様子を見る人物が増えました
「タクミさんはそう考えたのですね。私は……私も少し、リーザちゃんと同じような感覚があったんです。いえ、はっきりと言えるほどではないのですけど」
「クレアも……? うーん、リーザの感覚は、獣人だからっぽいけど、クレアのは違うだろうし……」
デリアさんが、敵意とか何か嫌な感情を持っていたり、悪い事を考えていたりする人に対して、獣人はなんとなく感覚でわかるって言っていた。
だから、リーザも幼いながら近い感覚を持っていて、それでウィンフィールドさんから変な感じを受けたのかもしれない……と思うんだけど、クレアも似たような感覚があるというのはどういう事なんだろうか?
クレアは獣人じゃないのは間違いないし……もしかして、これが屋敷の人達が言っていた、クレアに人を見る目があるって事かな?
獣人ではなく、人間には基本的にないと思われる感覚が、備わっているとか……クレア自身、はっきりとは言えないらしいので俺の考えすぎかもしれないけど。
「まぁとにかく、その人……多分、ウィンフィールドって人だけど。リーザは変な感じや嫌な感じがしたんだな?」
「……うん。なんだろう、パパを見ている時にちょっとだけ。ただ、パパを騙したりとかじゃないと……思う、多分。パパと会う前に、私を叩いたりしていた人達とは、違う感じがしたよ?」
「そうか……」
「リーザちゃんがそう言うって事は、何かがあるのかもしれませんね」
獣人の感覚というのがなくても、リーザはこれまでの経験から敵意のようなものに敏感なところがある。
逆に、いじめられる経験をしながらも、敵意なく優しく接したらすぐに打ち解ける人懐っこい所もあるんだが。
そのリーザが言うのだから、ウィンフィールドさんには何かがある可能性が高い……リーザが言うには、騙そうとか敵意に繋がるものじゃないみたいだけど。
ウィンフィールドさんか……そういえば、使用人候補の人達の中で一番話をする機会がなかったような……?
屋敷の執事さんと一緒に、特に問題なく仕事をしているのは見ているんだけど。
本人の意思で、俺とあまり話さないようにしているとか、避けているとか……かな?
とにかく、要注意として見ておく必要がありそうだ……シャロルさんとはまた別の方向で、心配事が増えた気がするなぁ。
でもまぁ、人を雇ったり周囲の人が増えるってのは、そういう事でもあるか……人間関係って複雑怪奇だ。
レオに乗りながら、クレアやリーザ、時折レオとも話しながらラクトスへ到着。
「やっぱり、レオ様やフェンリルだと、到着が早いですね。屋敷とラクトスの距離が近くなったような気がします」
「そうだね……実際の距離は変わらないけど、時間が短くなるだけで、そう感じるものだね」
ラクトスの門前で、フェンリル達から降りる皆を見守りながら、クレアと話す。
距離そのものは変わっていなくても、移動時間が短くなると近く感じるものだ。
「クレアお嬢様、タクミ様、お待ちしておりました」
「フィリップさん」
先にラクトスへ来ていたフィリップさんが、門から出て来て合流。
レオ達は目立つから、俺達が到着したのもすぐにわかったんだろう。
ヨハンナさんやニコラさん、他に数名の護衛さん達とも合流し、フェンリル達を残して門の中へ。
「フェンリル達が休める場所とかも、あればいいのですけど……」
「ワフ、ワフワフ」
「そこらで適当に過ごしているから、気にしないって言ってもなレオ。街を出入りする人もいるから、目の前で休んでいるわけにもいかないだろう?」
「ワフゥ……」
レオは街の中に入るが、ぞろぞろとフェンリルを引き連れて行くのも目立ち過ぎるので、フェリー達は門の外でお留守番だ。
ニコラさんが護衛さんや衛兵さんをまとめて、見てもらっている。
レオは適当でいいと言うように鳴くが、ある程度見た事のある人ならともかく、初めて見た人は使用人候補さん達のように、驚いたり怖がったりしてしまうから、そこらで休ませるわけにもいかない。
今は、厩の近くで休んでもらっているけど、なぜかレオが鳴くとすぐに落ち着く馬達も、一部はフェンリルが近くにいるのは落ち着かない様子だった。
「街は一時的とは言っても、駅馬でフェンリル達に協力してもらうなら、その辺りも考える必要があるのかもね」
「そうですね。できれば、馬とフェンリルを選べるようにしたいのですけど……」
馬がフェンリル達を見て落ち着かないのなら、それはストレスになるから馬にとっていい環境じゃない。
駅馬が実現したとして、フェンリルに乗るのを躊躇する人に対し、馬も貸し出せるようにする事もクレアは考えているようだけど……元々、駅馬という名前からして、馬を運用する方法だからな。
一緒にいられないのなら離しておく必要があるし、場合によっては一緒に運用するのは難しくなるかもしれないか、これも考える必要があるか。
ともあれ、今はまず街に来た目的を果たす必要があるので、この話は棚上げだ。
俺やクレアだけでなく、護衛さん達や使用人候補の人達……ゾロゾロと一緒に街中を歩くのも、時間がかかるから、二手に別れるようにした。
「それじゃ、よろしくお願いします」
「はい、承りました」
門を入ってすぐの、馬車などを止める広場でクレア達と別れる。
クレアは護衛さんとライラさん、それにティルラちゃんが、薬草を持ちカレスさんのお店へ……薬草を渡す以外にも、カレスさんとクレアが今後の事を話す用があるからだ。
俺とレオ、リーザに使用人候補の皆さんは、その間にイザベルさんの店と仕立て屋のハルトンさんの所へ……イザベルさんはリーザを可愛がっているので、魔法具の注文だけでなく顔見せもしておきたい。
ヴォルターさんだけは、いつ塞ぎ込んでもおかしくない状態なので、あまり動き回れないだろうとカレスさんの店の方に向かったけど。
「お婆ちゃん、元気かなぁ?」
「リーザが顔を見せれば、もし元気がなくても元気になるかもしれないな」
「そうかな、そうだといいなぁ」
「ワフ」
リーザの言葉に、安心させるように微笑みながら、頭を撫でる。
イザベルさんは、セバスチャンさんと同年代っぽく、それなりに高齢のお婆さんだ。
家族に関しては聞いた事がないが、一人でお店をやっているので話し相手を欲しがっている様子も、時折見せる。
だからだろうか、心配するリーザがいい話し相手になってくれるといいなと思った――。
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