付添看護の朝
父親の突然の入院から2日後、病院に向かうとやはりというか案の定というべきか。彼女は付添看護用の部屋で寝泊まりをしていたようだ。1か月に1件あるかどうかということらしいが、こうやって泊りがけの看護をするための人もいるらしく、それ専用の部屋が確保されているらしい。ちなみに、誰もいなければ、宿直室として使っているそうだ。今回は彼女だけが使っているらしい。ということを、集中治療室そばにある看護師詰所で聞いた。
「着替え、持ってきたぞ」
部屋の中に4つあるベッドのドアから遠いところの一つを使っているようだ。彼女はもう起きていて、ベッドに腰かけていた。服は着の身着のまま来た時と変わらない。ヨレヨレとなっているからこそ、自分は着替えと多少の食事と、気晴らしになるかと思って1階にあるコンビニで買ってきた本を持ってきた。
「お父さんは、どういう状況なんだ」
「意識は戻ったよ、ありがたいことに。お医者さんが言うには、気づくのが早かったから何とかなったんだって。ただ、いつ再発するかわからないし、もしかしたら、次は……」
どんどんと思考迷路にはまっているのが見ても十分わかる。悪い方悪い方へと考えが向かっているようだ。それはいけない。止めないと。
「ほれ」
着替えの服を頭にかぶせる。わっと驚いた彼女ではあるが、すぐにきょとんとした顔をして自分を見てきた。バサバサと服が彼女の頭を頂点とした円錐状に落ちていく。
「考えは悪いほうに向かわすんじゃない。良いほうに向かわすんだ。お父さんが助かってよかった、薬が効いてよかったてな。考えの方向は人の方向を決め、人の方向は現実の方向を決める。てな」
その言葉はどこかの本の受け売りではあるが、彼女にはよく響いたようだ。俯き、泣き出しそうになる彼女、慌てる自分がいるが、平静を装う。そこに看護師がお父さんの面会時間が来たと知らせてきて、服まみれで泣いている彼女、ぱっと見冷静の自分、あらあら、と言ってそのままどこかへドアを通って戻ろうとするから、思わず違うんだ、何もしていないと叫んでいた。