クレアにも試作スリッパを試してもらいました
「レオ様の吠える声に、リーザちゃんも目を回してしまって……」
「リーザも? あぁ、だから今レオに包まれて休んでいるんだね」
リーザは、激しく吠えるレオに驚いてしまったと……レオの方を見てみると、リーザに鼻先を寄せてスピスピ鼻を鳴らしているから、いきなり吠えてごめんとか謝っているんだろう。
そのリーザは、レオの体に寄っかかって寝ているようだけども。
「ラーレも、レオ様に叱られたんですね……」
「そうよティルラ。従魔契約があるから、ラーレは大抵の事に従うでしょう。でも、それが原因でラーレが叱られる事もあるの」
「はい……ラーレにも謝らないといけません」
ラーレにだって、意思があるのだから従いたくない事には従わないだろう。
けど、今回はティルラちゃんを止めたり、レオや他の誰かに言う事もなくティルラちゃんをスラムに連れて行った……とばっちりみたいな感じではあるけど、止めようとしたら止められたからなぁ。
だから、レオに叱られたんだろうと思う。
「フェンリル達にもね。レオ様が吠えているのに怯えてしまっていたから……ティルラを探すのに協力もしてくれたのだから」
あぁ、だからフェンリル達はお腹を撫でられながら、やけに安らかな顔をしているのか。
レオの吠える姿に怯えた分、お腹を撫でられて和んでいるんだろう。
もしかすると、コッカー達が見当たらないのも、どこか別のところへ避難しているからなのかもしれない。
「はい。……行って来ます、姉様、タクミさん!」
「うん、いってらっしゃい」
「えぇ」
クレアに頷いて、皆に謝りに行くティルラちゃんを送り出す。
まずはラーレに謝りに行くようだ……クレアと並んで、ティルラちゃんの様子を観察。
あ、ラーレに向かって思いっきり頭を下げた、ラーレは翼の先でティルラちゃんの頭を撫で始めた。
レオから叱られた事を気にしていないわけではないけど、ティルラちゃんと一緒に反省する……と言った様子に見える。
「そういえばタクミさん、ハルトンからスリッパの試作と先程言われていましたが」
「あぁ、はい。とりあえず作ってみたスリッパを、見て相談してきました。というか、ハルトンさんに話していたんですね?」
「セバスチャンが、その方が良いだろうと。まぁ、靴ではない物で、布を使った物……という事でしたので、ハルトンが適任かと思いまして。それで、どうでしたか?」
ティルラちゃんがラーレに謝り、今度は一緒にレオの方へ向かうのを見ながら、クレアからスリッパの事を聞かれる。
ハルトンさんに話を持って行ったのは、セバスチャンさんの案だったらしい……まぁ、布物ではあるから、確かに適任なんだろう。
耳が付いているのには驚いたけど、ちゃんと形になっていたからな。
「そうだね……履いてみる? 一応、クレアや他の人からも意見をもらう事になっているんだ」
「そうなのですか? てっきり、タクミさんとハルトンの間で決めたのかと……」
「女性の意見も大事だからね、特に身につける物は。ハルトンさんが置いて行った試作品があるから、一度履いて確かめて欲しいんだ」
「わかりました」
履き心地なども含めて、俺以外の人から意見を聞く事になっているし、ちょうどいいから今試してもらおう。
そう思って、ライラさんが持って来てくれていた試作スリッパの入った袋を受け取り、中身を出す。
あ、でも裏庭だと下が土だし、スリッパが汚れてしまうか……。
考えてみると、スリッパは脱ぎ履きするのが簡単だと言っても、庭に出る時はちょっと不便かもしれない。
スリッパを履いたまま外に出たら、結局汚れてしまうし、いちいち靴に履き替えるのも面倒だ。
ちょっと庭に出るだけの物も欲しいか、サンダルとか? いや、スリッパを外用と中用で分けて使ってもいいのか。
とりあえずこれは、要検討だな……ハルトンさんと相談しよう。
「外で履くのは汚れてしまうから、いったん屋敷の中に入ろうか」
「わかりました。ティルラは……大丈夫そうですね」
クレアを促して、屋敷の中へ戻る。
ティルラちゃんは、ラーレと一緒にリーザを起こさないようにしながら、レオに謝っていた。
多分、気落ちしていたのをレオが察知したんだろう、顔を舐められていたから大丈夫そうだ……ベトベトにならなければいいけど。
ティルラちゃんの事は、ゲルダさんも混ざっていたフェンリルを撫でている使用人さん達がいるので、大丈夫だろう。
「ごめんなさいね、ライラ」
「いえ、これくらいは」
屋敷の中に入ってすぐ、ライラさんに支えられながら靴を脱ぎ始めるクレア。
ブーツだから、椅子に腰かけたり支えがないと脱ぐのも手間がかかるよなぁ……なんて見ていたら。
「……ジッと見られると、少し恥ずかしいです。タクミさん」
「あ、ごめん。そうだった、靴を脱ぐところをずっと見ているのは、ちょっとね」
「言葉にされるのも、それはそれで……」
頬がちょっとだけ赤くなったクレアが、上目遣いで恥ずかしそうに言われた。
普段靴を脱ぐ事が少ないのもあって、そんな場面をジッと見ているのはさすがにデリカシーがなかったな。
視線を外しながら、口に出してさらに咎められたけど……うーん、やっぱり女性に対してスマートにはできないなぁ、俺。
「とりあえず、ライラさん。これをクレアに」
「はい、畏まりました。クレアお嬢様、失礼します」
「えぇ。……軽いですね」
靴を脱ぎ終わったクレアにスリッパを履いてもらうため、ライラさんに一組渡す。
ライラさんがしゃがみ込んで履かせると、何度かその場で足踏みのようにして確かめるクレア。
「布だから、普段履いている靴より軽いね。まぁ、足全体からふくらはぎまで覆うよりは楽だと思うよ」
「確かに、これは楽に動けそうで……あ、脱げてしまいました」
「あははは、履き慣れていないと落ちてしまうね。足にくっ付くようにだったり、紐とかで締め付けないから……」
軽さに感心しているクレアが、何度か足を上げ下げしているうちに、スリッパが足からポロっと落ちて脱げてしまう。
クレアが残念そうに、床に落ちたスリッパを見ながら言うのに笑う。
まぁ、スリッパって油断するとそうなるし、運動には向いていないしな――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します







