リーザが変わった遊びをしていました
「師匠、終わりました!」
「ありがとう、ミリナちゃん。さて、それじゃ……」
「……ゴクリ」
俺が作ったゴム茎を収穫したミリナちゃんから、束を受け取り鍋の上に持って行く。
さっきからの説明のおかげか、見学している使用人候補の皆さんから、凄く注目されているようだ。
中には凝視している人、キースさんとか……緊張しているのか唾を飲み込む音を響かせる人、シャロルさんとかもいたけど。
そこまで注目したり、緊張する必要はないんだけどな……心の中で溜め息を吐きつつ、状態変化をゴム茎に施していく。
「結構、樹液が溜まったかな」
ゴム茎から樹液を状態変化で絞りとって、寸動鍋を覗き込む。
鍋は高さ五十センチを超える巨大な物だけど、その半分くらいまで樹液が溜まっている。
感覚的には余裕があるので、納品用の薬草を作った後でも寸動鍋一杯分は一日でできそうだ。
でもまぁ、急ぐ事でもないし無理をする必要はないのだから、余裕をもってここまでにしておこう。
「……持っているだけなのに、植物から液体が……」
「先程の薬草もですが、特に力を入れていないのに液体が出たり、乾燥したり粉になったり……不思議です」
「あんな事、魔法でもできません……」
「改めて凄い方、そして凄い能力をお持ちなのですね」
「呪文も唱えていないので、魔法ではないのですね」
「ギフト、魔法とは別物である能力だと書物には書かれていたが、本当のようだ」
鍋を覗き込む俺を見ながら、ジルベールさん、アルフレットさん、キースさん、チタさん、シャロルさん、ヴォルターさんの順で話している……要はこの場にいる使用人候補の皆さんが、驚いているって事だ。
うん、ある程度話したから、見なくてもなんとなく声や喋り方で誰が話したのか、わかるようになってきた。
「ライラさん、ミリナちゃん。これを保管してくれますか? 少し重いので気を付けて下さい」
「はい、畏まりました」
「畏まりました、師匠!」
感心していたり驚いたり戸惑ったり、様々な反応をする使用人候補の皆さんを余所に、樹液を溜めた寸動鍋をライラさん達に渡した。
半分くらいが満たされた鍋は、俺一人で持つのも重いくらいなので、注意して二人に協力してもらおう。
俺が持って行っても良かったんだけど、こういうのを任せて欲しそうなのがライラさんだし、ミリナちゃんも嬉しそうだから問題ないか。
「さて、次はレオやフェンリル達と話しますけど……一緒に来ますか?」
「うっ……お、お供させて頂きます」
薬草作りなどが終われば、今度は使用人候補の皆に慣れてもらうため、昨日の夜考えた案のためにフェンリル達と話そうと考えていた。
アルフレットさんを始め、ほとんどの人が一瞬で体を硬直させていたけど、なんとか頷いて同行する事になる。
チタさんだけは、嬉しそうな表情が見え隠れしていたから、やっぱりこの子は慣れるのが早そうだ。
ちなみに、朝食前にライラさんからクレアやセバスチャンさんには話が通っており、人が通る事の多い街道から離れた場所であれば、いくらでも走り回っていいと言われた。
何も知らない人が、偶然通りがかってレオやフェンリル達が走り回っていたら、驚くだろうからなぁ……。
あとは、フェリーと話して頷いてもらうだけだ……ハンバーグとか、美味しい物を用意したら喜んで頷いてくれそうだけど。
「んー……んっ! やっ! たぁ!」
「ワフワフ~」
「お~、リーザちゃんすごいです! 私はできませんでした……シェリーくらいなら飛び越えられるんですけど……」
「キャゥ……キュウ!」
使用人候補の皆さんを連れて、レオ達がいる場所へ移動……とは言っても、同じ裏庭にいるので遠目には見えていたし、笑い声なんかも聞こえていた。
けど、俺達が近付く前から、なぜかシェリーも含めてフェリー達が一定の間隔を開けて伏せをしていた。
近寄って声を掛けようとしたらリーザが助走して走り込み、それぞれの背中に手をついて連続でジャンプして飛び越えて行った。
なんというか、跳び箱をしている感じでちょっと懐かしい……飛び越える相手がリーザの体からするとかなり大きめだし、凄い跳躍力だったけど。
「えへへへ……あ、パパだー! お仕事終わったのー?」
「ワフワフ!」
「おっと。あぁ、リーザ。うん、とりあえずやる事は終わったよ。ただ……何をしていたんだ? いや、見ればわかるんだけど、どうして……」
フェンリル達を飛び越えて着地したリーザは、褒めるティルラちゃんとちょっと不満そうなシェリーに対し、照れくさそうに笑って近くに来ていた俺に気付いた。
レオもすぐにこちらまで来て、駆け寄ってきたリーザを受け止めつつ、答える。
けど、何をやっていたのかは見ればわかるんだけど、なんであんな遊びになったのか……。
「えっとねー……ママがね、ラーレに向かってジャンプしてたの。そしたら、リーザも飛びたくなったんだー」
「ワフワフ」
レオとラーレがじゃれているのを見て、自分もやりたくなったって事だろうか?
まぁ、子供ってよくわからない遊びを始めたりするし、深く考えない方がいいのかもしれないな。
「タクミさん、私は飛べませんでした……もっと鍛錬頑張ります!」
「いやぁ……鍛錬でできるようになるかはちょっと……」
リーザが完璧に連続ジャンプを決めたのを見て、落ち込み気味のティルラちゃん。
年上のお姉さんとして、リーザに負けたくないと考えているのかもしれないが……そもそも鍛錬はジャンプするためのものじゃないし、できても何かの役に立つとは思えないんだけどな。
そう考えるから、子供達の遊びの楽しさを理解できない大人になるんだろうけど、それはともかく。
頑張る意気込みを潰したくはないので、余計な事は言わないようにしておこう。
「ティルラお嬢様、フェンリルを踏み台にしたのですか……」
「いや、それよりもあの獣人の子……リーザ様でしたか。リーザ様は自分の体よりも高く飛んでいました」
「手で体を押し上げていたので、単純な脚力ではないとは思いますが、それでも驚きです」
俺の後ろでは、アルフレットさん達がまた何やら話している。
大体は、リーザが高く飛んだ事や、フェンリル達と無邪気に遊んでいる事への驚きのようだけど――。
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