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101日目の奇跡  作者: 尚文産商堂


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20/20

カクテル言葉

 告白を受け、彼女は当然うなづいた。そういうことで、自分たちは付き合いだしたというわけだ。


 月日は流れ、彼女が退院した翌日。当日行きたかったものの、後片付けがいろいろとあったおかげで行くことができなかった。

 カウベルを使ったドアベルがカランカランと鳴る。

「いらっしゃいませ」

 いつもの声、いつもの場所。そしていつもの彼女。今日は自分は仕事上がりで合流するということになっていて、彼女が一足先にバーに座っていた。

「待ってたよ」

 ハタン、とドアが閉まる。大学の授業は先に終わり、自分の仕事が後で終わることぐらいはだれにでもわかる。だからこういうことになることは分かり切っていた。

「ショートグラスに、アイオープナーかな?」

 黄金色をしたのは、卵黄のおかげ。ほかにはラムやリキュール、砂糖などを使うことまでは知っている。そんな様々なものをシェークしたうえで作られているカクテルだ。もっとも、自分は砂糖は無しか、あったとしても少なめがいい。

 いつもの席に座り、いつものジントニックを飲み、少し語らい。それから2杯目として、今回はハイライフというのを頼む。パイナップルの酸味がさわやかで、自分は好きだ。

「今日のお仕事はどうだったの?」

「順調さ。君と出会う前に戻ったというところかな」

 ところで、と続けて聞く。

「アルコール摂取の許可は、医者からもらっているんだろうな」

 スイッとアイオープナーを飲むと、するすると飲み込んだ。どうやら許可はもらっていないようだ。ただ、それに気づいても自分は何も言わない。言ったところで手遅れだ。飲み切るのを見ると、間髪入れずに自分はマスターへと注文を入れる。

「マスター、彼女にラモス・ジン・フィズを」

「かしこまりました」

 そして、作るマスターを見ながら、彼女へと話しかける。

「カクテル言葉、っていうのを知ってるか」

「花言葉なら知ってるわよ」

 そちらは有名だろう。

「花言葉は、花に意味を付けただろ。カクテル言葉は、カクテルに同じように意味を付けた者なんだと」

 まさか、新入社員のころ、当時の上司に連れていかれた居酒屋での知識が、こんな時に役に立つとは思いもしなかった。だが、ここでは誰も他に邪魔をする人はいない。思う存分言えるだろう。

「例えばさ、ジントニックには強い意思、ドライマティーニには知的な愛、クローバークラブなら約束って言った具合にな」

「じゃあ、今回、宮藤さんが頼んだこのカクテルは?」

 同時に、マスターが頼んだものを彼女の前へと美しい所作でカクテルグラスを差し出した。

「お待たせいたしました。ラモスジンフィズでございます」

「意味はな」

 彼女が少しためらって手に取るグラスを見ると、少し目線が交わる。そこで自分が飲んでいたロンググラスをちょっとだけ掲げ、乾杯の意味を表す。

「『感謝』だよ」

 それから自分らは同時に一口、出会いに、会話に、そしてこれからに感謝をささげて酌んだ。

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