お墓参りも考えました
「でも、リーザちゃんの事を知る機会にもなりますよ?」
「まぁ、そうなんだよね。俺、リーザと一緒にいながら、あまり知ろうとしていなかったから……」
意外と強かなのか、ちゃんと考えている証拠なのか……ティルラちゃんはリーザの事も引き合いに出して、スラムに行く事を主張していた。
俺やレオが行く理由としては、そちらの方が重要だな。
これまで、イザベルさんやリーザ本人からある程度聞いていたけど、レインドルフさんに拾われてから、リーザがどういう風にスラムで過ごしていたか……本人にとって辛い思い出かもしれないと、あまり触れずにいた。
だけど、この先一緒にいるなら多少の事は知っておいた方がいいし、リーザ自身も今周りが優しい人に囲まれていて、スラムでの事をあまり辛いと思わなくなったようだったのも大きいか。
さらに、ブレイユ村でデリアさんの育ての親……カルヤカトさんのお墓や、簡易的だけどデリアさんの母親のお墓を作って、花を添えた事も考えなきゃいけないと思った要因の一つだ。
レインドルフさんは、セバスチャンさんに調べてもらったところ、スラムで亡くなったために個人のお墓があるわけじゃないけど、集合墓地のような場所に埋葬されたらしい。
その場所を訪れる目的もできて、一緒にこれまでのリーザの事を知ろうと考えた。
リーザ本人にも聞いて、皆で一緒にスラムへ一度行く事になったんだ。
「俺やティルラちゃん、リーザはまぁ目的があるからいいけど……ティルラちゃんが強情だって言っているクレアも、本当は行かなくてもいいんだけどね?」
「タクミさん、それはイジワルですよ? 私だって、リーザちゃんの事は知りたいですし、公爵家の娘として見て知っておかなきゃいけない事があるのですから」
「うん、やっぱり似たもの姉妹だね、ははは」
クレアまでついて来る必要はないんだけど……そう言って首を傾げて視線を送ると、俺を上目遣いで睨みながら、口を尖らせた、ちょっとかわいい。
結局、俺やリーザ、ティルラが行くから一緒に行かなくては、という感が強いけど主張としてはティルラちゃんと似たようなものになっている。
なんにせよ、レオと一緒にいる事や護衛さんがいるから、何かあっても大丈夫そうだしという事で、渋々セバスチャンさんも納得した。
あと、ディームがいなくなった事や、最近の俺やレオ、ティルラちゃんが起こしたスラムでの騒動で、大分おとなしくなっているらしい。
ニックが話を聞く限りでも、ある程度真面目に働こうと考える人達だっているみたいだし、少しずつスラムも変わって来ているのかもしれない。
「それにしても、このうどん……と言いましたか。美味しいですね。屋敷でも作れないかしら……?」
話題を変えるためだろう、クレアが急に食べているうどんの話を始めた。
うどんという名で売られている、屋台の料理……麺は屋敷でも出て来るパスタと同じ物だし、俺はうどんもどきと言っているけど。
美味しいのは確かだし、多少食欲がなくても食べやすいんだが……。
パスタと同じように、フォークで巻いて食べているクレアを見ながら、少し悩む。
「うーん、ちょっと難しいかもしれないなぁ……」
「どうしてですか? ヘレーナに言えば、作れそうですけど」
「似た物は多分作れると思うんだけどね。でも、このスープが問題だと思う」
「スープがですか……独特な香りがします」
味覚が鋭くて、何が入っているか味見をすればすぐにわかる……なんて事はないけど、それでもわかる味。
スープにはカツオ出汁が使われている。
うどんのつゆは、カツオや煮干しで出汁を取って作られる事が多い……絶対じゃないけど。
つゆを飲んだ時に感じる風味や香りはカツオのもので、おかげで麺がパスタであってもうどんのような和風な味わいになっている。
「つゆ……スープに使われている物なんだけど、カツオが重要みたいだからね。さすがにカツオはなぁ」
「カツオ……ですか。聞いた事のない物ですね。それは食材なのですか?」
「うん、そうだよ。カツオそのものを食べる事もできるし、出汁を取る事もできる。ただ、海にいるんだよなぁ……」
「ここでも海ですか……」
俺の話に、がっくりと肩を落とすクレア。
他にも、アロシャイスさんやフィリップさん達も顔を伏せているので、落ち込んでいるのかもしれない……意外と好評だったんだな、うどんもどき。
カツオは言わずと知れた魚の名前……この世界ではどんな呼ばれ方をしているかは知らないし、同じ魚かどうかはわからないが。
でも、似たようなものだとすると、海に生息していると思われる。
さすがに、領内に海がない公爵領で、屋敷の食事に出すために魚を取り寄せるなんて、早々できないからなぁ。
うどんもどきを作っている屋台の人は、カツオ節あたりで出汁を取っているのかもしれないけど、どこかでどうにかして入手しているんだろう。
ただ少なくとも、ニャックの時のようにこの街でカツオ節はなさそうだ。
「まぁ、塩もそうだけど海って色々な食材があるし、海の恵みと言うくらいだからね」
山の恵みもあるけど。
「海の恵みですか。私の想像では、魔物が跋扈する恐ろしい場所なのですけど、タクミさんにとっては違うのですね」
「俺が元々いた場所は、海に囲まれた島国だったから。おかげで、海から採れる色んな物を使った料理が盛んだったよ」
魚料理や海藻、塩は当然ながら、他にも魚醤とかあったかな? 特に海に近い場所では海の幸が豊富だった……まぁ、日本に限った話じゃないけど。
刺身とかお寿司とか、もう一度食べたいなぁ……なんてのはともかく。
海を知らないクレアのイメージと、俺の知っている海のイメージは大分かけ離れていそうだ。
魔物がいるのは間違いないんだろうけど、この世界の海っていったいどんなところなのか……。
「あ、でも……今食べているうどんとは少し違っても、似た物なら作れるかもしれない……かな?」
「本当ですか?」
確か、カツオなどの出汁を使わないでも作れる物があった。
とは言っても、本格的なうどんつゆではなくて、家庭用の簡易的なそれっぽい物くらいしか、俺は知らないんだけど――。
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