選ぶ基準は自由なようでした
「それはほぼないと見て良いでしょう。元々公爵家に仕える使用人達です。シルバーフェンリルの重要性はわかっておりますし、恐怖から逃げ出す者はいない……と思いたいですな」
俺の言葉に、否定とまではいかない曖昧な答えを出すセバスチャンさん。
「そこは断言しないのね、セバスチャン?」
「何分、本邸を離れてそれなりに経ちますので。本邸での使用人達が、どのように考えているのかまではわかりかねます」
「そうね、私も久しぶりに会った人もいたけど、さすがに全て以前のままというわけではなさそうなのよね。……アルフレットがジェーンと結婚していたのは知らなかったわ。あの二人、よく喧嘩をしていたのに」
「ほっほっほ、喧嘩する程仲が良い……という事だったのでしょうなぁ」
クレアやセバスチャンさんが、本邸から離れて結構経つようで、以前と同じ考えかどうかなどははっきりしないらしい。
人は変わるものだからな。
というかアルフレットさんとジェーンさん、よく喧嘩していたのか……レオを見た時、手を繋いで身を寄せ合って仲が良さそうだったので、喧嘩しそうな雰囲気は見えなかったんだけど。
それとあの年齢で結婚って事は、もしかしたら子供はいないのかもしれないな……ランジ村の子供達や、リーザの事もあって子育ての経験に少し期待していたけど……。
「なんにせよ、選んだ人から断られない事を願いますよ。まだ顔合わせ程度なので、誰にするかは決められませんが……」
せっかくエッケンハルトさんが選んでくれて、そこから自分で選んだにも拘らず、断られたら切ない。
「ですが、目星は付けていそうですな?」
「買いかぶりですよ。まぁ、ちょっと気になる人はいますけど。今のところ一番選びそうなのは、チタさんですね」
はっきりと決めたわけじゃないけど、一番気になるのは若い使用人のチタさん。
実は、ヴォルターさんも選ぶかどうかというのとは別の意味で気になるんだけど、それは今セバスチャンさんの前では言わない方が良さそうだ。
「ほぉ……一番若い女性でしたな。ふむふむ……」
「た、タクミさん……?」
「何か、邪推されている気がします。ち、違いますからね?」
「ふむ、何が違うのですかな?」
妙にニヤニヤし始めたセバスチャンさんと、俺を窺うように上目遣いになるクレア。
クレア、目が潤んでいるけど……俺がチタさんを気になると言った理由は、女性だからとか全く関係ないんだけどなぁ。
「はぁ。からかおうとしても駄目ですよ。チタさんが気になる理由は、レオを見た時の反応ですね。最初は他の人と同じく、フェンリル達もいたあの場で圧倒されて驚いたり、怖がって体を震わせていましたけど……」
「あの言葉ですかな?」
「はい。レオにお手をさせたりした時、チタさんだけが他と違って可愛いって呟いたのを聞きました。初めて会った時のライラさんと、反応が似ているのもありますけど、なんとなく気になって。こんな基準で選ぶのはどうかと思うので、今は気になる程度にしています」
「ほっ……」
セバスチャンさんの反応に溜め息を吐き、からかわれないように気を付けつつ気になる理由を話す。
怖がられてばかりのレオ達だったけど、チタさんだけは可愛さをわかってくれそうな気がしたからな……これが選ぶ理由になるといけないだろうけど。
クレアは、わかりやすく胸に手を当ててホッと息を吐いていた。
俺、どちらかというと女性関係は苦手な部類だし、誰彼構わず手を出そうなんて一ミリも考えていないんだけどな……まぁ、態度をはっきりしていない俺も悪いか。
「能力につきましては、それぞれ得手不得手あるのでなんとも言えません。ですが、判断基準はそれぞれですので、それでも良いかと思いますよ? 使用人となれば、主人であるタクミ様の近くにいる事が多いのです。その際、能力以外で合わない部分が多いよりは、気が合う方が良い、と考える事もできますからな」
「だから、お父様の近くにはセバスチャンのように、主人だろうと構わずからかったりする執事がいるのよね……公の場ではちゃんとしているのだけど」
「ははは、それは確かにエッケンハルトさんと気が合いそうだね」
「私は、先代の当主様の頃から仕えておりますからな。仕える主がそれを良しとする方でしたので」
「気が合ったのはお爺様の方だったのね……」
クレアのお爺さんかぁ……確かセバスチャンさんから聞いた話では、自らスラムに乗り出した人だったはず。
よく考えると、実行力とかが伴っているかどうかは別として、ティルラちゃんと似ているのかもしれない……公爵家の血筋かな?
セバスチャンさんから話を聞いた時は、厳格ながらも人を見下さず、約束を守る人という印象を受けたけど、エッケンハルトさんやクレア、ティルラちゃんを見ているとお茶目な人という勝手なイメージになって来ているなぁ。
「何はともあれ、タクミ様が雇う使用人ですから、タクミ様が考えた基準で選ぶのがよろしいかと。もし能力的に不足していた場合や、性格などに不満があればまた別の人物を雇えばよろしいのです」
「一度で、完璧に人員が揃えられると考えない方が良さそうですね……わかりました」
「もし悩む事があれば、私やセバスチャンが相談に乗りますね」
セバスチャンさんが言うのは俺が俺の基準で、使用人を選べ……という事だろう。
できるだけ失敗しない方がいいから、しっかり選ぼうと考えていたけど、少し肩の力を抜いてもいいのかもしれない。
まぁ、そうはいっても不真面目に選んだりはしないけど。
「うん、その時はお願いするよ。クレアは、お勧めな人とかはいるかな?」
「あら、早速の相談ですね。そうですね……私はヴォルターが気になりました」
ちょっとした雑談の代わりに、クレアがお勧めするような人がいるのか聞いてみると、ヴォルターさんの名前が出てきた。
クレアは今でこそ公爵家の別荘、この屋敷にいるけど本邸で生まれ育ったんだし、さっきはほとんどの人の事を知っているような話をしていたからな。
そういえば、以前クレアが見て使用人にする事に決めた人は、本邸にもいるみたいな事をライラさんか誰かが言っていたっけ……。
ヴォルターさんはセバスチャンさんの息子さんだから違うだろうけど、もしかしたら今回来た人の中にも、クレアが判断した人もいるのかもしれない――。
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