表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101日目の奇跡  作者: 尚文産商堂


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/20

ミント

 その日の夜、お父さんが入院してから初めて彼女は病院の外へ出た。どこかへ行こう、と自分が誘ったからだ。ただ、自分は今どきの、それも女子大学生が行くようなところは分からない。一応のところ、百貨店巡りをして時間をつぶし、喫茶店で時間をつぶし、そして晩御飯のあと、いつものバーへと向かった。

「いらっしゃいませ」

 カランカランとカウベルが鳴ると、いつものようにマスターがいた。今日も、自分ら以外の客はいない。果たして、他の常連がいるのかどうかを考えたくなるが、それについては聞かないほうがよさそうだ。いつものように、自分にはロンググラスのジントニックが差し出される。それと並行して、彼女の注文をうかがっていた。

「では、モヒートを」

「かしこまりました」

 男に二言目は不要、といったハードボイルドな雰囲気だ。少し、いつもと違うような感覚が、バーの中に張りつめている。それはきっと、いままで自分は一人で来ていたのに、今日に限って彼女を連れてきたからだろう。ロンググラスに、最後にミントの葉をさし、彼女へと差し出される。

「今回は、さわやかな香りが際立つよう、ペパーミントにしてみました」

「ありがとう」

 彼女はにこやかに受け取り、一口飲み、ほっとしたような表情を浮かべる。彼女にとって安心できる味、ということだったのだろう。ちょうどよかった、と思って安心している自分がいた。


 少し話、それから次の注文をする。彼女はインペリアルフィズと呼ばれるカクテルを注文した。よく知っているな、とは思うが、彼女も様々な人と出会っているうちに身に着けたのだろう。ちなみに、砂糖は角砂糖1つ分と付け足していた。自分はバカルディを頼む。ピンクダイキリのうち、バカルディ社のラムを使ったもののカクテルの名前がバカルディなのだ。


 夜も更け、バーもそろそろ店じまいになる。3杯目を飲み切ると、お勘定を済ませて店を出る。少し酔っちゃった、というように彼女の顔にはわずかに紅がさし。夜の街を歩く自分と彼女は、どう見ても男と女の関係に見えるだろう。足元がふらつく、ただ歩けないほどではない。わずかとは言わないが、少し灰ったアルコールは、理性という鎧を溶かしていく。ただその下には見せてはいけない本能がある。それを覆いつくすようにして、夜の街にさんざんきらびやかな光が満ち溢れていた。

「こう見ると、きれいね」

 景色が、ということだろう。

「景色はいつもこんな感じだったぞ」

「じゃあ、宮藤さんがいるからかな」

 ドキンとする。ここまで近くになった女性はいなかった。

「帰るか」

「ね」

 このままいてはいけない、理性が警鐘を鳴らし続けている。本能は理性の鎧を内側から突き破らんとしているが、どうにか抑え込めている。つまりは、このまま何事もなく家に帰り、朝を迎えることができたということだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ