ティルラちゃんも剣を習いたいようでした
報酬のお金を見ながらしばらく茫然としてしまったが、少ししてなんとか気を取り直す。
「ワフワフ」
昨日風呂に入って綺麗になったレオの毛を撫でたりしながら平静を取り戻す。
予想よりかなり高額な報酬を受け取れるようになってしまったが、この世界で生活するためと思っておくことにしよう。
そうこうしてるうちに夕食の時間。
俺を呼びに来たゲルダさんと一緒にレオを連れて食堂へ。
先に待っていたティルラちゃんとシェリーをレオに乗せたりして遊んでいると、エッケンハルトさんとクレアさんが食堂に来た。
それからすぐに料理が配膳されて皆で夕食を取る。
相変わらず豪快に肉を頬張るエッケンハルトさんを見ながら、たわいの無い雑談をした。
食後のティータイムの時、ゆっくりお茶を飲んでいるとエッケンハルトさんから声がかかる。
「タクミ殿、セバスチャンから剣は受け取ったか?」
「はい。森の中でも一度使った事のある剣なので、安心して使えます」
「そうか。少しでも慣れているのなら鍛錬も捗るな」
「お父様、タクミさん、剣を使うんですか?」
俺とエッケンハルトさんの話に興味を持ったティルラちゃんが、シェリーを抱きながら聞いて来る。
「そうだな。明日になるがタクミ殿は私の指導で剣の鍛錬をするのだ」
「剣の鍛錬……私もしては駄目ですか?」
「ティルラ!?」
「……ティルラ、何故剣の鍛錬をしたいのだ?」
ティルラちゃんは剣を使う事に興味があるのかもしれないな。
女の子だが、小さな子が剣に憧れるというのもわからなくもないが……。
クレアさんはティルラちゃんの発言に驚いているが、俺も同じく驚いてる。
「剣に興味があるというのはあります。ですけど、私も姉様のように従魔が欲しいのです。そのためには戦えなければなりません!」
「……ふむ……そうか」
「ティルラ……これは遊びでは無いのよ? タクミさんは自分の身を守るために鍛錬するのだし、従魔に関しては戦えたからといって出来るものではないわ」
「それは知っています! 私もシェリーが姉様の従魔になってから勉強しました」
ティルラちゃんも勉強してるんだなぁと思ったら、エッケンハルトさんの後ろに控えているセバスチャンさんの目が光った気がした。
……もしかして、ティルラちゃんに従魔の知識とかを教えたのってセバスチャンさんなのかな……?
「ティルラちゃん、レオやシェリーと遊ぶだけじゃいけないのかい?」
「レオ様やシェリーと遊ぶのは楽しいです。でも私は自分の従魔が欲しいのです」
「ワフゥ」
ティルラちゃんは遊ぶためなのか何なのか、どうしても従魔が欲しいようだ。
レオの方は応援するようにティルラちゃんの言葉に頷いてるが……それで良いのか?
「ティルラ、従魔を得るためには戦わなければならない。魔物を相手にするのだからそれは当然だ。弱い者に魔物は従わない」
エッケンハルトさんが話し始めたが、確かにそうだと思う。
魔物は全てでは無いかもしれないが、人間を襲う。
襲って来る魔物をおとなしくさせて従魔にするには戦えないといけないだろう。
俺とレオはそもそも従魔という関係じゃないし、クレアさんとシェリーは特殊な例だろうからな。
傷付いた自分を気遣うクレアさんを見ていたのもあるし、近くにレオという絶対に敵わない相手がいる状況だったんだ、シェリーがおとなしくなるのは当然だと思う。
まぁ、それとは関係無しに最初からクレアさんには懐いていたせいかもしれないけど……。
「剣の鍛錬は遊びじゃない。指導する私はもちろん手加減をするが、怪我をする事もある。そもそもティルラはまだ小さい。それで剣を使えるようになるには、相応に辛い思いをする事になるぞ?」
「それでも構いません! ティルラは強くなります!」
ティルラちゃんは当たり前だがまだまだ成長途中、体もこれから大きくなる。
その途中で鍛錬をするのは覚えという点では有利なんだろうけど、成長する体に合わせる事も必要だから、鍛錬も厳しいものになるかもしれない。
エッケンハルトさんが脅すようにティルラちゃんを諭すが、それでもティルラちゃんの決意は変わらないようだ。
何でそこまでティルラちゃんは従魔が欲しいのだろう?
「ティルラ、どうしてそんなに従魔が欲しいの?」
「それは今は言えません。ですけど、私は従魔を持たないといけないのです!」
従魔を持たないといけない……何かの使命感なのかな……。
もしかすると、クレアさんがシルバーフェンリルに対して何かを感じる事と似ているのかもしれない。
「理由は言えないが、従魔を持ちたい……か。クレアに似ているな」
「お父様?」
「クレアがシルバーフェンリルに対して特別なものを感じているのは私も知っている。それと同じような事がティルラにもあるのかもしれんな」
「……知っていたんですか……」
「私はお前達の父親だぞ? 娘の事は自分の事よりもしっかり見ている……まぁ、全てわかるとは言えないがな」
エッケンハルトさんは、クレアさんが森を探索したい理由の元を理解しているようだ。
さすが父親と言いたいとこだけど、それならお見合い話を嫌がってこの屋敷に来たのも察しても良いんじゃないかと思う。
もしかしたら、シルバーフェンリルと縁のある森に近い場所だからと考えてわざとなのかもしれない……というのは俺の考えすぎか。
エッケンハルトさんが自分で言うように、娘とは言えさすがに全てを知って理解する事は出来ないもんな。
「それじゃあお父様!」
「ああ、ティルラにも剣を教えよう。……ただし!」
ティルラちゃんの期待をする表情にエッケンハルトさんは許可をするが、一度言葉を切って真剣な目をティルラちゃんに向ける。
契約の時俺にも向けられたけど、あれ結構迫力あって怖いんだよなぁ。
そのエッケンハルトさんの視線を受けて、少し怯みながらもティルラちゃんは姿勢を正し、同じく真剣な目でエッケンハルトさんを見返す。
さすが娘ってところなのかな……多分クレアさんも同じような状況、自分の意見を通したい時は似たような気迫を見せるんだろうな、なんてちょっとだけズレた事を考えてしまった。
気を取り直して、エッケンハルトさんがティルラちゃんに何を言うのか注目した。
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