フェリーに皆を乗せてもらえるようお願いしました
「……獣人は、人間より身体能力が優れている事が多い……と読んだ事がある。昔の戦争も、単純な身体能力で負けるからこそ、妙な噂も広まったのかもしれないな」
「ヴォルターさんは、獣人の噂を?」
「いや、俺は信じてはいない。そもそも、書物では獣人がオークなどのような魔物と同じ、という記述はないからな。まぁ、国があれば争う事もある、と考えている。それに、あの戦争の時俺はまだ小さかったからな……戦争の影響が少ない公爵領で生まれ育ったのもあって、悪い感情は持たない」
「そうですか、良かったです。リーザ様、可愛いですもんね」
「……子供ゆえの可愛さだろうが、そういった目では見ていないぞ」
ヴォルターさんは、書物で得た知識から分析っぽい事を呟いていた。
それにチタさんが反応し、話しかけている……チタさんは、偏見とかのない人なのかもしれないな、リーザの可愛さがわかっているみたいだし。
決して、親バカだとか、リーザはすべからく可愛いとか、力説はしないぞ、うん。
ともあれ、ヴォルターさんとも仲良くやっているみたいだ……獣人への偏見や差別意識は、とりあえずなさそうだ。
まぁ、リーザの事も知っているエッケンハルトさんが、そういった考えの人を寄越すとは思えないけど。
リーザを保護した時、一緒にいて見ていたからなぁ。
「ワフ?」
「おっと、また考え込んでいたな。すまないレオ。――フェリー、ちょっとお願いがあるんだけどいいかな?」
「グルゥ? グルッ!」
「いや、昨日みたいな整列はしないでいいから……」
レオの鳴き声で、後ろの人達に行っていた意識を戻す。
伏せて揃えた前足に顎を乗せているフェリーに声をかけると、顔を上げて首を傾げ、すぐに立ち上がってレオの後ろに並ぼうとするのを止める。
なんというか、レオが言ったのかもしれないが、完全に俺が主みたいになって来ているな……多頭飼いはした事ないんだけど……そもそも、ペットじゃないしな。
「フェリー、それからフェン達もなんだけど……俺の後ろにいる人達、今いるのが全員じゃないけど。その人達を乗せて、外を散歩してくれないか?」
「グルゥ。グルル、グルグルゥ?」
「もちろん構わない。だけど、どこかへ連れて行けばいいの? って言ってるよ」
「ありがとうリーザ。――いや、フェリー達に乗ってどこかへ行こう、というわけじゃないんだ」
少し声を潜めて、フェリーに使用人候補の皆さんを乗せてもらうのをお願いする。
頷いた後、また首を傾げるフェリーの言葉は、リーザが通訳してくれた。
「ほら、あっちの様子……レオもそうだけど、フェリー達にも怯えている人達が多いから。それで、慣れてもらおうと思って……」
「グル? グルルゥ」
使用人候補の皆さんを示して、フェリーに見てもらう。
相変わらず、チタさん以外緊張したり体を震わせたりしている様子を見て、フェリーも納得してくれたようだ。
いや、チタさんはレオを見て緊張くらいはしているけど。
「だから、フェリー達に乗れば少しは慣れてくれるかなと思って。散歩がてら、この屋敷の周辺を走ってくれればいいんだ」
「グルゥ。グルルルゥ」
「運動になるから、問題ないってー」
運動か、確かに今屋敷でのんびりしているフェリー達は、運動不足な感じなのかもな。
ティルラちゃんを探してラクトスまで走ったけど、森の中で暮らして走り回ってそうなフェンリルにとっては、それだけだと十分な運動じゃないのかもしれない。
そういえば、レオも体が大きくなって運動不足気味になっていないかな? まぁ、レオはよくリーザやティルラちゃんと裏庭を走り回っているけど。
……たまには広い場所を走るのも良さそうだ。
「そうか、ありがとう。走った後はハンバーグ……を毎日は飽きそうだけど、美味しい物を用意してもらえるよう頼んでおくよ」
「グルゥ!? グル、グルルゥ!」
「ふぇ、フェンリルが凄い反応をしています……!」
「た、タクミ様が何か言ったのでしょうか……」
「怒って……いるわけじゃなさそうですね」
ハンバーグと聞いて、舌を出しながら大きく反応するフェリー。
それを見てアルフレットさん達が、ざわざわと騒いでいるというか驚いているようだけど、怒っているとかじゃないから安心して下さいねー。
ちなみに、リーザに通訳してもらうと、フェリーはハンバーグなら毎日でもいいしむしろその方がいい、というような事を言っていたらしい。
さすがに、毎日ハンバーグだと栄養が偏るし……フェンリルには関係ないのかもしれないけど。
屋敷の人達が毎日ハンバーグっていうのもどうかと思うし、ヘレーナさんに頼んで別で作ってもらうのも手間だ。
一応頼んでみるけど、ヘレーナさんの作る料理はどれも美味しいから、ハンバーグじゃなくても満足してくれると思う。
「それじゃえーと……」
「どうされましたか、タクミ様。フェンリルと話しておられましたが……」
「フェンリル……フェリーでしたか。途中の反応が気になります」
「あーいや、話自体は大した事じゃなくて、フェリーは好物に目がないだけですよ。……それはレオも同じですけど」
「ワフ!」
いや、そこは自信満々に頷くところじゃないんじゃないか、レオ?
ともあれ、フェリーへのお願いを終えて使用人候補の皆さんの所へ戻る。
俺とフェリーが何を話していた内容は聞こえていないながらも、フェリーの反応を見ていた人達からはどんな話をしていたのか、気になっている様子だ。
何人かは顔を青ざめさせているけど……どんな想像をしているんだろう?
「今いない人もいるので……うーん」
「ワフ?」
「タクミ様?」
怖がっている人達に、前もって教えておくのがいいかを悩み、途中で言葉を止める。
レオも使用人候補の人達も、皆考え込む俺を見て不思議そうにしていた。
……心の準備はしておいた方がいいし、いきなりこれからフェンリル達に乗るように……と言うよりはいいかな、多分。
よし、伝えておくかな。
「昼食後になりますけど、屋敷の外で皆さんはフェンリルに乗って散歩……周囲の散策に出かけてもらいます。ここにいない人には、後で伝えておいて下さい」
「ふぇ、フェンリルに、ですか!?」
「そ、そんな恐ろしい事が可能なのでしょうか!?」
「ちょっと怖いですけど、ふわふわそうです……」
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