話が逸れつつも主要な説明をしました
屋敷に来た人達に、俺が雇った場合などの詳細を伝える中で、クレアが共同で運営するという話には、なぜか皆驚いていた……エッケンハルトさん、そこを説明していなかったのか。
驚きには、俺がクレアを呼び捨てにしている事も含まれているようだったけど。
「旦那様の事です。クレアお嬢様も拘わる事を教えず、驚かせようとしたのでしょう。私やタクミ様だけでなく、全員を驚かせようと考えたのかと」
「ははは、確かにエッケンハルトさんなら考えそうですね……」
溜め息を吐くように言いながら、首を振っているセバスチャンさんに苦笑する。
さすがに教えるのが面倒だった、という事はないだろうけど……エッケンハルトさんなら面白そうだからと、あえて全ての情報を教えずにいるくらいはやりそうだ。
「では、私達はタクミ様だけでなく、クレアお嬢様にもお仕えできると言う事でしょうか?」
「お二人が住む場所は同じですから、そうとも考えられますが……直接お仕えするのはタクミ様です。クレアお嬢様にはこの屋敷の者が仕える事になっています。そして、選ばれなかった者はこの屋敷にて私の下についてもらう事になりますな。この屋敷にはティルラお嬢様が残ります」
まとめ役のアルフレットさんの質問に対し、セバスチャンさんが答えてくれる。
一緒に住んでいるから、俺だけでなくクレアにも仕えるとも言えるんだろうけど、直接雇うのは俺であり、俺が主人であるというのははっきりしておかないといけない事らしい。
俺としては、主人ではなく上司とかくらいに考えていて欲しいんだけど、内情的にはどうであれ、対面的には必要な事なんだとか。
なので、ここに来た人達はクレアに仕えるのではなく、俺かティルラちゃんに仕えるかのどちらか、という事だな。
「わかりました。しかし……クレアお嬢様とティルラお嬢様が別々となると、貴族の分散統治、というわけですか……」
「分散統治……?」
「違うのですか?」
「そのような意図は一切ありません。結果的にそうなっているだけですな。タクミ様、分散統治というのは……」
アルフレットさんから聞き覚えのない言葉を聞いて、首を傾げる。
被支配者、つまり領民を分割して統治する、分割統治というのは歴史か何かで習った記憶はあるけど、分散統治は初めて聞いた。
言葉が少し違うだけかな? と思っていたら、セバスチャンさんの説明によって全く違うものだと判明。
分散統治は、統治する側……この場合は貴族であり公爵家の事だけど、その一族が別々の地域で暮らす事によって、統治する地域を隙間なく治める事だとか。
連絡手段に日数がかかるこの世界では、分散してそれぞれの場所に一族の者を配置する事によって、領主の目が行き届くようにするためらしい。
ただし、一族間の仲が悪かったりすると、領内での民感情が分断されてしまう恐れもあるため、良い事ばかりではないと言われた。
ともあれ、そういった意図はないにしても……それに近い状況になっているのは確かだな。
クレアがこの屋敷にきた時の理由も、本邸から遠いラクトス周辺を見るためらしいし……実際はお見合い話を遠ざけるためだったけど。
「今回はまったくの偶然ですのであまり気にしないように。ではタクミ様」
「はい。えっと……」
逸れた話はここまでにして、次は勤務形態……休みや給金に関してだな。
これに関しては、基本的にこの屋敷でのセバスチャンさん達使用人と同様にしてある。
使用人を雇うこと自体が初めてだし、運営する薬草畑にのみ注力するわけではないから。
まぁ、近くにお手本があるし、本邸からって事は公爵家で働いていたんだから、その時と同じの方がやりやすいだろうと考えてだ。
ただ、使用人さん達の給金が平均よりもかなり高めだったのは、少し驚いた……さすが貴族に仕える職業な事だけはある。
それだけ、責任だったりやる事が多かったりするからだけど。
あと、執事とメイドをまとめる長……執事長とメイド長も決める必要があるけど、これは誰を雇うかを決めてからだな……まぁ、メイド長は反対されなければ、もう決めてある。
他には役割によって給金が多少上下するくらいかな。
「では、私達が雇われた場合、今までと大きく変わる事はないのですか?」
「はい。まぁ、住む事になるのは街ではなく村なので、そういった部分での違いはあると思います。他にも獣人の子供……だけじゃなく、もう一人獣人がいますけど……それは大丈夫ですか?」
アルフレットさんの確認に頷き、リーザの事だけでなくデリアさんの事も伝える。
大丈夫だとは思うけど、一応獣人がいる事は言っておかないとな。
「旦那様より伺っております。確か、リーザ様でしたか……もう一人というのは?」
「ラクトス近くの村で、拾われて育てられていた獣人です。こっちは、もう成人していてリーザに読み書きを教えてもらおうかと」
「他にも獣人が公爵領に……問題ありません。獣人に対して悪感情を抱かないため、根も葉もない噂を信じないように教えられております」
「それは良かった。それじゃあ他には……セバスチャンさん、何かありますか?」
アルフレットさんに続き、他の人達も頷いているのを見て、獣人に対して差別的な考えを持っている人はいないと確認。
本人も意識していない部分だとどうしようもないけど、最低でも表面上は差別したりはしなさそうだ。
他にも言っておかないといけない事があるか、セバスチャンさんに確認する。
「そうですな……シェリーの事は伝わっておりますな?」
「はい。クレアお嬢様と従魔の契約をしたフェンリルとか。本邸の使用人達は、クレアお嬢様が偉業を成し遂げたと皆喜んでおりました」
クレア、本邸の人達からも評判になっていたのか。
まぁ、フェリー達を見ていると野生ってなんだろう? と思う時はあるけど、それでも簡単に人間が敵う相手には見えないからなぁ。
ブレイユ村でフェルと会った時なんて、色々と覚悟したくらいだ。
シェリーはまだ子供とはいえ、それでもフェンリルと従魔契約をしたというのは、それだけで十分に偉業と言えるんだろう――。
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