ヴォルターさんの事を聞きました
「では、ヴォルター。質問の続きを」
遮ったセバスチャンさん自ら、ヴォルターさんに続きを促す。
「……いえ、申し訳ありません。タクミ様と公爵家の拘わりを聞こうと考えておりましたが、ある程度は疑問が晴れました」
「そうですか。タクミ様の人となりも含めて、拘わりなどはこれから追々わかって行けばよろしいでしょう。この屋敷に滞在していれば、自ずとわかる事です。……他には、質問のある方はいませんか?」
もう一度頭を下げ、ヴォルターさんが質問を取り下げる。
俺と公爵家の拘わりが気になったのか……大体はレオのおかげだけど、かなり親しくさせてもらっているから、直接俺を見て本当なのかどうか疑問に思った、ってとこかな。
こんな冴えない男が公爵家と、なんて思われてなければいいけど……。
「ないようですな。それでは、裏庭に参りましょうか」
「そうですね。……すっかりセバスチャンさんが進行していますけど、助かります。では……」
誰も手を挙げたりしないのを見て、セバスチャンさんが裏庭に行くよう促す。
ヴォルターさんは例外として、他にも訝しく見たりする人がいてもおかしくないと思っていたんだけど、特にそういった人はいないようだ。
使用人としての教育をされているから、表に出さないだけかもな……初めて屋敷に来た時、レオを見て怖がるゲルダさんをライラさんが、表に出さないようにとか叱っていたし。
俺とライラさん、セバスチャンさんが先に客間から出て、その後ろにアルフレットさん達が続いて裏庭へと向かう。
「セバスチャンさん、ヴォルターさんには特に厳しい言い方をする事が多いようですけど」
「お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ありません」
「いえ、それは気にしていないんですけど……」
裏庭へ向かう途中、後ろに聞こえないよう小さな声でセバスチャンさんに話し掛ける。
同僚とか、俺自身が見せしめのように理不尽に上司から怒られる、といった経験もあるし、それと比べると何でもないと思うから謝らなくてもいいんだけどな。
ともあれ、俺が聞きたいのはセバスチャンさんとヴォルターさんの仲だ。
クレアとエッケンハルトさんは、多少の行き違いがあったくらいで基本的には仲がいいけど、セバスチャンさん達は違うのだろうか?
「ヴォルターは、私以上に執事としての資質があると考えております。ですが、書物を読む事を喜びとしていまして……仕事を放り出して、本邸の書庫にこもる事が幾度かありました。今は、年齢を重ねた事もあってか、仕事はきっちりこなすようにはなっているようですが……」
「本の虫、とかそんな感じですかね。真面目に仕事をしないから、厳しく言っているんですね」
「本人が納得している、やりがいを感じる仕事であれば、真剣に取り組むのです。ですがそれだけが仕事というわけではありません」
本がとにかく好きな人、という認識で良さそうだ。
納得している仕事をちゃんとやってくれるのなら、興味のある事以外にはやる気を出せないタイプなのかも。
それでも今ではそれなりに仕事に集中するようになったようだけど、公爵家からいきなり俺に仕えるように言われて、不満に思っているとかありそうだ。
本邸の書庫から離れる事になるし……なんとなく、ヴォルターさんからの視線の理由がわかった気がする。
「書物を読み、知識を蓄える事そのものは良い事です。ですがヴォルターは、そればかりで圧倒的に経験が足りていません。執事の仕事はそつなくこなすのですがな。まったく、誰に似たのか」
「あははは……」
セバスチャンさんが溜め息交じりに言う内容に、苦笑いで返す俺。
見れば、隣を歩くライラさんも声は出さずに苦笑していた。
執事の仕事をそつなくこなして、知識を蓄えるのが好きって、そのままセバスチャンさんにそっくりな気がするんだけど。
まぁ、経験の部分では年齢と共に、様々な事を経験しているセバスチャンさんには敵わないだろうし、執事の仕事をしているだけじゃ幅広い経験は得られない気もする。
特にセバスチャンさんが公爵家に仕えるまでの経験とかは、他では得られない経験でもあるしな……この屋敷にいるのも、いい経験になっていそうだ。
とはいえ、俺が執事として選んだとして、ヴォルターさんが書物以上に興味を持ってくれるような事を、させてあげられるかはわからないな……。
これは、候補として外した方がいいのかも? この屋敷に残れば、本邸程ではなくても書物はありそうだし。
「執事として考えるならば、知識は仕えるべき主人のために役立ててこそです。書物から知識を得て、それだけで満足していては意味がありません。それができるようになれば良いのですが……」
「セバスチャンさんも、父親なりに息子さんの事を考えているんですね」
「ほっほっほ、お恥ずかしい限りです。ですが、ヴォルターは未だその考えに至っていないようで……タクミ様やレオ様との出会いが、良い刺激になればと考えずにいられませんな」
なんだかんだ言って、セバスチャンさんは息子さんの事を大事にしているんだろう。
ちょっとした行き違いはあるにしても、息子さんを立派な執事にしたいと思うのも親心か。
もしかしたら、これもクレアとエッケンハルトさんのリーベルト親子のような、お互い話し合いが足りないというタイプと同じなのかもしれないな。
まぁ、クレア達よりは根が深いというか、素直になれない感じはヴォルターさんからひしひしと伝わって来るけど。
「俺はともかく、レオは刺激にはなるかもしれませんね。それが良い刺激か悪い刺激かは、わかりませんけど……」
シルバーフェンリルだからなぁ……俺からすると、見た目はともかく内面は小さかった時からほとんど変わらないんだけど。
公爵家の人からは特別視され、この世界では最強らしい魔物だ、ヴォルターさんがどう感じるかで何かが変わるかもしれない。
「私からすれば、タクミ様も十分な刺激になると思いますがな? 思わぬ発想や、この世界の常識では計れない方ですから」
「そんな大層な人間じゃないと思うんですけどね……」
あと、セバスチャンは褒めているつもりなんだろうけど、常識がないと言われているみたいで、ちょっとだけ微妙な気分。
生まれ育ったのが別の世界なので、この世界の常識がないのは自分でもわかっているけど。
とにかく、つまらない人だと思われないように頑張ろう……だからって破天荒な事をしたいとは思わないけど。
俺達に連れられていて失礼な事をしないようになのか、黙々と歩いて付いて来る使用人さん達の様子を窺いながら、聞こえないようにセバスチャンさんと話して裏庭へと出た――。
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