9.親友の二人
本番まで残り二日となった日の放課後、僕は蓮を呼び出していた。
「悪かったな、公星。いきなり怒鳴って」
少し俯きながら近づいて来る蓮が言った。
「いや、それは別にいいんだけど……それより劇の練習は?」
心配して聞いた僕から視線をずらし、蓮は吐き捨てるように言った。
「もうどうでもいいよ。劇とか。たかが文化祭だろ……」
言葉とは裏腹に蓮は少し唇を噛み締めているのを見逃さなかった。
「本当にそうなら僕は何も言わないよ。けどもし頑張りたいなら手伝うから。その……親友……だから」
唖然とする蓮を見て照れ臭くなった僕は、それだけと声を掛けその場を逃げるように後にした。
家に帰りメールでその事をなっちゃんと夏澄にメールをすると、夏澄からは、
『姫華ちゃんも謝ってたんだけど、劇の練習はもうどうでもいい。たかが文化祭だし……って俯きながら言ってた。多分だけど本心じゃないと思う』
と返信が来た。
引き続き姫華のことよろしく、と夏澄に送り布団に潜った。
公星が眠りについた日付を少し回った頃。
真っ暗闇の部屋に光と共に一通のメールが届いた。
翌日の放課後、約束の公園で僕は人を待っていた。
「悪い、遅くなった。クラスに迷惑かけられねぇし、練習付き合ってくれるか?」
そう言った声の主に僕は答える。
「当たり前でしょ。じゃあ早速始めようか」
練習が始まってからわずか十分後、
「公星、まだ少しぎこちないけど俺らが始めた頃よりは演技全然上手くねーか?」
蓮は少し嫉妬したように言って、このやろーと肘で胸を突いてくる。
バサっ。
蓮は悪い、と落ちた公星の台本を手に取ろうとする。そこには色ペンでびっしりと書かれ、使い込まれたようにヨレヨレとなっている台本があった。
「今日朝早く目が覚めたからちょっと練習したからね……もうっ、いいから早く続きやろう」
照れくさそうに言う僕に蓮は一言、
「ありがとう」
そう言って練習を再開した。
練習を終えた頃には蓮は概ね大丈夫というところだった。
関係のないはずの僕もジュリエット役はかなり上達していた。
そんな練習を終えた帰り道のこと。
「あ、そういえば蓮、今年はミスターすみ高とミスすみ高を決めるらしいけど知ってた?」
「ああ、そんなんがあるってポスター見たな。確かその称号貰えた人には後夜祭で一緒に踊れる人を指名出来るってやつだろ? そんなことしたら告白同然なのにな」
笑いながら他人事のように蓮は言った。
「その様子だと蓮知らないんだろうけど、蓮はエントリーされてたよ。ついでに言うけど蓮人気あるからもしかしたら優勝できるかも」
僕の言葉で蓮は凍りついたように固まる。
「え……俺エントリーされてんの? マジ?立候補なんてした覚えないぜ?」
「他薦らしいから身に覚えはないだろうね。まぁ優勝した時の為に指名したい人決めといたら?」
決まってるだろうけど、と最後までは言わなかった。
目の前に広がる夕焼けのように顔が少し赤くなる蓮に明日頑張ろうと声を掛け別れた。