表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

火星開発 PLANT-0

作者: 津辻真咲


ここは火星。西暦が一万年を超えた夏……。

人類は、火星開発を進めていた。七十年前に出会った、同じ天の川銀河の宇宙生命体たちと共に。

そして、今、火星のドーム型都市では、火星特有の酸素気団で地上に風が吹く。



赤井仁美あかい ひとみは空中庭園から、赤い大地を見下ろしていた。

――赤だ。

そして、少し微笑んだ。

この時代、日本人は、進化をし、黒から茶、そして赤色へと髪と虹彩の色を変化させた。

ここは、火星唯一の一般開放されている、植物プラント。人類の背より高い植物も多々、存在している。よって、上下左右全て緑色だ。

仁美の後方で、自動ドアが開いた。

「植物好きなのですか? もう閉園の時刻を過ぎていますよ」

宇宙生命体の青年が入って来た。彼は、ルーン=カーディ。植物学の学者だ。

「あ、すみません」

彼は、この空中庭園の管理をしている。特殊メガネとイヤホン姿が特徴的だ。

「あの」

「何か?」

彼はきょとんとする。

「大変ですか? 人類の可視光線の範囲に合わせてメガネかけるのって」

「いいえ、まったく」

彼は、きっぱりと答えた。

「そうですか」

「でも、……」

ルーンは少し躊躇って言う。

「人類が青色に見える時、私たちは、赤色に見えるので、火星にいながら地球の赤い夕焼けが見えると思うと、少し興味深い」

彼は微笑んだ。

「もしかして、地球に行ったことが?」

仁美は尋ねる。

「ないです」

彼はそう答える。そして。

「それより、もう閉園です」

「あ、そうですね……」



火星学園高等学校進学コースの教室。

「わぁ。酸素気団があんなに近くに」

「見せて見せて」

「綺麗な青」

生徒がざわつく。

――放課後、あの酸素気団まで、フリー・ランニングしちゃおうかな。

火星は、重力が地球の三分の一である。よって、フリー・ランニングに適している。

仁美は笑顔で窓の外を見つめた。



放課後。

「わぁ」

――すごく高いところまで来ちゃったな。

――あのブルー・タワーがあんなにきれいに見える!

ブルー・タワーは、火星開発のシンボルとして建設された。

――ん?

仁美は何かに気付く。

「あ!」

――あんな所に科学者さんがいる!

――今度は麦の検査かな?

「よし、行こう!」

彼女はフリー・ランニングで降りて行く。しかし、着地に失敗。麦畑に着地してしまった。

――しまった!

「何やっているんですか!」

ルーンは怒った。

「あ、その……」

「ここの麦に何かあったら、どうするつもりだったんですか! ここは、今火星にいる人類と私たち、皆の食料をまかなっているんですよ!」

次の瞬間、ルーンは、はっと我に返った。

「すみませんでした。麦を倒した分の金額は、バイトしますので」

「えぇ、頼みます」

仁美はそう言うと、去って行った。

――人類など、好きではない。

――両親も、同じく。

ルーンは下を向いていた。



一時間後。研究室。

――しまった、言い過ぎたかな。学生に。

ルーンは片手で頭を押さえていた。

「ルーン」

「何ですか?」

同僚の声に振り返る。

「地球にいる君の祖父から電報だ」

「ありがとう」

ルーンはそれを受け取った。

――私宛てに一体、何だろう。

『お前の父が息を引き取りました。 祖父より』

――地球に行ったまま?

「……」

――詳細が書いてない。なぜ死んだ!?

ルーンは席を立ち、走り出す。

「主任?」

同僚はきょとんとしていた。そして、窓の外を見る。

「雨だ」



ルーンは雨の中を走って行く。

「どうして今になって」

――地球への連絡部署は、確か……向こう。

「科学者さんですか?」

ルーンは立ち止まる。そして、声のする方を見た。そこには仁美の姿があった。

「どうされたのですか? 今日は、午後からずっと雨ですが」

仁美が心配そうに尋ねる。

「え」

――そうか、地下の氷を溶かし始めたんだった。

火星は、地球と比べて太陽から遠い分、惑星全体の温度が低い。よって火星では、これからの本格的な火星開発の為、惑星全体の温度を上げようと地下の氷を溶かして、氷中の二酸化炭素を火星中に行きわたらせようとしていた。

「先ほどは、すみません。怒鳴ってしまい」

ルーンは謝った。

「私もすみませんでした」

仁美は頭を下げた。すると。

「実は、人類が嫌いで……」

ルーンは胸のつかえを話した。

「父親は、地球に行ったきりだったので」

「私もですよ」

仁美は微笑んだ。

「寂しい事、少しぐらいなら。実は、祖父の代から火星で暮らしているんです。祖父は、火星開発の技術者だったので。だから、私、人類なのに地球の事は資料でしか見た事なくて」

彼女は苦笑した。

「あ、すみません。私の視野が狭かったのですね」

ルーンは申し訳なさそうにした。

「あ、えっと、そんな事は……」

ルーンは眼鏡を外した。

「今度こそ、地球へ行くべきですね」

彼は夕日を見て立ち尽くした。

――赤い夕日、見えるのが羨ましいな。

仁美は青い夕日を隣で見ていた。


雨は、君へと拍手を送る。傘を差して意思表示をすれば……。

その後、雨は降り続け、二酸化炭素は火星を覆い、温室効果で火星を地球並みに温めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ