合流
公民館から出るとすぐに長咲はコッソリと合流した。
「どこ行ってたんだ」
どうせここには戻らないつもりではあるが、万が一ということがある。一応は彼女からの話も聞いておきたかった。ただ、彼女はバツの悪そうな顔をしている。居場所がない、といったところか。
「えへへ……」
照れたような、何とも言えない笑いをしている間にも、公民館そばにあるバス停へと向かう。腕時計を見ると、あと10分ほどで最終が出るはずだ。歩いても2分かからないところにあるが、もう少し時間がかかりそうだ。彼女に合わせてゆっくりと歩く。
「死司の力が分かってから、ずっとこんな生活なの。もう慣れっこよ」
おそらくは、あんなふうに罵詈雑言が浴びせられることが多くあったのだろう。彼女はその年齢よりも大人びて見える。あきらめ、といってもいいような感情が、きっと彼女の中にあるのだろう。
「そんなことはない」
ふと、空を眺めて自分は彼女に語り掛ける。少しばかり星が見えだしたころで、宵の明星のようなひときわ明るい星がきれいに輝いている。
「それはあきらめだ、自分に能力があるなら、それを生かさない道はない。だろ?」
柄にもない、ということは自分が一番わかっている。それでも彼女が元気になるなら、ということもあって、思わず口から出ていた。それが彼女にどう伝わったのかわからない。元気になったのか、といわれたらさほど変わっていないように見える。
「……宮藤さんがそういうなら、少しは頑張ってみようかな」
きっと残された人生は60日くらいだ。まだ信じてはいないが、こうやって本当にその日に死んだ人を目の前にすると、確かにそうなんだろうという気持ちがする。
「今を生きるのは、未来の歴史の証人になるってことだからな。だから今を生きて未来につなげるんだ」
バス停の角までやってきた。ちょうど向こうからテカテカと眩しいライトが迫ってくる。そろそろバスの時間がやってきた。
「行こうか」
彼女の答えは、どうせ決まっている。
「家に帰るのなら、乗らないとね」
未来は、決まっている。そう思えていた。