47.夏祭り
ピーンポーン
家のチャイムがゆっくりと鳴る。
はいはい。
ドアを開けるとピンクを基調にし、沢山のオレンジ色の花柄がついた浴衣が目に入る。
「こうくん遅いよ!」
なっちゃんは頬を膨らまして立っている。
「ごめんごめん。浴衣なんてこういう時しか着ないから手間取ってさ」
「そうだけどさー、女の子を待たせるって……」
なっちゃんは僕に聞こえないくらいの声で何かを呟いている。多分文句だろう……
「今年は去年の水玉模様の浴衣じゃないんだね。去年のも良かったけど今年の方が似合ってると思うし僕は好きかな」
なっちゃんは鳩が豆鉄砲を食ったかのように目を真ん丸にしていた。
「あ、ありがとう……さぁ、行こっ!」
元気を取り戻した様子のなっちゃんに連れられて、会場の栗の木公園へと向かう。
開始は十八時からなのに、三十分前から大勢の人で溢れかえっている。
「おーい公星、蓮希。こっちこっち」
入り口近くの金券売り場の前で蓮が手を振りながら手招きしている。
すでに三人共集合していたようだ。
「公星達遅いから先に金券買っちゃった。はい、これ公星と蓮希の分ね」
そう言う姫華から金券を受け取り代金を渡す。
「それにしても凄い人ね。先に金券買っといて正解だったわ」
夏澄は金券売り場の長蛇の列を眺めながらしみじみと呟いている。
「そうだ、喉乾いたし近くのスーパーに飲み物買いに行こうぜ」
そう言って蓮はスーパーへと歩き出す。
「えー私ラムネ飲みたいー。ビー玉入ったやつー」
そう言って駄々をこねながらもなっちゃんはついてくる。
「そう言えば蓮希、今回赤点無しだったんだろ? ラムネくらい後で奢ってやるよ」
「レンレンそれ本当? やったー」
「って公星が言ってたぞ」
おいっ……とツッコミを入れようかと思ったが、目を輝かせてこちらを見つめるなっちゃんを見ると、とてもじゃないが否定出来なかった。
「も、もちろんだよ」
まぁ初めて赤点を回避したんだ。それくらいは良いだろう。
「やったー、こうくんありがとうー」
「ちょっ、抱きつかないでよ」
抱きついてくるなっちゃんを強引に引き離す。
なっちゃんを除く僕達四人は各々ジュースを買うと、再びみんなで会場へと歩き出す。
どうやら夏祭りが開始したようで、先程よりも多くの人と熱気に包まれていた。
「さてと、みんな何から回りたいんだ?」
「私お腹すいたー! たこ焼き食べたい!」
なぅちゃんは、はいはーいと言わんばかりに手を挙げて答える。
「蓮希は食べ物な。姫華は?」
「私は金魚すくいとかしたいな。今そんなにお腹空いてないし……」
少し控えめに姫華は答えている。
「じゃあ二つに分かれようか。僕もちょっとお腹空いたしなっちゃんと回るよ。花火大会開始の二十一時にここ集合でいい?」
僕がそう言うと、
「じゃあ二十時半にここに集合な。俺穴場知ってるからさ、なっ公星。あ、夏澄ちゃんはどっちに行く?」
蓮が言う穴場とは、去年蓮が偶然見つけた草むらを抜けた先にある少し小高い丘のところのことだろう。
「じゃあ私もお腹空いちゃったから蓮希ちゃんの方について行くよ」
「オッケー、じゃあ二十時半集合な。忘れんなよ」
蓮と姫華と別れて三人でたこ焼きの屋台へと向かう。
「たこ焼きーたこ焼きー」
と楽しそうに連呼するなっちゃんを僕と夏澄は眺めながら後ろをついていく。
「夏澄は行きたいところないの?」
「私はあの恋結びの御守りが欲しいなぁ」
夏澄の言う恋結びの御守りとは、栗の木公園に隣接する神社にある御守りで、毎年限定百組が貰える物のことだ。
「へー去年はまだこっちに来てなかったのによく知ってるね」
「あー、青木くんが教えてくれたんだ。意中の人と二人で行くと効果倍増らしいんだけどね」
「じゃあ行ってきなよ。時間確か二十時だっけ?」
「え、でも……」
「集合時間なら僕がなんとかしとくからさ」
少しだけ夏澄は俯いて考えていた。
「まぁ考えとくね!もし行くって決めたらお願いね」
そう言って再び笑顔が咲く。
「ちょっとー二人共遅いー! はやくはやくー」
なっちゃんに急かされ二人で顔を見合わせて急いで向かう。
「今行くよ」




