中間報告
さらに1か月。いろいろと調べた結果を上司に報告するために、再び本社ビルにきていた。報告書は家で仕上げていて会社で印刷したものだ。それを上司になる課長へと提出しつつ、口頭でも簡単に報告する。
「彼女、長咲さんはやはり何らかの、現在科学で説明することができない力をもっています。とくに、心臓の動きを未来予知し、それにより生死を占いと称して教示し、保険金の一部を生活費や親への仕送りと使っているようです」
「裏は取れてるんだろうね」
課長は自分の報告書を一ページ目から丹念にめくって確認しつつ、自分に質問してきた。警察時代の癖なのか、
「彼女からの自主申請ではありますが、通帳を確認させていただきました。手野銀行がメインバンクになっているようです。父親は59歳、一人暮らし、手野商社で部長をしています。昔は海外を飛び回っていたようですが、今は本社勤めをしているようです。本人とは、1週目に会ってきました。奥様はすでに他界。その死後、彼女に能力が目覚めたそうです。現在占った相手は43名、うち40名が死亡。それらについては手野保険において保険がかけられたものでした。なお、全員が最終的に心不全、あるいは心臓疾患によって死亡しています。ここから推定されるのが、心臓の停止、あるいは静止を感知する能力ということでした。ただし、彼女はやはり死ぬ瞬間を把握する能力だと疑っていませんが」
「ふぅむ。しかし、それは今回の問題ではないだろう。今回付けた条件についてはどうだ」
課長は報告書を最後まで目を通し、パサンとすぐそばの決裁済みの5㎝ほどの高さの段ボール箱へと入れた。そしてじっとこちらを見て聞いている。
「全て飲んでいただきました。現在、問題なく履行していただいています。同居生活も残り1か月となりましたが、もうまもなく検査をしていただく予定です。内容としましては人間ドックの1泊2日で行うものを想定しており、そのための費用負担は定額で行っていただきます。またオプションは全てつける見込みで、こちらについては全額を当社が負担する計画になっています」
「仕方がないだろう。多少の経費は」
それはあきらめざるを得ない支出、というのが課長がその後、よく言うセリフだ。了承したときのセリフで、今回もそれを言ってくれた。
「では、了承をしていただけたということで。書類については次回に提出します。本日の報告は以上です」
「よろしい、今後も彼女との生活を楽しんでくれ。本日はこれでいい。これから何か食いに行くか?」
課長のおごりなら、という言葉が喉元まで出たがグッとこらえる。かわりに、いいですね、と言おうとしたとき、自分の携帯のバイブ機能が息を吹き返した。
「失礼します」
スマートフォンの画面を見ると、長咲からだ。何かあったに違いないと考え、慌てて出る。
「どうした」
パニックになっている彼女の声が、ぼんやりとした空間の中に響き渡っている。
「あの、あの、お父さんが、お父さんがっ」
少し遠くで救急車の音が響いてくる。たしか手野商社の本社ビルは、近くにあるはずだ。駅周辺ではないが、歩いても10分かからなかった記憶がある。
「君の父上がどうしたんだ」
「お父さんが、倒れたってっ」
課長に彼女と電話をしつつ伝えると、すぐに行けとジェスチャーで合図をされる。頭を軽く下げ、自分のデスクの荷物置きにおいていたカバンをひったくるようにとって、大慌てで職場を後にした。