滝を発生させそうな人がいました
「次は……フェリーとフェンの様子を見て、リルルの方を見ないってのはないな。レオ、リルルとシェリーが走っている方に近付いてくれ」
「ワフ!」
こうなったら全員の様子を見て、声をかける事に決め、レオに頼んでリルルとシェリーが走っている方へ。
「あ、タクミ様! レオ様とリーザ様もー!」
「ははは、チタさんは元気だなぁ。――リーザ、あの前に乗っている女の人がチタさんで、その後ろにいるのがエミーリアさんだ」
一生懸命走っているシェリーの邪魔をしないよう、レオに動いてもらってリルルに近付く。
リルルの背中の上で、俺達が寄って来るのに気付いたチタさんが、大きく手を振りながら声をかけてきた。
苦笑しつつ手を振り返して、リーザにチタさん達の名前を教える。
昨日一応それぞれ紹介し合っていたんだけど、アルフレットさんやヴォルターさん達を見て、まだあまりしっくりきていなさそうだったからな。
多分、まだ顔と名前が一致していないんだろう……一気に初対面の人が十人だから、仕方ない。
「えーっと、チタお姉ちゃんと、エミーリアお姉ちゃん……だね。――おーい!」
「ワフ!」
「わぷ……リーザ、尻尾を振るのはいいけど、後ろに俺がいる事も覚えておいてくれ?」
元気なチタさんを見て、触発されたのかリーザが声をあげて手を振り返し、レオも大きめに鳴いた。
ただ、リーザを支えている俺の顔に、二つの尻尾がバッサバッサと当たる。
楽しそうなのは俺としても喜ばしいけど、息がしづらいからもう少し控えめにお願いしたい……毛がフサフサで気持ちいいんだけどな。
「リーザ様、楽しそうですね!」
「うん、楽しいよ! ママやパパと一緒に走るの楽しい! でも……もう少し速いともっと楽しいかなぁ?」
「リーザ、今日は新しくきた皆がフェンリル達になれるためだからな。速度は控えめにしないと」
チタさんは満面の笑顔で、叫ばなくても声が届く位置まで来た俺達……リーザに話し掛ける。
俺から見ると、チタさんの方が楽しそうだけどな。
ともあれ、リーザはもっと速くレオに走って欲しそうに呟いたが、さすがに俺達はともかく慣れない人達ばかりなので、速度を出したらさらに恐怖心を植え付けてしまいそうだ。
ヴォルターさんとか特に……。
「た、タクミ様……」
「あー、エミーリアさんはちょっと苦手ですか?」
「申し訳ありません。フェンリル達が、人を乗せて走ってくれる。危害を加えるような怖い存在じゃないって事は、よく理解できたのですが……」
チタさんの背中に抱き着くようにして、顔を青ざめさせて声を出したのはエミーリアさん。
ヴォルターさんみたいに騒いだりはしていないけど、その様子を見れば誰が見ても苦手だろうなとわかる顔色だ。
「エミーリアさんは、馬に乗るのも苦手なんです」
「じ、自分の足で移動しないというのは、どうも慣れなくて……それに、揺れるとどうしても……」
「うーん、昼食もあまり食べていないらしいですし、それもあって酔いやすいのかもしれませんね」
フェンリルとか関係なく、エミーリアさんは単純に乗り物に弱いみたいだ。
馬や馬車よりは、レオやフェンリル達の方が揺れは少ないけど、全くないわけじゃないからなぁ……こればっかりは、体質だろうから仕方ない。
空腹や寝不足でも、乗り物酔いしやすくなってしまうから、今回はそれも影響しているんだろうし。
「いえ……少量しか食べていなくて正解でした。おそらく、満腹になっていたら……うっぷ!」
「ちょ、ちょっとエミーリアさん! 私の背中にエンジェルフォールは止めて下さい!?」
「だ、大丈夫ですか、エミーリアさん!?」
突然、チタさんの背中に口を押し付けるエミーリアさん。
驚いて叫ぶチタさんだけど……エンジェルフォールって、確か地球で一番大きな天使の滝って呼ばれる、滝の事だったよな?
慌てて声をかけつつ頭の中で考えるが、多分吐いたり戻したりって事を言っているんだろう、と勝手に納得。
そのまま言うより、綺麗な表現なのかもしれないけど微妙にわかりづらい……しかも地球にあるはずのエンジェルフォールって……誰か地球からこちらの世界に来た人が、伝えたんじゃないかな。
ナイアガラの滝とかって表現は、なんとなく聞いた事あるし。
ユートさんかな? いや、なんでもユートさんのせいにしちゃいけないか。
それに、エンジェルフォールは日本の滝じゃないし。
「な、なんとか……だ、大丈夫です」
「エミーリアお姉ちゃん、どこか痛いの?」
「い、いえ……痛いわけではありませんけど……うぅ……」
「ほ、本当にエンジェルフォールは止めて下さいね!?」
込み上がる物を飲み込んだのか、抑え込んだのか、堪えるようにしながら話すエミーリアさん。
優しいリーザが心配するけど、痛みとかはないから大丈夫だぞー。
うーん、チタさんは楽しそうだったのに、エミーリアさんの様子から一気に天国から地獄だな。
エンジェルフォールだから、天使の滝から落ちて悪魔が待ち受けている、とか? なんてどうでもいい事が頭に浮かんだ。
「はははは……リルルに乗っている状態でこれなら、ラーレに乗ったセバスチャンさんやヨハンナさんより、深刻だなぁ」
本格的に、酔い止め薬みたいなのを考えないといけないかもしれない……とは言え、薬草でそういう効果がある物がなければ、俺にはどうしようもないけど。
酔い止め薬の作り方なんて、知らないから。
というか、俺は乗り物酔いをあまりしない体質だから、お世話になった事もないんだよなぁ……当然成分や作り方なんてわかるわけがない。
「あ、そういえば……」
「どうされましたか、タクミ様?」
「いや、ちょっと思い出した事があったんですけど……まぁなんにせよ、皆大分フェンリル達に慣れ始めているようだし、もう少し我慢して下さいね、エミーリアさん?」
「うっぷ……ふぁ、ふぁ~い……」
酔わない方法として、一つ心当たりというか使えそうな方法が浮かんだけど、今すぐは試せない。
チタさんには申し訳ないけど、もう少しリルルに乗る楽しさを感じながら、背中に迫る恐怖を我慢していて欲しい。
エミーリアさんに声を掛けたら、なんとか我慢できそうだったし、きっと大丈夫だろう……返事に元気は全くなかったが――。
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