41.夏澄との待ち時間
トロッコアドベンチャー〜最高のお宝を求めて〜
看板にはそう書かれている。
「これ乗りたい!」
「僕に言わなくても乗ったらいいんだって」
軽く笑みを浮かべて夏澄に告げる。
「そっか、じゃあ一緒に並ぼ!」
「え?僕乗らないよ?こんなの無理だし」
「分かってるって!一緒に並ぶだけでいいからさー」
僕の腕を引き最後尾につく。
「待ち時間暇だしさ、並ぶくらいいいでしょ?公星だって待ってるだけだし」
その言葉に返す言葉は見つからない。
「わ、分かったからさ、もう少しだけ離れてくれないかな?」
少し肘に嬉しい……じゃなくてぷにっとした感触がある。
「ありがとうー」
そう言って更に感触が増す。
「……っ」
声にならない声が出る。顔から火が出る。
「公星照れてるのー?」
そう言って伏せた顔を覗こうとしてくる。
「いや、だって当たってるから……」
そう言うと夏澄からも煙が出てくるようだった。
「……公星のエッチ……」
二人共茹でだこの様になり会話が止まる。
ピロリンッ。
公星の携帯が鳴る。
「差出人 蓮希
件名 残念
遊園地楽しみにしてたら寝れなくて補習に遅れて反省文まで追加させられちゃったじゃない。今からじゃ間に合わないし。お土産買ってこないと許さないから(怒泣)」
「蓮希ちゃんから?」
「うん、これ来るまで完璧に忘れてた。楽しみで寝られなかったって。子供かよ」
「あはは、蓮希ちゃんらしいっちゃらしいね」
「しかも勉強手伝ってやったのにお土産買ってこいとか許さないとか意味わからないよ」
「まぁまぁ、それくらい許してあげてよ」
夏澄の頼みに免じて許してあげよう。
そう心で呟く。
「もうちょっとで説明受けるところまで行きそうだけど僕っていつ抜ければいいんだろ?」
「そんなの出口まで係の人に連れて貰えばいいんだから乗る時でしょ」
「そうだね」
僕みたいに抜ける人っているのかな?
とふと疑問が湧いた。
「それより公星今まで遊園地ってやっぱりあんまり来なかった?」
「まあ乗れないからほとんど来なかったと思うよ。記憶であるのは二、三回かな?」
「そーなんだ、誰と行ったの?」
「一回は蓮希と。散々振り回されてもうそれはそれは大変な日だったよ」
思い出しただけでも胃が逆流しそうだ。
「もう一回は学校の行事で行ったよ。中学の時に」
「えーいいなぁ、中学でそんなのあるのね」
「良くないよ。グループで行くんだけど知らない人ばっかりでさ、乗れないから休もうと思ったくらい。成績落ちるから休まなかったけど」
「そっか」
そこで順番が来る。
「じゃあ僕先に出口で待ってるから楽しんできて」
そう言って送り出すと夏澄はとびきりの笑顔を返してくれた。
夏澄を待つ間、僕は思い出していた。
中学の時、一人余っていた僕は一番活発的なグループに人数合わせとして入れられた。
みんな色々と話してくれたし、優しいのはそれ以前から知っていた。
「乗れなくて迷惑がかかるし気を遣わせるから」
と休むつもりと言うと
「一緒に行こう、別に気を遣うとか気にするな」
と言ってくれた。別に乗らなくてもいいからとの言葉と成績のことから行くことにした。
結果は、
「大丈夫、大丈夫乗ろうぜ」
とか誘ってくる。
「乗れば迷惑をかけるから」
と断るとノリが悪いだの言ってくる。
乗っても迷惑、乗らなくても気を遣わせたり悪口を言われる始末。
いくら良いとは言っていても実際行けば楽しんでいるとそのテンションを分けようという好意から誘ってくれる。
そういうものなのだ。
でも夏澄達は違った。仲良しとか少人数っていうのもあるかもしれないけど。
「お待たせっ、公星!」
そう言って降りてくる夏澄は太陽よりも遥かに眩しくて、でも目をそらすことが出来ないほど魅力的だった。




