クレアがダイエット食材を求めました
「ははは……これまでは、そういった探求のような事を、料理人さんくらいしかしていなかったからかもしれませんね」
「そうですな、元々ヘレーナは料理への探求心は凄まじかったのですが、いまいち成果を出せなくて悩んでいたようです。それがタクミ様が来られてから、アイデアと言いましょうか、新しい食材の発見や利用法、料理などの幅が広がったようです」
「まぁ、俺なんかの知識で、皆が幸せになれるなら嬉しいですね。とは言っても、俺自身料理が得意ではないので、そう多くはできませんけど」
自炊も時折くらいで、ほとんどスーパーの総菜とかが多かったから……というより、レオを拾うまで自炊なんてほぼやっていなかったしな。
就職してからは、作る時間がなくてコンビニ弁当が多かったか。
とはいえそこはやはり日本人だからなのか、ある程度の料理というか食べ物に関する知識はある……多いとは言えないが。
ほんと日本人って、例外はあれど美味しい物への探求心はすごいと思う……確か、うま味を発見したのも日本人だったはずだしな。
「ほっほっほ、それでも我々からしたら十分な程ですよ。フェンリル達を見てもそうですが、腹が膨れるというのは生き物にとって重要な事です。そしてそれが少しでも美味しい物でとなると、探求したくなるものなのかもしれませんな」
「ははは……ランジ村で、時間がある時に食べ物屋とかやったら、皆に美味しい物を食べてもらえるかもしれませんね」
「料理長のヘレーナが意見を求める方です。タクミ様が作られるとなれば、評判間違いなしの食べ物屋となるでしょうなぁ……」
「……セバスチャン、至急ソーイを買い込みましょう」
「クレアお嬢様?」
「クレア?」
笑いながら、セバスチャンさんと空想のような与太話をしていると、考え込んでいたクレアが呟く。
会話を止め、俺とセバスチャンさんがクレアを見て首を傾げた……ティルラちゃん達も見ているから、意外と俺達の会話は注目されていたようだ。
……ティルラちゃん、こうして俺達が話しているのを聞いて、スラムに突撃したのかもなぁ。
「ソーイそのものは、既にいくつか料理に使われている食材よ。そこからタクミさんとヘレーナが見出した、もやしという食材を多く作るためにも、ソーイを多く買い込む必要があるわ」
「まぁ、新しい食材の発見と考えれば、それなりに調理をする必要があるので、多く必要になるでしょうな」
「ニャックに続き、ダイエットに最適な食材が増えて、結構な事よ」
俺やクレア、屋敷の人達、レオやフェンリル達、ラーレ達が食べるとするなら、大量に必要になるのは間違いない。
確かに、もやしを使った料理を増やすのであれば、ソーイが大量に必要だ。
まぁ、一番よく食べるレオやフェンリル達が、この先もやしを気に入るかどうかによって、かなり変わりはするけど。
試作するなら、多くあって残りを気にせずに使った方が、思い切った物はできるかもしれないけど……。
「さすがに、この場で決められる事ではありません。多少なら購入を増やせますが……ソーイは小麦などと同じく穀物です。ニャックのような加工品とは違い、私達が大量に買い込めば、相場が変わり広く影響が出てしまいます」
「そ、そうね……」
セバスチャンさんが静止して、ようやく落ち着くクレア。
そうか……大豆、もといソーイは穀物だったっけ。
この国での扱いがどうなのか詳しく知らない俺でも、穀物が食用の物として重要な位置付けなのはわかる。
輸送のための日数とかもあるから、保存の利く食品は大事だ。
先物取引という言葉だけなら、聞いた事がある人は多いと思うが……要は、後々価格が上昇するとしても、現在の価格で先の収穫分も購入するための約束事……細かい部分を考えればちょっと違うかもしれないけど、概ねそんな感じの取引だ。
穀物を取り扱って、どの街や村にも行き渡らせるようにしているなら、近い取引があると思われる。
クレアが大量購入する事で、どれだけの価格が変動するかはわからないが、その影響は後々の国民全体へと影響しかねない。
まぁ、全体というのはさすがに大袈裟かもしれないけど、無暗やたらに価格上昇をさせたら、今年は穀物を一定数買えた人が、来年は買えなくなるなんて事もあり得る。
「一部の地域にある物なら構いません。ですが、穀物を一度に大量に購入するのは、今すぐ決めて良い事ではありませんからな。少なくとも、料理を作るヘレーナとも相談しなくては。それに、予算も無限にあるわけではありませんからな?」
「……少し先走ってしまったわ。ごめんなさい、セバスチャン。そうね、ヘレーナとも相談して適切な量を……予算もあったわね。なら……」
「もし価格が大きく上昇する程、大量に購入する場合には、旦那様とも相談いたしませんと」
「そうよね。今は、街道の整備を進めているから……ちょっと難しそうだけど」
公爵家は、商売で上手く利益を得ているから、それなりに潤沢な資金がある……というのは、これまでクレア達と話した内容や、生活、孤児院への援助でもわかる事だ。
俺への報酬も、滞りなく渡してくれるし……個人的には、多過ぎだったりするけど、それは今関係ないな。
とにかく、大金持ちの公爵家だとしても、お金は無限にあるわけじゃない。
当然ながら、年次予算……というのを決めているかはともかく、使っていい予算は考えられているはずだ。
穀物価格や予算に影響するとなれば、当主のエッケンハルトさんにも相談しないといけないか。
先程クレアが提案した時、女性の使用人さん達の多くがコクコクと頷いていたから、少量では収まりそうにない。
ちなみに、フェンリル達がハンバーグを食べるのを夢中になって見ているチタさん以外の、使用人候補女性陣も、話しが聞こえたのか何かを期待する目でこちらを見ていた。
……屋敷に来て日が浅いのに、誰か他の使用人さんからダイエットに関する話を聞いたのだろうか?
そんなこんなで、セバスチャンさんが止めて落ち着いたクレアが、どうしたら大量に買ってもやしを生産する方法があるかを考えているのを眺めながら、夕食とその後のティータイムを終える。
ティルラちゃんは、スラムに関してとか言って、執事さんやメイドさんと意見交換をしていたし……リーベルト姉妹は、やりたい事に対して全力なんだなぁと、リーザとレオを撫でながら思った――。
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