第7話 ネムネム・力と親友
「ここどこ?なんか変な奴らに連れてこられて…。」
「うわ⁉︎なんか1日たってんじゃん!」
それから少しして、感情を吸い取られていた人々は起き上がり始めた。皆、不気味な笑顔はなく、普段通りだった。あの仮面を被った3人組も操られていたようだった。
サイコはマナミの近くにいた。すると、マナミもやっと起きたようだ。
「……ここは…そうだ、私、よく分からない人達に会って…。」
マナミはサイコの方を見た。
「…サイコ君が助けてくれたの…?」
「……はい…まぁ。」
「スゴイね…さすが超能力者……、」
その時、マナミは自分が何故捕まったのか思い出した。そう、自分がサイコの能力を人に話したがったせいである。
「……私、サイコ君の事も考えずに悩んで…勝手に捕まって…助けてもらって…。」
「マナミさんは悪くないよ。悪いのは……僕なんだ。僕が変に喋ったから。」
サイコはうつむき暗い顔をした。
「私、昔はただ超能力に憧れて…友達になりたい、使ってみたいって思ってただけなのに。いつの間にか超能力研究部なんか作って……超能力者を暴こうなんてして……」
マナミは目に涙をためていた。サイコはマナミをみた。自分のせいで人が泣いている。いつ以来であろうか。
「……マナミさん、ありがとう。初めて超能力の事を話して…友達になりたいって言われた。とても嬉しかった。でも……」
サイコはマナミに手を向けた。
「僕が高望みしたせいでマナミさんを苦しませた。もう、マナミさんは僕と関わらない方がいいんだ…。」
サイコがそう言うと、手から眩しい光が放たれた。その瞬間、マナミの頭からサイコの超能力の記憶が消えていった。
「……これも…良い事……。」
日が暮れ始め、空がオレンジ色になり始めた。ネムネムに囚われていた人々が廃ビルから出てきた。途中、サイコも沈んだ顔をしながら中から出てきた。
「よおサイコ、さすがだな。本当にお前1人で解決しちまうとは。」
佐久間は明るく声をかけサイコによっていった。しかし、サイコの暗い顔をみて、何かあった事は察した。
「…どうしたサイコ、なんかあったのか?」
「……僕は全然ダメな奴です…。僕のせいで人が苦しんでいたのに…何もできなかった…。」
サイコの顔に涙が流れ出した。
「全員助けたんじゃないのか?」
「僕は……記憶を消す事しか解決できない…。僕は“無力”で無能な奴です……。」
佐久間はよくわからなかったが、サイコが悔やんでいる。その事はわかった。
「なあサイコ、なんの記憶を消したのかとか、何を考えてそうしたのかは分からんが……」
佐久間はサイコの顔を掴むと自分の方に顔を向かせた。佐久間はゆっくりと笑顔を見せた。
「人を思いやった行動に、良いも悪いもない。記憶を消したのがお前の考えた末の最善策なんだろ。じゃあ間違ってなんかねえよ。」
「でも、僕は何も償えなかった…。ただ、自分に都合がいいように書き換えただけだ…。」
「自分のためとかだったら、そんな悲しい顔なんかしねえよ。サイコ、お前の事はよく知ってる。どんだけ優しい奴かって事も。お前が泣いてんのは……悔しいからだろ。」
サイコは今、自分がどうして泣いているのかに気づいた。
「明日はまた学校だろ。今のうちに全部吐き出しておけよ。」
その言葉が放たれた時、サイコの何か抑えていた物が崩れた。サイコは大声で泣きだし、佐久間に抱きついた。
「……僕はただ!友達が欲しいだけなのに!なんで…なんで記憶を消さないといけないんだ!初めてだったのに!マナミさんが……初めて打ち明けられた人なのに!」
サイコは超能力を隠しながら生活してきた。親友、そんな言葉はサイコにはなかった。友達といえど、全てを打ち明けられないサイコには、どこかで見えない壁を作っていたのだ。
「初めて……親友ができると思ったのに…!」
佐久間は優しく、サイコが泣き終わる事を待つしかできなかった。
サイコの泣き叫ぶ声は、夕暮れの中、大きく響いていた。