表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キミのくれたモノ  作者: 山路空太
39/53

39.見えていない

「このまま四階まで行けばいいんだよな?」


「た、多分……」


姫華は俺よりは少し怖がっているようだった。

俺は姫華より一段前に出て進む。

折り返して一度ライトを上に向ける。

よし、何もいない。

無事二階に着く。

そのまま階段を登ろうとライトを階段に向けた瞬間だった。


「うわあぁー」


「きゃあぁー」


髪の長い女の人が目の前の階段に立っていた。

手には白い粉末の入ったポリ袋を持っており、何やらブツブツと呟いている。

さらに、千鳥足で階段をゆっくりと降りてこちらに向かってくる。


俺は姫華の手を引き急いで廊下を走る。


「ま、待って……」


息切れしている姫華の声で足を止める。

振り返ってライトを照らすが追ってきてはいない。


「ご、ごめん。大丈夫?」


「だ、大丈夫。ちょっ……と疲れただけ。ハァ……ゆっくりいこ……」


他にも階段があるはずだ。

そのまま引き返すことなく廊下を進むことにする。


先程よりも警官はかなり少人数だった。

ふと視線を奥へと向けると、怪しく明かりのついた病室が一部屋目に映る。

いかにもここに居ますよ。注意して下さいね。と言わんばかりにそこだけドアが不自然に閉まっている。

挑発なのかフェイクなのか……考えても答えは出ない。


「あそこ何かいそう……」

小声で言われた俺は無言で頷く。


「あそこだけ少し走る?」


「でも私ちょっとまだ……」


「じゃあ俺があの病室に近い方を歩くから、姫華は離れないようにしてて」

姫華は黙って頷く。


目標の病室よりも三部屋手前を通ろうとすると、中から何やら金属音と声がする。

思わず開いたドアの前から光をあてる。


そこにはベッドに鎖で繋がれた人が奇妙な声を出しながら蠢いている。

その場で中を覗いている俺たちを不審に思ったのか、一人の警官が声をかけてくる。


「何見てるんだ?」

その声にも少し驚く。

その間もそれは奇声を発し続けている。

しかし、警官は気にも留めない様子で中を覗く。

次の警官の言葉に、俺たちは顔を見合わせ耳を疑った。


「なんだ何もねーじゃねーか」


たしかに警官はそう言った。

その言葉に俺たちは耳を疑った。

ライトもしっかりと"それ"を照らしていた。

にも関わらずだ。

他の部屋と同様だから驚かなかった?

いや、警官にはあれが見えていない、つまり幽霊だということか。

俺は意味がわからないという顔をしている姫華を置き去りに勝手に一人で納得していた。


「もう行こ……」

姫華の言葉に我に返った。


そしてついに、明かりの病室の前に来る。

慎重に進んで行く。

ガララッ。

不意に勢いよくドアが開く。


「ッ……」

声にならない声を上げる。

しかし、中から出てきたのは警官だった。

ホッと胸を撫で下ろした俺たちだったが、そのまま出てきた警官の背後から全身血まみれの女が出て来る。


身長的に絶妙に見えておらず、急に目の前に現れたと錯覚する。

一度安堵した俺たちには一層恐怖のどん底へと突き落とされた。


しかし、そいつは俺たちを脅かすことなく、警官の背後から離れずについていく。


ふぅー……

ゆっくりと息を整える。

今までの傾向からして、お化けはあまり勢いよく近付いたりはしてこないようだ。


再び前へ進む。

勢いよく近付いてくる事はない。

それさえ分かっていればある程度は恐怖に対抗できる。


突き当たりまで来ると再び階段。

慎重にかつ着実に登っていく。

三階は、二階とは裏腹に眩しいくらいに病室に光が灯っている。

とりあえず無視をして、四階へと上がる。


登ってすぐの所に渡り廊下が見えた。


やっと中間ポイントへと辿り着く。

時計のライトアップ機能で時間を見る。

お化け屋敷に入ってから三十分が経とうとしていた。


「結構広いなここ、かれこれ三十分も歩きっぱなしだぜ」


「確かにそうね。でも三十分しか経ってないのね……」


「あ、俺も思った。色々あったからしんどすぎて一時間にも二時間にも感じられたわ……」


「そうよね。とにかくあと半分頑張りましょう」


「おうっ!」


俺たちは力強く、一歩一歩ゆっくりと、しかし確実にゴールへと近付いて行く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ