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101日目の奇跡  作者: 尚文産商堂


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13/20

当日の朝

 そしてあっという間に当日。部屋で寂しく起きる。ピピピとなる時計を止めると、彼女がふと来ないな、と思ってしまう。そういえば、今日は病院にいるんだ、と思い出した時には電話が来ていないかと、携帯をバッと取り上げる。枕元にある携帯には、まだ着信は来ていない。彼女が危篤になると、あるいは死亡宣言があるとすぐに連絡が来るように、病院に第一連絡先として伝えていた。

「まだ、大丈夫そうだな」

 といっても、今日一日は何の用事も入れていない。朝食もいつもは手作りなのに、今日に限っては冷蔵庫に入れっぱなしのチーズと、コンビニで買ってきた食パンだ。今は、食べるほうが優先だ。とにかく、いつ連絡があっても動けるようにはしておきたい。


 しかし、朝からずっと緊張しっぱなし、というのは体に毒だ。テレビをつけつつ、まったりと時間を過ごす。今日だけは家事も何もしない。皿は食器棚にしまい、食パンの6枚切りが入っていた袋はゴミ箱へ。中身はチーズともども全部食べた。

 10時が過ぎ、もうすぐ10時半となるころ、電話が鳴る。

「はいっ」

 携帯はちゃぶ台の上に充電しつつ置いておいた。そのため、すぐに取ることができた。連絡先をちらっと見ると病院から。ついに恐れていたことが起きた。彼女の予言通りに、ことが起きようとしていた。

「手野中央総合病院です。実は……」

「長咲栄子について、ですね」

「そうです、至急、来ていただけますか」

 ある意味で、この連絡を心待ちにしていたといえよう。心臓がどうにかなるという予想が正しかったのか、彼女が言っていた予言が正しいのかどうか、そして保険金を支払う必要があるのかどうか。これらすべての疑問が一気に解消するための電話が、ついにきたのだ。人の死ぬことを喜ぶことが極めて不謹慎だということは分かっている。だが、今の自分には、それが一番うれしいことだった。とうとう疑問に答えが出るのだ。これほどうれしいことはないだろう。

「分かりました、すぐに向かいます」

 言いつつも、テレビを消し、バッテリーや必要書類一式を詰めておいたカバンを持ち、自分は今日はスーツではなく私服で病院へと向かうことにした。


 病院へはタクシーを使うことにする。タクシーの運転手ほど道を熟知している人はいないからだ。駅前まで下宿先から出るのは多少時間がかかる。できるだけ下宿の近くでタクシーを拾いたい。大通りに出ると、すぐに捕まえることができた。

「お客さん、どこまで?」

 タクシーに乗り込みながら運転手が聞く。

「これで、手野中央総合病院まで。できるだけ早く」

「はい、わかりました」

 5000円札を見せると、眼の色が変わるのが分かる。少なくとも、この運転手への効果は絶大だった。運転手は裏道を確かに熟知していた。救急ですか、と聞かれたので、いえ入院中です。と答えると、今回は正面玄関の真正面にあるバス停へと止めてくれた。ちょうどバスがいないこともあって、停めれたのだろう。料金先払いで、釣りはいらん、と言いおいてカバンを持って病院の中へ駆け込んだ。

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