厨房でヘレーナさんにご褒美をお願いしました
アロシャイスさん達から、俺に仕えるのも公爵家に仕えるのも、どちらも問題ないと聞いて一安心。
というかエッケンハルトさん、俺の事をそこまで重要視してくれているのはともかくとして、大まかには説明してくれていたんなら、フェンリル達の事も含めてもう少し色々教えておいて欲しかった。
説明に関しては、セバスチャンさんが嬉しそうなのでいいとしても、使用人候補の人達が驚き過ぎていたのがちょっと気の毒だ。
まぁ、『雑草栽培』の事があるから、俺が直接教えた方がいいと考えたのかもしれないけど。
「アロシャイスさんの身の上はわかりました。昔の辛い出来事を、話してくれてありがとうございます」
「いえ、今は恵まれた境遇だと自負していますので、気にしていません。あの頃があったからこそ、今こうしていられるのだと考えています」
アロシャイスさんの話した内容は、聞いているだけでも眉をしかめてしまいそうな程、苦しく重い過去だった。
リーザと比べても……いや、比べるような事じゃないか。
ともあれ、アロシャイスさん自身は前向きに考えているようで、謝る俺に気にしていないと首を振ってくれた。
「それじゃあ次は、シャロルさんに聞きたい事だけど……」
「は、はい!」
アロシャイスさんとの話でも、シャロルさんは孤児院出身だとの話が出たので、半分くらいは聞きたい事も終わっているんだけど、肝心な部分がまだだからな。
黙っている時は、鋭い目つきで厳しそうな印象を受けるシャロルさん。
今は、俺から何を聞かれるのかと緊張しているのか、目を見開いている……肩にも力が入っているけど、そこまで緊張しなくていいんですよー。
それに……。
「早速話をと思ったんですけど、厨房に着きましたから。また後でですね」
「は……はい! 畏まりました!」
結構ゆっくり歩いていたんだけど、それでもアロシャイスさんとの話が終わる段階で、厨房の前に来ていた。
ここで立ち話というのもおかしな話だし、まずはヘレーナさんへの用件を終わらせてからにしよう。
ヘレーナさんと話したら、厨房から裏庭に行くつもりだし、その時でいいかな? なんて考えつつ、厨房の中へと入る。
「失礼します。ヘレーナさんはいますか?」
「タクミ様。ヘレーナさんですね、少々お待ち下さい」
厨房の中に入ると、夕食の支度を始めているのか、忙しそうに動き回る料理人さん達。
その中から、出入口に一番近い所にいた人に話し掛けて、ヘレーナさんを呼んでもらう。
……忙しそうだし、用件が終わったらすぐに出て行った方が良さそうだ。
「タクミ様、どうなされましたか?」
「ヘレーナさん。えっと……」
まずは、さっきオークを倒したので新鮮なお肉が手に入る事を伝え、さらに処理などをお願いする。
オークは凍っているのもいるし、状態などを見てから血抜きなどを含めて、適切な処理をしてくれると請け負ってくれた。
頑張ってくれたフェンリル達へのご褒美として、今日はできればハンバーグを作って欲しいという事と、人手が足りないのならリーザと一緒に手伝う事も伝える。
そんな風に手早く用件というか、お願いを伝えながら俺と一緒に来ていたチタさん達の事も紹介。
「チタさん、シャロルさん。二人はできればでいいんですけど、屋敷にいる間はフェンリル達のお世話をして欲しいんです」
シャロルさんは話を聞くついでだけど、チタさんだけに任せるのは大変だろうから、これから二人でフェンリルの担当になってもらおうと考えた。
断られたら別の人に……とも思っていたけど、チタさんは絶対断らないだろうし、シャロルさんもリルルに乗っている時の事を考えると、断りそうになかったからな。
それに、フェンリルとの拘わりは今のところ全面的に俺の担当らしいし、選んでランジ村に行っても、選ばずに屋敷に残るにしても、フェンリルと拘わる事は多くあるはずだ。
今のうちにお世話係をしていれば、今後に繋がってくれるだろうと思う。
「はい、喜んで引き受けます!」
「なんと……フェンリル達のお世話役、大役を任せて頂き、ありがとうございます」
チタさんは嬉しそうに、シャロルさんは恭しく、とにかく二人共頷いて承諾してくれた。
「まぁ、大役という程大変な事は少ないと思いますが……ほとんど、料理のお世話ですし、作るのはヘレーナさんで運ぶのが主だった事だと思います。まぁ、手伝ってもらうくらいはあると思いますが。――ヘレーナさん、フェンリルに関して料理に要望などがあれば、この二人が伝えると思いますし、ヘレーナさんからも何かあれば」
「畏まりました。チタさんとシャロルさんですね。よろしくお願いします」
ヘレーナさんって、時折俺を探して話しかけて来る事があるし、二人が間に入ってくれればお互いの手間が省けるだろうと思う。
わざわざ俺を探さなくても、チタさんかシャロルさんに言えば、俺を呼んでくれるだろうから。
「ですが、ハンバーグですか……フェンリル達の要望に応えて、というのはわかりましたが……」
「もうすでに、他の料理を作っていたり?」
今も料理人さん達が忙しなく動いていて、何やら作業をしているので、すでにメインの料理を作り終えている可能性がある。
その場合は、少しだけ作ってフェリー達だけ特別ご褒美として出すか、明日以降にしてもらうかした方がいいか。
夕食の時間まではまだあるけど、もっと早く伝えた方が良かったか……明日以降になったら、フェリー達にちゃんと謝っておかないとな。
「いえ、それはまだですし、ハンバーグを作るのも問題ありません」
「そうなんですか?」
「はい。ですが、今試作料理を作っておりまして……もやしを使った料理です」
「もやしを……?」
前に、大豆……ソーイから芽が生えて来て、それがもやしだという話はした。
料理のレパートリーが少ない俺ではなく、ヘレーナさんが何か料理を考えて見るという話だったけど……もう料理として使える程、量ができたのか。
あれから数日くらいしか経っていないのに、異世界の大豆……いや、もやしの成長速度は侮れないな。
思ったより早くもやしが食べられるのは、嬉しい事だけど、美味しいしな――。
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