたスラムよりも、雰囲気や治安が良さそうだから滅多な事はないと思うけど……。
「レオ、一応何かあった時に備えてくれ」
「ワフ」
「フィリップ、ヨハンナ、警戒を」
「「はっ!」」
立ち止まり、アロシャイスさんが向かった裏路地を見ながら、レオに警戒するように頼む。
クレアもフィリップさん達に指示を出して、警戒モードだ。
一人で行動すると、何があるかわからないからな……もしレオが何かを察知したら、すぐに駆け付ける準備をしておかないとな。
「……ワフ、ワウワフ」
「お、戻って来たのか。何事もなかったようで、良かった」
少しの間、周囲を警戒して過ごしていると、レオが裏路地の方を見て鳴く。
アロシャイスさんが戻ってきていると、教えてくれているみたいだ。
「タクミ様、クレアお嬢様、戻りました」
「お帰りなさい、何事もなかったですか?」
「話を聞くだけですので、何か問題が起こる事はありません。油断はできませんが……こういう場所では、弱者ではないと悟らせれば良いのです」
「それで、戻って来た時は目つきが違ったんですね」
「……失礼を、申し訳ありません」
「いえいえ。何事もなかったなら、良かったです」
レオの言う通り、裏路地から何事もなく戻って来るアロシャイスさん。
ただ、その雰囲気や目つきが剣呑な様子で、少しだけ気圧されてしまった……すぐに平常に戻ったけど、あれが弱者と見られないための方法なんだろう。
多少腕に覚えがあるくらいじゃ、喧嘩を売ろうとは思えない雰囲気だったから、昔の経験から来るアロシャイスさんなりの護身術みたいなものなのかもな。
「先程から気になっていた、姫という言葉ですが……どうも、ティルラお嬢様の事を姫と呼ぶと、スラムで広まっているようです」
「やっぱり、ティルラちゃんを……でも、なんでティルラちゃんだけ姫って呼ぶんですか? クレアも呼ばれていてもおかしくないと思いますけど。むしろ相応しい気もします」
「……タクミさん、そんな」
何やら、俺の言葉でクレアが少し照れたみたいだ……申し訳ないけど、今はアロシャイスさんが聞いてきた内容に集中したいから、そちらはヨハンナさんに任せる。
「それが……以前、ラーレに乗ってティルラお嬢様が乗り込んだとか?」
「そうですね」
一応、アロシャイスさん達使用人候補の人達には、直近であった事は話してある。
俺がブレイユ村に行ったとか、フェンリルに関してとか、ティルラちゃんの事とかだな。
「その時の事が原因のようです。なんでも、ティルラお嬢様に逆らわないため、そのような呼び方をする事によって、敬意を表しているのだとか」
「敬意を? まぁ、ラーレが確か四人くらい気絶させちゃったから、逆らわないようにとかはわからなくはないけど……」
ティルラちゃんに逆らったら、ラーレにやられる……と考えるのはまぁわかる。
多分、俺に関しても逆らったらレオが、なんて思われている可能性も高いし、実際ディームを捕まえたしな。
ただ、それでなんで姫になるのか。
本人はレオの背中に乗ったまま首を傾げているので、ティルラちゃんが要求したわけではないようだし……。
「いえその……気絶させた四人が、その後言い出したらしいのです」
「気絶させられた人達が? うーん……」
ラーレによって気絶させられた四人……おそらく、以前散歩のときに遭遇したトロルドやオーク達にやっていた、突風を起こしたのと同じ事なんだろうけど。
一応、衛兵さん達から怪我などの確認と、厳重注意を受けていたらしいけど、その後はスラムに戻っているとは聞いた。
まぁ、ラーレが乗り込んできた事に驚いただけで、ちょっと過剰に反応しただけだし、衛兵さんが調べても犯罪歴みたいな事はなかったらしいからだけど。
セバスチャンさんが盗みを働いた事すらないらしいと、逆に不思議がってはいたけど、それはともかくだ。
「まぁ、ここで考えていても仕方ないですね。とりあえず、行きましょう。――リーザ、こっちなんだよな?」
「うん、そうだよー」
「そうですね。何故かはわかりませんが、ティルラに対して敬意をと言うのなら、危険は少ないと言えるわけですし」
どうして姫と呼び始めたのか、というのは考えてもわからないし、あの四人を探して捕まえて聞き出すのも手間なので、リーザの道案内で目的の場所に向かう事にした。
立ち話していても、邪魔になるだけだからな。
今向かっているのは、リーザが以前レインドルフさんと暮らしていた家……正確には、寝泊まりしているだけの場所だったらしいが。
リーザが言うには、物はほとんどなかったし、レインドルフさんがいなくなってから別の人が使ってたりもして、使っていた物とかはなくなっているだろうと。
けどまぁ、一度見ておきたいという俺の我が儘だ。
「……確かに、敵意みたいなのは感じないですね」
「そのようです。こちらに注目はしているようですが、ティルラお嬢様やレオ様を見て、避けているようにも感じます」
歩きながら注意深く周囲の様子を見たり、やすれ違う人に意識を向けると、ただ注目しているだけ……いや、恐れている雰囲気は伝わってくるが、敵意みたいなのは一切感じなかった。
アロシャイスさんも同意してくれる。
この分なら、何も問題なくスラムでの目的も果たせるかな、と思っていたその時。
「ワフ!? ワウワウ!」
「どうした、レオ? って……」
突然、レオが警戒した様子で鳴く……いや、軽く吠える。
何か察知したのかと聞く俺達の前に、レオの答えが返って来るより速く、二人の男性が横の路地から走り出て来て……そのまま土下座した。
えっと……?
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